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November 3, 2023 · 0 分
やわらかい色合いで描かれた脳のイラスト

認知機能ってそもそも何? 〜記憶・注意・判断を支える「脳のしくみ」を知る〜

「最近、人の名前がスッと出てこない」 「やることを順序立てて進めるのが、前より大変になってきた」―― そんな小さな引っかかりを感じたことはありませんか? そもそも私たちの「認知機能」とは、いったいどんな能力で、脳のどこが担っているのでしょうか。 これを知っておくと、年を重ねたときに何が起きているのか、どこを大切に守ればいいのかが、ぐっと見通せるようになります。 今日は、認知機能の話の いちばんはじめ――脳のしくみのお話を、できるだけやさしくまとめてみます。 ✅ 認知機能は、記憶・注意・判断などいくつもの能力の集まり。それぞれ脳の違う場所が担っています ✅ 脳は 単独の部屋 ではなく、チームプレー(ネットワーク) で働いています ✅ 「衰える場所」を知れば、「守るべき場所」が見えてきます 目次 そもそも「認知機能」とは? 脳の主役① 前頭前皮質 〜段取りと判断の司令塔〜 脳の主役② 海馬 〜記憶の入り口〜 注意のスイッチを切り替える「サリエンスネットワーク」 脳は「ネットワーク」で動いている 最新の話題:脳をささえる「もう一つの細胞」アストロサイト まとめ おわりに そもそも「認知機能」とは? 「認知機能」と聞くと、なんとなく 記憶力 のことだけを思い浮かべる方が多いかもしれません。 でも実は、認知機能はもっと幅広い能力の集まりです。 代表的なものを並べてみると―― 記憶:新しいことを覚える/思い出す 注意:必要な情報に目を向ける/よそ見をしない 実行機能:段取りを立てる・判断する・優先順位をつける 言語:話す・聞く・読む・書く 視空間認知:地図を読む/物の位置を把握する これらが組み合わさってはじめて、私たちは買い物に行ったり、料理を作ったり、人と会話したりできるわけです。 つまり「認知機能の低下」と一口に言っても、どの能力が、どのくらい衰えているかで見え方はずいぶん違ってきます。 脳の主役① 前頭前皮質 〜段取りと判断の司令塔〜 おでこのすぐ裏側にあるのが 前頭前皮質(ぜんとうぜんひしつ) と呼ばれる場所です。 ここは、人間の脳の中でいちばん「人間らしさ」を支えている部分とも言われています。 担っているのは―― 計画を立てる(旅行の段取り、料理の手順) 判断する(信号を渡るタイミング、買うかどうかの決断) ワーキングメモリ(一時的に情報を頭の中に置いておく能力) がまんする(衝動を抑える) なかでも前頭前皮質の「外側」にある 背外側前頭前皮質(はいがいそく ぜんとうぜん ひしつ) という部分は、注意を維持して、頭の中の情報を操作するときに大活躍します。 たとえば「電話番号を聞いて、それをメモするまでの数秒覚えておく」――こんなとき、ここがフル回転しています。 加齢やストレスでこの場所が弱ると、「段取りが苦手になる」「気が散りやすくなる」といった変化が出やすくなります。 脳の主役② 海馬 〜記憶の入り口〜 耳のすぐ内側、脳の奥のほうに 海馬(かいば) と呼ばれる、タツノオトシゴのような形をした小さな器官があります。 名前は知らなくても、「認知症で最初に縮みやすい場所」として聞いたことがあるかもしれません。 海馬の役割は、ひとことで言えば 「記憶の入り口」。 ...

