公園で楽しく歩くシニアのイラスト

1日5,000〜7,500歩で、アルツハイマー病の進行が遅くなる? 〜歩数の『スイートスポット』が見えてきた〜

「健康のためには 1日1万歩 歩きましょう」―― そう聞いて、「正直、それはちょっとしんどい」と感じたことはありませんか? 実は最近、世界的に有名な医学誌に、少し希望のもてる研究 が発表されました。 「1日5,000〜7,500歩でも、アルツハイマー病の進行を遅らせる可能性がある」 しかも、すでに脳に “アルツハイマー病の早期サイン” が現れている人 にも、その効果が見られたというのです。 私自身、母がアルツハイマー型認知症で施設に入所しているので、こうした研究には自然と目がとまります。今回は、その内容をできるだけわかりやすくお伝えします。 ✅ 1日 5,000〜7,500歩 歩いている人は、ほとんど歩かない人と比べて思考力の低下が 約半分 だった ✅ すでにアミロイドβ(脳のゴミ)がたまっている人にも、運動の効果が認められた 目次 どんな研究だったの? 5,000〜7,500歩が「スイートスポット」 アミロイドβがあっても、運動は意味がある 「タウ」って何? 脳のゴミとの関係 理学療法士として、現場で感じていること いま、私たちにできること おわりに どんな研究だったの? あなた 歩数と脳の話って、なんとなくの話じゃなくて、ちゃんとした研究なんですか? Torapon はい、とてもしっかりした研究なんです。約300人の高齢者を、最大14年間 も追いかけた大規模なもの。順番に中身を見ていきましょう。 今回ご紹介する研究は、米国マサチューセッツ総合病院(Mass General Brigham)の Wendy Yau 氏らのグループが、「Nature Medicine」 という非常に権威ある医学誌に発表したものです(2025年11月3日掲載)。 大きな特徴 対象:認知機能が 正常な高齢者 296人 期間:最大 14年間 の追跡調査 測定:歩数計で測った 1日の歩数 と、脳の検査 場所:ハーバード大学の「加齢脳研究(HABS)」のデータを使用 「歩数」と「脳の変化」の関係を、ここまで長くきちんと追いかけた研究は、世界的にも珍しいものです。 5,000〜7,500歩が「スイートスポット」 あなた やっぱり、たくさん歩けば歩くほどいい……ってことですよね? Torapon それが、うれしい意外な結果だったんです。1日7,500歩あたりで効果は頭打ち。つまり1万歩を無理にめざさなくても大丈夫、ということなんですよ。 研究では、参加者を 1日の歩数によって4つのグループ に分けて比べました。 グループ 1日の歩数 非活動的 3,000歩以下 低活動量 3,001〜5,000歩 中活動量 5,001〜7,500歩 高活動量 7,501歩以上 その結果、注目すべきことがわかりました。 ...

