MCI(軽度認知障害) と言われたけれど、いったい何から始めればいいのか分からない…」 「運動がいいのは分かるけど、 何を、どれくらい やれば本当に効くのかしら?」

そんなお声を、地域の体操教室や介護現場でよく耳にします。

実は、2026年に入ってから MCIや軽度の認知症の方を対象にした運動研究 が立て続けに公表されました。 中身を読んでみると、これまで「とりあえず体を動かしましょう」と曖昧になっていた部分に、 具体的な答えのヒント が見えてきています。

今日は、特に注目したい 2つの研究 を、現場の目線でやさしくご紹介します。


「何を、どれくらい」が見えてきました:複数の運動を組み合わせて、週3回以上 がひとつの目安です

続けることが何より大切:5年間の追跡では、参加率60%以上 のグループに認知機能の安定した経過傾向がみられました

一人で頑張らないこと:地域の仲間と一緒にやると 長続きしやすい——これが「効く運動」の隠れた条件かもしれません

少し長めの記事になりますので、気になるところからお読みください。

そもそも:MCI(軽度認知障害)ってどんな状態?

MCI(エム・シー・アイ)Mild Cognitive Impairment の略で、日本語では「軽度認知障害」と呼ばれます。

ひとことで言うと、

「年相応の物忘れ」と「認知症」の あいだの状態

です。本人やご家族が「あれ?」と気付くことはあっても、まだ日常生活には大きな支障が出ていない段階のことを言います。

ただ、ここからが大事な話で、MCIは そのままにしておくと数年で認知症に進む方 もいれば、 元の状態に戻られる方や、長く安定したまま過ごされる方 もいらっしゃいます。

つまり、MCIは 「いま何をするか」で先が変わってくる段階 ——「分かれ道」のような時期です。

Torapon

だからこそ、 「何を、どれくらいやればいいのか」 をできるだけ具体的に知っておきたいですよね。


研究①:MCIの方に「どんな運動が効く」のか?

ひとつ目は、 MCIの方にどんな運動が一番効くのか を世界中の研究をまとめて比較した報告です(ネットワークメタ解析 と呼ばれる手法)。

複数のランダム化比較試験を集めて、

  • 有酸素運動(ウォーキング・自転車など)
  • 筋トレ(レジスタンス運動)
  • バランス運動(太極拳・体操など)
  • デュアルタスク(二重課題) 運動

を、 どれが一番認知機能を改善するか という観点で比べたものです。

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ポイントは大きく2つ

ひとつ目は、 「組み合わせると効きやすい」 ということ。 有酸素運動 だけ よりも、筋トレ・バランス・デュアルタスクなどを 組み合わせた群 で、認知機能の改善がより大きい傾向が示されました。

ふたつ目は、 「週3回以上が一つの目安」 ということ。 頻度の少ない介入では効果が出にくく、 週3回以上 で一貫して有意な改善が報告されています。

💡 「毎日たくさん」ではなく、 「週3回以上をムリなく続ける」 のが現実的なゴールラインです。


研究②:5年続けると、本当に差が出るのか?

もうひとつは、 筑波大学附属病院 から2026年3月に発表されたプレスリリースです。 こちらは「短期で効くか?」ではなく、 5年という長い目 で見たときに、生活に運動を組み込み続けるとどうなるかを調べた研究です。

対象は MCI〜軽度認知症の方

  • 運動療法
  • 音楽療法
  • 芸術療法
  • 知的活動(読書・パズルなど)

を組み合わせた 多因子介入プログラム を提供し、 最長5年 追いかけました。

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「参加率60%以上」が一つの分かれ目

注目したいのは、 「どれくらい続けられたか」 という観点での違いです。

続けられた度合い 5年後の認知機能
参加率60%以上 の継続群 比較的 安定した経過 を示す傾向
それより低い 参加群 認知機能の低下が目立ちやすい

「やる/やらない」よりも、 「やり続けられたかどうか」 で差が出てくる—— これは、現場でリハビリを担当していると、強く実感する数字でもあります。

💡 短期間がんばるよりも、 5年単位で「ほどよく」続けられる仕組み をつくることが大切。


「組み合わせる」と「続ける」のかけ算

ふたつの研究から見えてくるのは、こんなシンプルなかけ算です。

「複数の運動を組み合わせる」 × 「週3回以上」 × 「続けられる仕組み」

特別な機器も、高額なジムも必要ありません。 ただ、 続けられる工夫 がいるのです。

理学療法士の私から見ると、認知症の進行抑制で大事なのは「強い運動」より、

  • 続けやすい運動
  • 楽しめる運動

の2つが揃っていることだと感じます。


家でできる組み合わせ運動の例

「いきなり週3回・5年なんて無理…」と思われるかもしれません。 そこで、 家庭でも始められる組み合わせ運動 を3つご紹介します。 どれも、 有酸素+筋トレ+デュアルタスク がさりげなく入っています。