May 12, 2026 · 1 分
やさしい色合いで描かれた、年を重ねていく脳のイラスト

認知機能はなぜ衰えるの? 〜脳の中で起きている4つの変化〜

「同じ話を何度かしてしまう」 「テレビのリモコンを置いた場所を、つい忘れてしまう」―― そんな小さな変化に気づくたび、「これは年のせい?」「それとも何かのサイン?」 と心配になることはありませんか? 前回の記事 では、認知機能を支える脳の主役たち(前頭前皮質・海馬・サリエンスネットワーク)をご紹介しました。 今回はその続きとして、「では、それらが、どんなふうに衰えていくのか?」 をテーマにお話しします。 仕組みを知っておくと、「むやみに怖がること」も「逆に油断すること」も、少なくなります。 ✅ 脳は加齢で 少しずつ縮みます。でも、衰え方には個人差があります ✅ ポイントは 脳の萎縮・ミエリンの劣化・ネットワークの不調・ストレスや生活習慣 の4つ ✅ 認知症は「ある日突然」ではなく、何年もかけて少しずつ進んでいきます 目次 そもそも脳は何歳まで成長するの? 脳の萎縮 〜灰白質がやせていく〜 ミエリンの劣化 〜情報の通り道が傷んでくる〜 ネットワークの不調 〜切り替えが鈍くなる〜 ストレスと生活習慣 〜脳をすり減らす要因〜 認知症のタイプによってメカニズムも違う まとめ おわりに そもそも脳は何歳まで成長するの? 意外に思われるかもしれませんが、脳は20代の前半くらいまで「育っている途中」 です。 特に、脳の中の電線にあたる「ミエリン」(神経の通り道を保護する膜)は、20代半ばでようやく完成するといわれています。 つまり―― 0〜25歳ごろ:脳がぐんぐん育つ時期 30〜50代:成熟していて、もっとも安定している時期 60代以降:少しずつ機能が変化していく時期 「もう年だから」と思いがちですが、60〜70代で新しいことを学んでも、ちゃんと脳の中で回路ができることが分かってきています。 これを 神経可塑性(しんけい かそせい) と呼びます。 衰えの話の前に、ぜひこの 「脳は変わり続ける」 という事実を、いちばんはじめに知っておいてください。 脳の萎縮 〜灰白質がやせていく〜 脳の表面は、灰白質(かいはくしつ) と呼ばれる神経細胞の集まりでできています。 年を重ねると、この灰白質が 少しずつ薄く・小さく なっていきます。これが 脳の萎縮(いしゅく) と呼ばれる変化です。 萎縮しやすい場所 特に縮みやすいのが、前回ご紹介した2か所―― 前頭前皮質:段取り・判断を担う場所 海馬:記憶の入り口 だからこそ、年を重ねると、 「段取りを立てるのが面倒」になったり 「新しいことが頭に入りにくい」と感じたり する変化が出てきます。 でも、これは「普通の老化」 ここで大事なのは、年相応の萎縮は誰にでも起きるということ。 健康な脳でも、毎年わずかずつ縮みます。 それでも何ら困ることなく暮らせている方が大勢いらっしゃいます。 「萎縮=認知症」ではありません。 萎縮があっても、認知機能が保たれている方はたくさんいます。 ...