May 8, 2026 · 2 分
夜空の下、月明かりにそっと照らされる脳のイラスト

ぐっすり眠ると、脳が掃除される? 〜眠りと脳のふしぎな関係〜

「最近、ぐっすり眠れていますか?」 夜中に何度も目が覚めたり、朝起きても疲れが残っていたり——。 そんな日が続くと、なんとなく頭がぼんやりして、集中力も落ちてきますよね。 でも、もし「睡眠」が、ただの休憩ではなく、脳の中をきれいに掃除する大切な時間だったとしたらどうでしょう? 実は、2012年に発見されたある仕組みによって、それが本当のことだと分かってきました。 今回はその仕組み——「グリンパティック・システム」をやさしくご紹介します。 この記事のポイント ✅ 脳には、寝ている間に老廃物を流す独自の「掃除システム」があります ✅ そのカギを握るのは、脳脊髄液(のうせきずいえき)と、 星型の細胞「アストロサイト」です ✅ 睡眠不足は、認知症の原因物質の蓄積につながる可能性があります 目次 そもそも「グリンパティック・システム」って? 寝ている間、脳の中で何が起きているの? 掃除がうまくいかないと、どうなる? どうやって守ればいいの? まとめ そもそも「グリンパティック・システム」って? あなた グリンパティック……? なんだか難しそうな名前で、読む前からくじけそうです。 Torapon 名前は難しそうですが、中身はシンプルなんです。ひとことで言うと、眠っている間に脳のゴミを水で洗い流すしくみ。それだけ分かれば十分ですよ。 聞き慣れない言葉ですが、難しく考えなくて大丈夫です。 脳の中を流れる水(脳脊髄液)が、老廃物を洗い流してくれる仕組み——そう思っていただければ十分です。 私たちの体には「リンパ系」という、老廃物や余分な水分を集めて流す仕組みがあります。 ただ、脳の中にはリンパ管がほとんど通っていません。 ではどうやって脳の中の “ゴミ” を片付けているのか——。 それを2012年に解き明かしたのが、デンマークの神経科学者ネーデルガード博士のチームでした。 彼らは脳特有の “もう一つのリンパ系” として、この仕組みをグリンパティック・システムと名付けました。 「グリア(脳の支援細胞)+リンパ」という意味の造語です。 脳の中にも、私たちが眠っている間にせっせと働く"掃除部隊"があったのです。 寝ている間、脳の中で何が起きているの? あなた 寝ているだけなのに、脳の中でそんなに色々なことが起きているんですか? Torapon そうなんです。眠っている間の脳は、休んでいるどころか 『そうじタイム』 の真っ最中。3つの主役が力を合わせて働くんですよ。順に見てみましょう。 このシステムの主役は、3人います。 1. 脳脊髄液(のうせきずいえき)——脳と背骨の中を流れる、無色透明の液体です。 2. アストロサイト——脳の中で神経細胞を支える、星のような形をした細胞です。 3. 血管の “ゆっくりした拍動”——心臓に合わせて広がったり縮んだりするポンプの動きです。 眠りに入ると、これらが連携して動き始めます。 ① 細胞の “すき間” が広がる ノンレム睡眠(深い眠り)に入ると、脳の中の興奮を高める物質(ノルアドレナリン)の量がぐっと下がります。 すると、脳の細胞が少し縮み、細胞と細胞のすき間が約60%も広がることが分かっています。 このすき間こそが、脳脊髄液の “通り道”。 広がった通り道を、液体が一気に流れやすくなるのです。 ② 脳脊髄液が流れ込む 血管の周りには、ほんのわずかな空間(血管周囲腔)があります。 脳脊髄液は、ここを通って脳の奥深くまで入り込み、老廃物を集めて再び外へと運び出します。 ...