① 数字を数えながらの足踏み(5分)

  • 椅子の前に立ち、その場で足踏み
  • 「100から3ずつ引きながら」 数を数える(100、97、94…)
  • 慣れたら 7ずつしりとり にステップアップ

引き算をしながら足踏みするだけで、 有酸素+デュアルタスク が同時に行えます。

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② 椅子からの立ち座り+言葉あそび(5分)

  • 椅子からゆっくり立ち上がる→座る、を10回
  • そのあいだに 「春夏秋冬」「い・ろ・は」 など順番に唱える
  • 慣れたら 「都道府県を北から順に」 などに変えていく

下半身の筋トレと、 「思い出しながら動く」 デュアルタスクの組み合わせです。

③ ラジオ体操+掛け声(10分)

毎朝の ラジオ体操 に、

  • 「いち、に、さん、し…」と 自分で声を出して数える
  • テレビを見ながら 同じ動きをまねる

これだけで、 全身の有酸素・バランス・デュアルタスク が10分でひとセットになります。

💡 「ちょっと頭を使いながら、ちょっと体を動かす」が デュアルタスクの基本 です。


Toraponの現場から:地域体操教室で感じていること

私(Torapon)は、理学療法士として 地域の高齢者向け体操教室 にも関わっています。

そこで感じるのは、

「効く運動」は、「続く運動」

ということです。

一人で家に帰ってもう一度…というのは、なかなか続きません。 でも、 同じ時間に、同じ場所で、顔なじみと一緒に 体を動かす日課があると、不思議とみなさん来てくださいます。 「あの人が今日休みだ、心配だな」と気にかけ合うようなつながりも生まれてきます。

筑波大の研究で 「参加率60%以上」が一つのライン になっていたのも、 おそらく 「来たくなる場」と「待ってくれる人」 があるかどうかが大きいのではないかと感じています。

母も、 家庭で過ごしていた頃 は、デイサービスでみなさんと一緒に体操をする時間が大好きでした。 「みんなとやるなら頑張れる」——その表情は、いまも忘れられません。

💡 ご家族の方には、 「家で頑張らせる」より「通える場所をひとつ確保する」 ことをぜひ考えてみていただきたいです。


いま私たちにできること

最後に、今日の話を行動に落とすためのチェックリストです。

MCIや軽度認知症と言われても、「これからの過ごし方」で変えられる部分はたくさんあります

運動は「組み合わせる」——有酸素+筋トレ+バランス+デュアルタスクをミックスして

頻度は「週3回以上」——毎日でなくて大丈夫、長く続くペースを大切に

「家で一人」より「みんなで」——通える教室・サークル・デイサービスを一つ確保する

5年単位で「ゆるく続けられる仕組み」をつくる——完璧を目指さず、休む日もOK

ご家族は「監視」より「一緒に楽しむ」——背中ではなく となり


おわりに
〜進行しても、遅らせることはできる〜

MCIや軽度の認知症と言われると、ご本人もご家族も、どうしても 「これからどうなってしまうのか」 と不安が大きくなります。

でも、 2026年のガイドライン改訂 でも、 今日ご紹介した2つの研究 でも、共通して伝えてくれているメッセージはひとつです。

「進行を完全に止めることは難しい。でも、遅らせることはできる」

そして、その「遅らせる力」のかなりの部分が、 薬ではなく日々の生活 ——とくに 運動・つながり・楽しみ にあるということ。

これは、薬の進歩を待ちながらでも、 今日からご自宅で始められる希望 です。

決して一人で頑張らず、 ご家族や仲間と一緒に、ゆっくり続けていきましょう。

詳しくは、前回のガイドライン改訂の記事もあわせてお読みください。 👉 認知症ガイドラインが9年ぶりに大改訂


参考にした情報

  • 筑波大学附属病院 プレスリリース「認知症"1,200万人時代"を見据えた多因子介入プログラムの最長5年追跡」(2026年3月18日公表)
  • システマティックレビュー&ネットワークメタ解析「MCI患者に対する運動介入の最適な種類と用量」(PubMed掲載)
  • 日本神経学会『認知症疾患診療ガイドライン2026』(2026年5月発刊)

※本記事は最新の研究をもとに作成していますが、運動の開始や強度については、 必ずかかりつけ医・リハビリ担当者と相談 したうえで進めてください。