May 13, 2026 · 1 分
窓辺で本を読み、語り合う年配のふたりの水彩画

いちばん「頭が働く」のは何歳ごろ? 〜研究が示した「55〜60歳」という答え〜

「人の名前が、すぐに出てこない」 「新しい機械の使い方を覚えるのが、若いころより時間がかかる」 そんなふうに感じて、「もう歳だから」とため息をついたことはありませんか? ところが2025年、その常識をゆさぶる研究が発表されました。心の働きを総合すると、いちばん高くなるのは20代ではなく、55〜60歳ごろだというのです。 理学療法士として現場に立っていると、年齢を重ねた方の落ち着いた判断に、何度も助けられてきました。今回は、その感覚を裏づけるような研究のお話です。 ✅ 「頭のよさ」は一つではありません。覚えるスピードは20代がピークでも、知識・ことば・経験は60代まで伸びていくことがわかっています ✅ 16の側面をまとめると、総合的なピークは55〜60歳ごろ。下がりはじめるのは65歳ごろ、下がり方が大きくなるのは75歳以降と報告されました ✅ ただし、これは平均の傾向の話です。個人差はとても大きく、「何歳だからこう」と決めつけられるものではありません 目次 「頭のよさ」は、ひとつじゃない 16の側面を足し合わせたら、山のかたちになった 70代・80代まで伸びつづけるものもある この研究には、限界もあります 現場で感じていること いま私たちにできること おわりに 「頭のよさ」は、ひとつじゃない あなた 頭の働きは、若いころがいちばんいい……そう思っていました。 Torapon 半分は当たっていて、半分はちがうんです。「頭のよさ」には少なくとも2種類あると考えられていて、その2つは年齢とともに反対の方向に動くんですよ。 心理学では、「頭のよさ」を大きく2つに分けて考えます。 覚えるスピードや、初めての問題を解く力(専門的には「流動性知能」といいます)……こちらは20代ごろがピークで、そのあとゆっくり下がっていきます 知識・ことば・積み上げた経験(「結晶性知能」といいます)……こちらは60代ごろまで伸びつづけると報告されています 「人の名前が出てこない」「新しい機械に手間取る」というのは、前者の変化です。たしかにそこは、年齢とともにゆっくりになります。 でもそのあいだに、もう一方はずっと育ち続けているのです。長年つちかった知識、ことばの豊かさ、「こういうときは、こうしたほうがいい」という勘どころ。それらは、若いころには持っていなかったものです。 脳の中で何が起きて「ゆっくりめ」になるのかは、こちらの記事でくわしくお話ししています。 👉 認知機能はなぜ衰えるの?〜脳の中で起きている4つの変化〜 16の側面を足し合わせたら、山のかたちになった ここで紹介したいのが、オーストラリアの西オーストラリア大学のジル・ギニャック博士と、ポーランドのワルシャワ大学のマルチン・ザイェンコフスキ博士による研究です。2025年に、心理学の専門誌『Intelligence(インテリジェンス)』に発表されました。 二人が取り組んだのは、こんな疑問です。 「覚える力のピークが20代なら、どうして仕事で成果を出す人のピークは、50代後半なのだろう?」 そこで研究チームは、「人生をうまく運ぶ力」に関わる9つの分野・16の側面を選び出しました。推論する力、記憶、考えるスピード、知識、感情をあつかう力、まじめさ、気持ちの安定、お金についての判断力、道徳的な考え方、思いこみに振り回されにくさ……といったものです。 そして、それぞれについて「年齢とともにどう変わるか」を既存の大規模なデータから集め、同じものさしにそろえて、一本の指標にまとめました。 その結果が、こちらです。 18歳からぐんぐん上がり、55〜60歳ごろがいちばん高い 65歳ごろから下がりはじめ、75歳以降は下がり方が大きくなる 計算の仕方を変えても、ピークはやはり55〜60歳ごろ あなた 55〜60歳がピーク……。ちょうど、いちばん忙しい時期ですね。 Torapon そうなんです。会社で責任のある立場を任される時期と、ぴったり重なります。研究チームも、「仕事で成果が出るピークと、この山の頂上はほぼ同じ」だと述べています。経験を積んだ人が現場で頼りにされるのは、気のせいではなかった、というわけですね。 なお、「経験でみがかれる力」を重く見て計算した場合、85歳ごろの高さは18歳のころと同じくらいになったとも報告されています。ただし中身は別もので、得意なことと苦手なことが入れ替わっている——そんなイメージです。 70代・80代まで伸びつづけるものもある この研究でとくに興味深いのは、60歳を過ぎても伸びつづけるものがあった点です。 「もったいない」に引きずられにくい……たとえば、あまり面白くない映画を観ていて、「お金を払ったのだから、最後まで観ないと損だ」と思って座り続けてしまう。こういう判断のくせは、だれにでもあります。ところが年齢を重ねた方は、ここで上手に切り上げられると報告されています。しかもこの力は、70代・80代まで伸びつづける可能性があるそうです お金についての判断力……60代後半ごろまで伸びていきます 道徳的な考え方……年齢とともに深まっていくと報告されています まじめさ(几帳面さ)や、気持ちの安定……60代から70代にかけて、いちばん高くなっていきます いっぽうで、中年以降にゆっくり下がっていくものもありました。頭の切り替えの早さ、相手の考えを読みとる力(65歳ごろから)、そして「あれこれ考えたい」という意欲などです。 あなた 年をとると、頑固になるものだと思っていました。 Torapon おもしろいですよね。あわてて飛びつかず、落ち着いて決められる——それも立派な力です。若さの「速さ」とはちがう種類の強さが、年齢とともに育っている、ということなんです。 この研究には、限界もあります ここは大事なところなので、正直にお伝えします。この研究には、いくつか気をつけて読むべき点があります。 多くが「横断データ」である……同じ人を何十年も追いかけたのではなく、いろいろな年齢の人を、同じ時期に比べたものが中心です。そのため、「年齢による変化」と「育った時代のちがい」が混ざっている可能性があります 欧米のデータが中心……主に欧米の豊かな国のデータから集められています。日本を含む他の地域でも同じ形になるかは、これから調べる必要があります あくまで「平均」の話……人によるちがいは、とても大きいものです 研究チームは論文の中で、「高度な判断を求められる仕事には、40歳未満や65歳以上の人は向きにくいかもしれない」という見方にも触れています。ただ、これは平均から導いた一般論です。 年齢だけを見て「この人はもう」と判断するのではなく、その人が実際にどうかを見る。研究者自身も、そこを強調しています。 現場で感じていること 理学療法士として働いていると、年齢を重ねた方の「落ち着き」に助けられる場面が、たしかにあります。 ...