May 15, 2026 · 1 分
脳のしわの山の部分はきれいに片づき、谷の部分には落ち葉が残っている様子を、庭の手入れにたとえたイラスト

アミロイドが消えた場所には、タウも少なかった 〜ひとりの方の脳が教えてくれたこと〜

アルツハイマー型認知症の新しい薬は、脳にたまった「ゴミ」を取りのぞく薬です。 では、ゴミを取りのぞくと、脳の中では本当に何かが変わるのでしょうか。 2026年、アメリカのペンシルベニア大学のチームが、薬の治療を受けたあとに亡くなった、ひとりの男性の脳をくわしく調べた結果を発表しました。 ✅ 1人だけを調べた報告です。薬でアミロイドがほとんど消えていた場所では、もうひとつのゴミ「タウ」も、治療を受けていない人の脳にくらべて少なくなっていました ✅ 一方、同じ脳の中でもアミロイドが残っていた場所では、タウは治療を受けていない人と同じくらいありました ✅ 使われたのは、いまは販売が終わっている古い薬です。「早く治療すれば防げる」とまでは、この1例からは言えません 目次 アミロイドとタウ、ふたつのゴミ 亡くなったあとの脳を、くわしく調べた 「山」は片づき、「谷」には残っていた この研究から言えること、言えないこと いま、私たちにできること おわりに 参考にした情報 アミロイドとタウ、ふたつのゴミ アルツハイマー型認知症の脳には、2種類のゴミがたまることが知られています。 アミロイドβ(ベータ)……神経細胞の外にたまる、ねばねばしたたんぱく質のかたまり。先にたまりはじめます タウ……神経細胞の中にたまり、もつれた糸のようになるたんぱく質。神経細胞が弱っていくことと、深く関係していると考えられています いま日本で使われている新しい薬(レカネマブ・ドナネマブ)は、点滴でアミロイドβを取りのぞく薬です。 ただ、「アミロイドを取りのぞけば、そのあとのタウや、脳がやせていくことも抑えられるのか」は、人の脳では、まだよく分かっていませんでした。 あなた 薬の試験で「進行がゆるやかになった」と聞きましたが、それとは違うんですか? Torapon 試験で分かるのは、もの忘れなどの症状の変わり方です。脳の中でタウがどうなったかを、目で見て確かめるには、亡くなったあとに脳を調べるしかありません。そういう機会は、とても少ないんです。 亡くなったあとの脳を、くわしく調べた 調べられたのは、50代で、軽いもの忘れの段階と診断された男性です(軽度認知障害=日常生活はおおむね自分でできるが、もの忘れが目立つ段階のこと)。 この方は、アルツハイマー型認知症になりやすさに関わる遺伝子の変化(TREM2という遺伝子)を持っていました。 薬の試験に参加し、アデュカヌマブという抗アミロイド薬を受けた 4年半のあいだに、30回の点滴を受けた 最後の点滴から4年後に亡くなり、亡くなったあとに脳がくわしく調べられた 研究チームは、この方の脳を顕微鏡でくわしく調べ、治療を受けていない14人の脳(年齢、または同じ遺伝子の変化の有無をそろえた人たち)とくらべました。 このように、ひとりの方を、時間をかけてくわしく調べた報告を「症例報告」といいます。たくさんの人を集めてくらべる研究とは違い、ひとりの中で起きたことを細かく見られる反面、「ほかの人でも同じか」は分かりません。 さらに、生きているあいだに撮っていた画像検査(PET=脳にたまったゴミを映す検査、MRI=脳の形を映す検査)も、あわせて調べています。 あなた アデュカヌマブって、聞いたことがない薬です。 Torapon アメリカで最初に、早い段階の承認を受けた抗アミロイド薬です。ただ、いまは販売が終わっていて、日本では使われていません。いま日本で使われているレカネマブやドナネマブとは、別の薬だということは覚えておいてください。 「山」は片づき、「谷」には残っていた 脳の表面には、たくさんの「しわ」があります。盛り上がった山の部分と、その間の谷の奥があります。 調べてみると、この方の脳は、場所によってアミロイドの残り方がまだらでした。 場所 アミロイド タウ しわの山 ほぼ消えた 少なめ しわの谷の奥 多く残った 同じくらい ※タウの量は、治療を受けていない14人の脳とくらべたものです。 つまり、同じひとりの脳の中で、「アミロイドがよく取れた場所」と「取れなかった場所」が隣り合っていたのです。 さらに、生前のMRIを見直すと、アミロイドが少なくなった場所では、脳がやせていくスピードがゆるやかだったという関係も見られました。 アミロイドが残った場所でも、脳の表面に近い層では量が少なく、深い層にたくさん残っていました。薬が届きやすい場所と、届きにくい場所があるのかもしれません。 あなた それなら、アミロイドをしっかり取れば、タウも防げるということですか? Torapon 研究チームも「しっかり取りきることが必要なのかもしれない」と考えています。ただ、これは1人の脳で見られたことです。アミロイドが取れたからタウが少なかったのか、もともとタウがたまりにくい場所だったからアミロイドも取れやすかったのか、そこまでは決められません。 この研究から言えること、言えないこと 言えること 薬でアミロイドがほとんど消えた場所では、タウが少なく、脳のやせ方もゆるやかだった 取れ方には「むら」があり、しわの山では取れやすく、谷の奥では残りやすかった 言えないこと 1人だけの報告です。ほかの人にも同じことが起きるかは分かりません アミロイドを取ったことが「原因」で、タウが少なくなったとまでは言えません 使われたのはアデュカヌマブで、いま日本で使われている薬で同じことが起きるかは分かりません 報道では、研究チームが「早い段階で、しっかり取りのぞくことが大事なのかもしれない」と話しています。また、薬の試験はふつう1年半ほどで結果を判断するため、もっと長い時間がたってから出てくる違いを見のがしているかもしれない、とも指摘しています。 ただし、これは研究チームの「そうかもしれない」という考えで、まだ確かめられたわけではありません。この1例だけで「早く治療すれば認知症を防げる」と分かったわけではありません。 ...

