「最近、人と話す機会が減ったな」
「テレビの音が大きいと言われるようになった」――
そんな小さな変化を、年齢のせいとあきらめていませんか?

認知症のリスク要因のうち 約45%は生活習慣で減らせる ――『ランセット』の専門委員会はそう報告しています。前回ご紹介した「血管と代謝」のなかま(→記事はこちら )に対して、今回は 「脳に入ってくる刺激」や「人とのつながり」「心の状態」「環境」 にかかわる7つの因子をまとめます。

血液検査では測れないけれど、毎日の暮らしのなかで守れる ――それがこのなかまの特徴です。

✅ 難聴・視力低下・社会的孤立・うつ・知的活動の少なさ・頭のケガ・大気汚染の7つ

✅ 脳は「使われ、つながっている」ほど元気でいられる

✅ 耳・目のケアや、人との交流は、今日から 始められる

認知症の14因子の「全体像」を先に知りたい方は、こちらの記事もどうぞ。
👉 日本人の認知症、約4割は予防できる 〜カギは「難聴」と「運動不足」〜


目次

  1. なぜ「刺激とつながり」が脳を守るの?
  2. ① 難聴 ― 最大級のカギになる因子
  3. ② 視力低下 ― 2024年に加わった新しい因子
  4. ③ 社会的孤立 ― 「ひとり」が続くこと
  5. ④ うつ ― 心の落ち込みと脳のつながり
  6. ⑤ 知的活動の少なさ ― 「脳を使う」習慣
  7. ⑥ 頭のケガ ― 転倒・事故から頭を守る
  8. ⑦ 大気汚染 ― 環境というリスク
  9. いま、私たちにできること
  10. おわりに

なぜ「刺激とつながり」が脳を守るの?

脳には、「使われるほど鍛えられ、放っておくと衰えやすい」 という性質があります。会話をする、景色を見る、考える、人と笑う――こうした 刺激のひとつひとつ が、脳の元気を保つ栄養になっています。

専門的には、こうして蓄えられた脳の余力を 「脳の予備能(よびのう=脳のたくわえ)」 と呼びます。耳や目から入る情報、人とのつながり、前向きな気持ちは、この「たくわえ」を増やし、認知症の発症を遅らせる方向に働くと考えられています。

ここで紹介する7つは、この「刺激とつながり」が細ってしまう 因子です。逆に言えば、耳と目をケアし、人と関わり続けること が、そのまま予防になります。


① 難聴 ― 最大級のカギになる因子

補聴器をつけるシニアのイラスト

なぜ脳に良くない?
聞こえが悪くなると、脳に届く音の情報が減り、会話もおっくうになって、人との交流まで遠ざかりがちに。日本人では認知症の 約6.7% にかかわり、14因子のなかでも最大級 とされています。近年は、補聴器を適切に使うとリスクが下がる可能性 も報告されています。

今日からの一手


② 視力低下 ― 2024年に加わった新しい因子

視力検査のイラスト

なぜ脳に良くない?
目から入る情報も、脳にとって大切な刺激です。治療していない視力低下 が続くと、その刺激が減り、外出や活動もおっくうになります。2024年のランセット報告で新しく加わった因子 で、日本人での寄与は 約0.6%。白内障など 治せる原因が多い のが特徴です。

今日からの一手

  • 「見えにくいな」を放置せず、眼科で定期的にチェック
  • 白内障などは手術で見え方が大きく改善することも
  • 眼鏡やコンタクトの度数が合っているか、ときどき見直しを

③ 社会的孤立 ― 「ひとり」が続くこと

友人と会話するシニアのイラスト

なぜ脳に良くない?
人との会話は、脳にとって上等な「運動」です。交流が減ると刺激も減り、気持ちも沈みやすくなります。日本人では認知症の 約3.5% にかかわるとされ、老年期にとくに注意したい因子です。

今日からの一手

  • 月1回でもいいので、人と会う・話す予定 を意識してつくる
  • 地域の体操教室やサロン、趣味の集まりは一石二鳥
  • 電話やビデオ通話でも、つながりは保てます

④ うつ ― 心の落ち込みと脳のつながり

ひとりで物思いにふける男性のイラスト

なぜ脳に良くない?
気分の落ち込みが続くと、活動も交流も減り、脳への刺激が少なくなります。うつと認知症は 互いに影響し合う 関係が指摘されており、日本人では認知症の 約2.6% にかかわるとされています。