July 30, 2026 · 1 分
運動・食事・人とのつながり・睡眠を象徴するやさしいイラスト

今日から始める「脳の守り方」 〜4本柱で続ける認知機能の予防〜

第1回 では脳の主役たちを、 第2回 では脳が衰えていく仕組みを、ご一緒に見てきました。 ここまでくると、こんな声が聞こえてきそうです。 「で、結局、なにをすればいいの?」―― ご安心ください。最終回の今回は、今日から始められる「脳の守り方」 を、4つの柱にまとめてご紹介します。 特別な道具も、難しい知識も必要ありません。 毎日の暮らしの中で、少しずつ積み重ねるだけ です。 ✅ 守り方の柱は 「運動」「食事」「人とのつながり」「睡眠」 の4つ ✅ どれか1つでもOK。「これなら続けられそう」 から始めるのがコツ ✅ 脳は 何歳になっても変わる力(神経可塑性) を持っています 目次 大前提:脳は何歳になっても変わる 運動 〜歩くことから始められる、いちばん確かな予防策〜 食事 〜血管をいたわることが、脳を守ること〜 人とのつながり 〜「認知的予備能」を育てる暮らし方〜 睡眠 〜眠っている間に、脳は記憶を整えている〜 気になったら早めに専門医へ まとめ おわりに 大前提:脳は何歳になっても変わる 予防のお話に入る前に、もう一度お伝えしたい大事なことがあります。 それは、脳は何歳になっても新しい回路を作る力を持っているということです。 専門用語では 神経可塑性(しんけい かそせい) と呼ばれます。 60歳から新しい楽器を始めた方 70歳から英会話を学び始めた方 80歳から絵を描き始めた方 そういう方たちの脳をMRIで見ると、実際に脳の構造が変わっていることが研究で報告されています。 「もう年だから」と思った瞬間に、脳の成長は止まりがちです。 「やってみよう」と思った瞬間から、脳はまた動き出します。 ここから紹介する4つの柱は、その「動き出した脳」を 育て、守る ための土台です。 運動 〜歩くことから始められる、いちばん確かな予防策〜 研究で いちばんはっきり効果が示されているのが、運動 です。 なかでも 有酸素運動(ウォーキング、軽いジョギング、水中歩行など)は―― 前頭前皮質や海馬の 灰白質を増やす 左右の脳をつなぐ 連絡網を強くする ミエリン(神経の保護膜)の修復を助ける ことが分かっています。 どのくらい、何を? 目安は1日5,000〜7,500歩。これだけで認知症リスクがしっかり下がるという研究があります 少し息が弾むくらいの早歩き を、合間に1〜2分でも入れる 週に2〜3回、ストレッチや軽い筋トレも組み合わせる 詳しくは、こちらの記事もあわせてどうぞ。 👉 1日5,000〜7,500歩で認知症リスクがぐっと下がる 👉 認知症リスクを45%下げる運動習慣 ...