October 19, 2026 · 1 分
研究と希望のイメージ

アルツハイマー病に「もうひとつの引き金」? 〜脳の“発電所”をふさぐタンパク質の発見〜

「認知症の研究は、いまどこまで進んでいるの?」 ご家族のことを思って、そんなふうに気になっている方も多いと思います。 今回は、アルツハイマー病の研究の最前線から、また新しい発見が届きました。 アルツハイマー病の脳で「細胞のエネルギー工場」をふさいでしまうタンパク質が見つかった ただし、これは まだ研究の段階 の話です。期待しすぎず、でも前向きに――そんな気持ちで読んでいただければと思います。 ✅ アルツハイマー病の脳では「GRK2(ジーアールケーツー)」というタンパク質がかたまり、細胞の“発電所”であるミトコンドリアをふさいでいた ✅ それによって、認知症のもとと言われる アミロイドβ(ベータ)が増える悪循環 が起きていた ✅ マウスの実験で、このかたまりを防ぐ候補の物質を使うと、神経細胞の傷みがやわらいだ。ただし まだ動物実験の段階 で、すぐ使える薬ではありません 目次 そもそも「ミトコンドリア」って? 見つかった新しい「悪循環」の話 いま私たちにできること おわりに そもそも「ミトコンドリア」って? 私たちの体は、目に見えないほど小さな「細胞(さいぼう)」が、たくさん集まってできています。その細胞の一つひとつの中に、体を動かすためのエネルギーをつくる、小さな工場 があります。これが「ミトコンドリア」です。車でいえばエンジン、家でいえば電気をつくる発電所のような、大切な役わりをしています。 脳の神経細胞は、とてもたくさんのエネルギーを使います。ですから、このミトコンドリアが元気でないと、神経細胞もうまくはたらけません。ミトコンドリアの元気と脳の元気は、深くつながっている と考えられています。 見つかった新しい「悪循環」の話 スイスの工科大学(ETHチューリッヒ)のチームが、この「発電所のトラブル」の犯人のひとつをつきとめました。 カギになっていたのは、「GRK2(ジーアールケーツー)」というタンパク質です。アルツハイマー病の脳では、このGRK2の“はたらかなくなった形”が かたまりになってたまり、ミトコンドリアの出入り口をふさいでいたのです。 すると発電所がうまく回らなくなり、認知症のもとと言われる アミロイドβ(ベータ)が増える。そのアミロイドβが、またGRK2のかたまりを増やす――という 「悪循環」 が起きていました。 そこで研究チームが、このかたまりができるのを防ぐ候補の物質(「化合物10」と呼ばれるもの)をマウスに使ったところ――発電所のはたらきが戻り、神経細胞の傷みがやわらいだ ことが確認されました。 ※ この研究は2026年、医学誌『Cell Reports Medicine』に発表されたものです。ヒトの脳の組織とマウスで調べた段階 であり、人に使える薬ができたわけではありません。研究チームはこれから、薬の開発を一緒に進める企業を探す段階だとしています。 以前ご紹介した「炎症スイッチ」の話と同じく、これも 「新しい治療の的(まと)が見つかった」 という前向きなニュースです。 あわせて、こちらの記事もどうぞ。 👉 アルツハイマーの「炎症スイッチ」が見つかった? いま私たちにできること 「新しい薬を待つ」だけでなく、今日からできること もあります。細胞の発電所(ミトコンドリア)を元気に保つには、こんな生活習慣が役立つと考えられています。 ✅ 適度な運動 を続ける(歩く・体操など。ミトコンドリアは運動で増えるといわれます) ✅ しっかり眠る(睡眠中に脳の掃除が進みます) ✅ 野菜・魚を中心としたバランスのよい食事 ✅ 食べすぎに気をつける(腹八分目も体にやさしいといわれます) 特別なことではなく、いつもの暮らしの延長です。 おわりに 「炎症」に続いて、今度は「細胞の発電所」。アルツハイマー病を、いろいろな角度から見直す研究が、世界中で一歩ずつ進んでいます。 すぐに治療が変わるわけではありませんが、手がかりは確実に増えています。私たちは過度に不安にならず、今できる生活習慣を大切にしながら、こうした明るいニュースを待ちたいですね。 📚 あわせて読みたい二冊 PR 生涯健康脳 こんなカンタンなことで脳は一生、健康でいられる! ...

June 19, 2026 · 1 分