今日からの一手

  • 「2週間以上、気分が晴れない」「眠れない・楽しめない」が続くなら、ひとりで抱えず相談
  • かかりつけ医や、心療内科・精神科は特別な場所ではありません
  • 日光を浴びる・体を動かすことも、気分の安定に役立ちます

⑤ 知的活動の少なさ ― 「脳を使う」習慣

読書を楽しむシニアのイラスト

なぜ脳に良くない?
ランセット報告では「若いころの教育」が因子に挙げられますが、大切なのは学歴そのものより 生涯にわたって脳を使い続けること。日本人では教育にかかわる寄与は 約1.5% とされますが、何歳からでも「学び直し」はできる のが希望のあるところです。

今日からの一手

  • 読書、日記、囲碁・将棋、楽器、手芸など、少し頭を使う趣味 を持つ
  • 「新しいこと」に挑戦すると、脳への刺激はより大きくなります
  • 人に教える・一緒に学ぶと、交流とのW効果に

⑥ 頭のケガ ― 転倒・事故から頭を守る

転倒に気をつけたいシニアのイラスト

なぜ脳に良くない?
強く頭を打つ 外傷性脳損傷(頭のケガ) は、のちの認知症リスクを高めることが分かっています。日本人での寄与は 約0.8%。高齢期では、転倒 がいちばん身近な原因です。

今日からの一手

  • 家の中の 段差・滑りやすい床・暗い廊下 を見直す(つまずき予防)
  • ふらつきが気になるなら、足腰の運動 で転びにくい体づくりを
  • 自転車に乗るときはヘルメットを

⑦ 大気汚染 ― 環境というリスク

窓を開けて換気するイラスト

なぜ脳に良くない?
細かい粒子(PM2.5など)を含む汚れた空気は、体の炎症を通じて脳にも影響すると考えられています。日本人での寄与は 約2.5%。個人の努力だけでは変えにくい因子ですが、できる範囲の工夫 はあります。

今日からの一手

  • 大気汚染の予報が悪い日は、窓を開けすぎない・長時間の屋外運動を控える
  • 室内の 換気と空気清浄 を意識する
  • 家庭内では、たばこの煙を持ち込まないことも大切

いま、私たちにできること

7つを、今日からできるかたち にまとめます。こちらも、ご自身に当てはまるところから、ひとつずつで十分です。

  • ✅ 「聞こえ」「見え方」が気になったら、耳鼻科・眼科で早めに相談
  • ✅ 月1回でも、人と会って話す予定 をつくる
  • ✅ 読書・手習いなど、少し頭を使う趣味 を続ける
  • ✅ 気分の落ち込みが続くなら、ひとりで抱えず相談
  • ✅ 家の中の 段差・暗がり を見直して、転倒を防ぐ

理学療法士として高齢の方々と接していると、耳や目をこまめにケアし、人とのつながりを大事にしてきた方ほど、表情がいきいきしておられる と感じます。からだのリハビリと同じくらい、「刺激とつながり」は脳の元気を支えていると実感します。


おわりに

血圧やコレステロールのように数字には出ないけれど、聞こえ・見え方・人とのつながり・心のはり は、脳の元気にとってかけがえのないものです。

耳が聞こえ、目が見え、人と笑い合える――
その当たり前のひとつひとつが、脳のいちばんのごちそうになる。

特別な道具も、難しい知識もいりません。今日の「ちょっと耳鼻科に行ってみよう」「久しぶりに友だちに電話しよう」が、5年後・10年後の自分を支えてくれます。

「血管と代謝」のなかまの7因子は、前回の記事でご紹介しています。
👉 認知症を防ぐ「血管と代謝」の整え方 〜数字で見える7つの危険因子〜


参考にした情報

  • ケアネット「外来で役立つ!認知症Topics」連載『Lancetの14の危険因子を読み解く(その1〜その4)』(2026年)※医療者向け・会員登録が必要
  • ランセット委員会報告:Livingston G, et al. Lancet. 2024;404:572-628.
  • 日本人での推計:Wasano K, et al. Lancet Reg Health West Pac. 2026;66:101792.

※ 本記事は、上記の医療メディアおよび原著論文をもとに、一般読者向けにわかりやすくまとめ直したものです。聞こえ・見え方・気分の落ち込みなどで気になる点があれば、必ず専門の医療機関にご相談ください。