May 14, 2026 · 2 分
手をつなぐ老夫婦のイラスト

認知症の種類とMCIをやさしく解説 〜母のアルツハイマーから学んだ早期対応の大切さ〜

ご家族の物忘れが増えてきた、同じことを何度も聞かれる、財布や鍵をしまった場所を忘れる…。 そんな様子を見て、**「もしかして認知症かも」**と心配されていませんか? 「でも、どこに相談したらいいの?」 「本人が病院に行きたがらない」 そう悩んで、一歩踏み出せずにいる方も多いと思います。 私の母も、2017年頃から物忘れの様子が目立つようになり、のちにアルツハイマー型認知症と診断されました。家族として辛い時期を経験しましたが、今になって、こう思うことがあります。 「もっと早く相談していれば…」 と。 この記事では、認知症の種類とMCI(軽度認知障害)をやさしく解説しつつ、私自身の家族の経験から学んだ「早期対応の大切さ」をお伝えします。 ✅ 認知症は 1種類じゃない。主に4つのタイプがあります ✅ MCI(軽度認知障害)は認知症の一歩手前。気づいた時が一番大事なタイミング ✅ まずは 地域包括支援センター へ。無料で誰でも相談できます 目次 そもそも認知症とは? 認知症の主な4種類 軽度認知障害(MCI)— 認知症の一歩手前 我が家の経験 — 母のアルツハイマーと家族の時間 困ったときの相談先 まとめ — チェックリスト おわりに そもそも認知症とは? 認知症とは、いろいろな原因で脳の働きが弱くなり、生活に支障が出てくる状態のことを言います。 「物忘れ」と「認知症」は、似ているようで違います。 加齢による物忘れ 認知症 忘れる範囲 体験の 一部 を忘れる 体験 そのもの を忘れる 自覚 本人が気づいている 本人が気づきにくい 日常生活 支障はない 支障が出てくる たとえば、こんな違いがあります。 「朝ご飯に何を食べたか思い出せない」のは 加齢の物忘れ 「朝ご飯を食べたこと自体を覚えていない」のが 認知症のサイン ここに、大きな違いがあります。 認知症の主な4種類 認知症と一口に言っても、原因となる病気は大きく分けて 4つ あります。 種類 おおよその割合 主な特徴 アルツハイマー型認知症 約 6割 物忘れから始まり、ゆっくり進行 血管性認知症 約 2割 脳梗塞・脳出血が原因。手足の麻痺を伴うことも レビー小体型認知症 約 1割 幻視、パーキンソン症状(手のふるえ・小刻み歩行) 前頭側頭型認知症 数% 性格の変化、社会のルールを守れなくなる ※ 厚生労働省・国立長寿医療研究センターの資料をもとにまとめています。 ...

May 4, 2026 · 2 分
地域の仲間と一緒に歩く高齢者のイメージ

『何を、どれくらい』のヒントが見えてきました 〜MCIから始める運動の最適解〜

「MCI(軽度認知障害) と言われたけれど、いったい何から始めればいいのか分からない…」 「運動がいいのは分かるけど、 何を、どれくらい やれば本当に効くのかしら?」 そんなお声を、地域の体操教室や介護現場でよく耳にします。 実は、2026年に入ってから MCIや軽度の認知症の方を対象にした運動研究 が立て続けに公表されました。 中身を読んでみると、これまで「とりあえず体を動かしましょう」と曖昧になっていた部分に、 具体的な答えのヒント が見えてきています。 今日は、特に注目したい 2つの研究 を、現場の目線でやさしくご紹介します。 ✅ 「何を、どれくらい」が見えてきました:複数の運動を組み合わせて、週3回以上 がひとつの目安です ✅ 続けることが何より大切:5年間の追跡では、参加率60%以上 のグループに認知機能の安定した経過傾向がみられました ✅ 一人で頑張らないこと:地域の仲間と一緒にやると 長続きしやすい——これが「効く運動」の隠れた条件かもしれません 少し長めの記事になりますので、気になるところからお読みください。 そもそも:MCI(軽度認知障害)ってどんな状態? 研究①:MCIの方に「どんな運動が効く」のか? 研究②:5年続けると、本当に差が出るのか? 「組み合わせる」と「続ける」のかけ算 家でできる組み合わせ運動の例 Toraponの現場から:地域体操教室で感じていること いま私たちにできること おわりに 〜進行しても、遅らせることはできる〜 そもそも:MCI(軽度認知障害)ってどんな状態? MCI(エム・シー・アイ) は Mild Cognitive Impairment の略で、日本語では「軽度認知障害」と呼ばれます。 ひとことで言うと、 「年相応の物忘れ」と「認知症」の あいだの状態 です。本人やご家族が「あれ?」と気付くことはあっても、まだ日常生活には大きな支障が出ていない段階のことを言います。 ただ、ここからが大事な話で、MCIは そのままにしておくと数年で認知症に進む方 もいれば、 元の状態に戻られる方や、長く安定したまま過ごされる方 もいらっしゃいます。 つまり、MCIは 「いま何をするか」で先が変わってくる段階 ——「分かれ道」のような時期です。 だからこそ、 「何を、どれくらいやればいいのか」 をできるだけ具体的に知っておきたいですよね。 研究①:MCIの方に「どんな運動が効く」のか? ひとつ目は、 MCIの方にどんな運動が一番効くのか を世界中の研究をまとめて比較した報告です(ネットワークメタ解析 と呼ばれる手法)。 複数のランダム化比較試験を集めて、 有酸素運動(ウォーキング・自転車など) 筋トレ(レジスタンス運動) バランス運動(太極拳・体操など) デュアルタスク(二重課題) 運動 を、 どれが一番認知機能を改善するか という観点で比べたものです。 ...

May 20, 2026 · 2 分
縁側でくつろぐシニアご夫婦のイラスト

日本人の認知症、約4割は予防できる 〜カギは「難聴」と「運動不足」〜

「認知症は、年をとれば誰でもなるもの」「家系だから、私もきっと……」―― そんなふうに、半ばあきらめてしまっている方は、いらっしゃいませんか? 実は、世界的に権威のある医学誌『ランセット』の専門委員会が、こう報告しています。 「認知症のリスク要因の約45%は、生活習慣で管理・遅らせることができる」 そして 2026年1月、日本人を対象にした最新研究 が、その姉妹誌である 『The Lancet Regional Health – Western Pacific』 に掲載されました。 東海大学の和佐野浩一郎先生らによる研究で、結論はこうです。 「日本人でも、最大で約 38.9% の認知症は、理論上 予防できる」 そして、日本でとくに大きな影響を持つのが、「難聴」と「運動不足」 だったのです。 ✅ 14のリスク要因を合計すると、日本人でも 約4割 の認知症が予防可能と推計 ✅ 日本でとくに影響が大きい3因子は 難聴・身体不活動・高LDLコレステロール ✅ 早めの対策(聴覚ケア・運動・健診)で、年間 約20万人 の発症を抑えられる可能性 目次 そもそも「14のリスク因子」って? 日本人で大きい3つの因子 なぜ「難聴」が最大のカギ? 14因子を年代別に整理してみる いま、私たちにできること おわりに そもそも「14のリスク因子」って? あなた 認知症って、遺伝や年のせいでどうしようもない……と思っていました。本当に自分で減らせるものなんですか? Torapon いい質問ですね。もちろん年齢や体質も関係します。でも研究では、生活や環境を整えることで 減らせるリスク が14個も見つかっているんです。ひとつずつ見ていきましょう。 きっかけになったのは、世界の認知症研究をリードしている 「ランセット委員会」 が、2024年に発表した報告書です。 そこでは、認知症になるリスクを上げる要因のうち、「自分や社会の力で変えられるもの=修正可能なリスク因子」 が 14個 挙げられました。 ざっくりまとめると── 「生まれつきや遺伝で決まるものではなく、生活や環境を整えることで減らせるリスク」が、世界全体では認知症の 約45% を占めている。 これだけでも十分驚きの数字ですが、「日本ではどうなのか?」が気になるところです。 そこに答えを出してくれたのが、今回の和佐野先生らの研究です。 日本人で大きい3つの因子 あなた 1位が『難聴』なんですね。耳の聞こえが認知症と関係するなんて、ちょっと意外です……。 Torapon そう思いますよね。でも近年、耳の聞こえは脳への大切な入り口 として注目されているんです。この表の数字の意味も、あとでやさしく解説していきますね。 研究では、日本の国民健康・栄養調査や大規模調査のデータを使って、「日本人の中で、どの因子がどれくらい大きいか」 を計算しました。 ...

May 8, 2026 · 2 分
耳に手を当てて聞き返しているシニア男性のイラスト

補聴器は、いつから使えばいいの? 〜「38.75」という研究が示した目安〜

「えっ? もう一回言って」が、口ぐせになっていませんか。 テレビの音量を上げたら、家族に「大きい」と言われた。3人以上で話していると、話の流れがつかめない。ざわざわしたお店だと、相手の声だけ聞き取れない――。 そんなとき、多くの方がこう思われます。「年のせいだから、しかたない」 と。 でも、もしその「しかたない」が、あとから効いてくるのだとしたら。 前回の記事で、日本人の認知症のリスク要因のうち いちばん大きいのは「難聴」だった ことをご紹介しました。ではその先――「じゃあ、いつ補聴器を使えばいいの?」。この問いに、最近ようやく研究が答えを出しはじめています。 ✅ 慶應義塾大学の研究で、平均聴力が「38.75デシベル」を超えたあたり から、聞こえの悪さと認知機能の低下が結びつくことが分かりました ✅ ただし補聴器は 「つければ認知症を防げる」道具ではありません。効果がはっきり出たのは、持病や生活習慣の面で、もともと認知機能が下がりやすい状態にあった人たち でした ✅ 迷ったら、まず 耳鼻科(耳鼻咽喉科)で聴力検査。通販の「集音器」を自分で選ぶ前にです 難聴が「なぜ」リスクになるのか、全体像を先に知りたい方はこちらをどうぞ。 👉 日本人の認知症、約4割は予防できる 〜カギは「難聴」と「運動不足」〜 目次 なぜ「聞こえ」が脳に関わるの? 「38.75」という目安 ― 慶應大学の研究 補聴器をつけると、どうなるのか 「集音器」と「補聴器」は別のものです 値段と、賢い買い方 母のことを思い出しながら いま、私たちにできること おわりに 参考にした情報 なぜ「聞こえ」が脳に関わるの? 耳が遠くなると、脳には3つのことが起こると考えられています。 ① 脳に届く「音の情報」が減る 脳は使われることで元気を保ちます。入ってくる音が減れば、それだけ脳の出番が減ってしまいます。 ② 聞き取りに、脳が余計な力を使う 聞こえにくいと、脳は足りない音を推測して補おうとします。その分、覚えたり考えたりに回す力が削られます。会話のあとにどっと疲れるのは、このためです。 ③ 人と会うのが、おっくうになる これがいちばん大きいかもしれません。聞き返すのが申し訳なくて、集まりを断るようになる。難聴は、じわじわと人づきあいを減らしていきます。 あなた うちの主人がまさにそれです。最近、町内の集まりに行きたがらなくて……。 Torapon 実はとても多いんです。ご本人は「めんどうだから」とおっしゃるのですが、よく聞くと 「話が分からないから、いるのがつらい」 ということが少なくありません。性格の問題ではなく、耳の問題 だったりします。 38.75という目安 ― 慶應大学の研究 さて、本題です。 「耳が遠くなってきた」と感じても、どこからが「対策すべき段階」なのか。これまで、はっきりした目安がありませんでした。 そこに答えを出そうとしたのが、慶應義塾大学病院 耳鼻咽喉科・頭頸部外科の研究チーム(西山崇経先生、大石直樹先生ら)です。研究成果は2025年2月、『nature』の姉妹誌である 『npj Aging』 に掲載されました。 どんな研究だったか 対象になったのは、慶應義塾大学病院に通院していた 55歳以上の難聴のある方117人。この方たちを、2つのグループに分けました。 グループ 人数 補聴器を使ったことがない方 55人 3年以上、補聴器を使っている方 62人 そのうえで、聞こえの程度と、認知機能の検査の成績を比べたのです。 ...

August 16, 2026 · 2 分
補聴器店で補聴器を調整してもらう高齢女性のイラスト

補聴器は、つけただけでは足りませんでした 〜6万人の調査が示した「聞こえるようになること」〜

「買ったんですけどね、あんまり使っていないんです」 補聴器の話をすると、驚くほどよく返ってくる言葉です。引き出しにしまったまま、という方に、私は何人もお会いしてきました。 前回の記事では「いつから使えばいいのか」を書きました。今回はその続きです。つけたあとの話をします。 前回の記事はこちらです。 👉 補聴器は、いつから使えばいいの? ✅ 33か国・6万人を超える調査で、補聴器を使っている方は認知症のリスクが9%低いという結果が出ました ✅ ただし内訳を見ると、「よく聞こえるようになった」と答えた方だけが14%低く、「あまり良くならなかった」方では差がありませんでした ✅ 大事なのは持っていることではなく、ちゃんと聞こえる状態にしておくこと。そのために、調整に通う必要があります 目次 6万人を超える調査でわかったこと 「持っている」と「聞こえている」は違う なぜ、つけただけでは足りないのか 調整に通う、ということ まだ聞こえている方へ 難聴は防げます 現場で見てきたこと いま、私たちにできること おわりに 参考にした情報 6万人を超える調査でわかったこと 2026年、香港大学のグループが大きな調査結果を発表しました。 33か国、7つの大規模調査のデータをまとめたもの 対象は55歳以上で、聞こえに問題のある61,089人 平均6.5年追いかけ、そのあいだに認知症が疑われた方は8,911人 結果、補聴器を使っている方は、使っていない方に比べて認知症のリスクが9%低いという関係が見られました。 ここまでは、これまでにも言われてきたことです。新しいのは、その先でした。 「持っている」と「聞こえている」は違う 研究チームは、使っている方をさらに2つに分けました。 認知症のリスク 「よく聞こえるようになった」と答えた方 14%低い 「あまり良くならなかった」と答えた方 差なし 同じ「補聴器を使っている人」でも、結果がまったく違いました。 研究をまとめた先生は、こう述べています。 大事なのは機器をつけているかどうかではなく、その機器が日常生活のなかで、聞こえを本当に良くしているかどうかである。 あなた つけていれば効く、というわけではないんですね……。 Torapon そうなんです。ここは、私にとってもハッとする結果でした。「補聴器を使いましょう」とお伝えするだけでは、足りなかったわけです。「聞こえるようになりましたか」まで確かめないと、意味が半分になってしまうのですね。 なぜ、つけただけでは足りないのか 補聴器は、めがねとは違います。買ったその日に、よく聞こえるようにはなりません。 理由は3つあります。 その人の聞こえ方に合わせる作業が要る……高い音が聞こえにくい方、低い音が聞こえにくい方。どの音をどれだけ大きくするかは、一人ひとり違います 脳が慣れるのに時間がかかる……久しぶりに音が戻ってくると、はじめは「うるさい」と感じます。多くの方が、ここでやめてしまいます 聞こえは変わっていく……年月とともに聞こえ方は変わります。去年合っていた設定が、今年も合うとはかぎりません だから、買ったあとに何度か通って、少しずつ合わせていく必要があるのです。 あなた はじめの「うるさい」は、我慢するしかないんですか? Torapon 我慢しなくて大丈夫です。むしろ、そのまま伝えてください。 「うるさい」は調整の大事な手がかりですから、遠慮すると合わせようがないんですね。ただ、少しずつ音に慣れていく期間はどうしても要ります。そこは「慣らしていく時期」と思っていただけたらと思います。 調整に通う、ということ 具体的には、こういうことです。 はじめの数か月は、何度か調整に通う 「うるさい」「言葉が聞き取りにくい」を、遠慮せず伝える。それが調整の材料になります 落ち着いたあとも、年に1度は聞こえの確認をする 電池や耳あかの詰まりでも、聞こえは落ちます。手入れの仕方も教わっておく あなた 何度も行くのは、正直めんどうです……。 Torapon よく分かります。ただ今回の結果からすると、この通う手間こそが効いているのだと思います。せっかくのものを引き出しにしまってしまうより、あと数回だけ足を運ぶ。そう考えていただけたらと思います。 まだ聞こえている方へ 難聴は防げます ここまでは「聞こえにくくなったあと」の話でした。もうひとつ、お伝えしたいことがあります。 ...

August 29, 2026 · 1 分