窓辺でひとり、届いた手紙を読みながらお茶を飲んでいる年配の人のイラスト

「ひとり」より「さみしさ」のほうが脳に響く? 〜18か国・17万人の研究から〜

「ひとり暮らしは、認知症になりやすいんでしょう?」 そう聞かれることがあります。でも、ひとりで暮らしていても、毎日を満ち足りて過ごしている方はたくさんいます。反対に、家族と一緒に住んでいても、心の中ではさみしさを抱えている方もいます。 2026年6月、この「ひとりでいること」と「さみしいと感じること」を分けて、頭の働きとの関係を調べた大きな研究が発表されました。 ✅ 18か国・約17万5千人のデータを、同じやり方で調べ直した研究です。関係が強かったのは「人づきあいの少なさ」より「さみしさ」のほうでした ✅ さみしさが強い人ほど、頭の働きが「問題なし」から「少し低下」へ進みやすいという関係が、多くの国のデータで共通して見られました ✅ ただし、これは「関係が見られた」という研究です。頭の働きが落ちてきたから、さみしくなったという逆の向きも考えられます。日本のデータは入っていません 目次 「ひとり」と「さみしさ」は、別のもの 18か国のデータを、同じものさしで 響いていたのは「さみしさ」のほう 読むときに気をつけたいこと いま、私たちにできること おわりに 参考にした情報 「ひとり」と「さみしさ」は、別のもの この研究では、2つのことを分けて考えています。 社会的孤立(=人とのつながりが、外から見て少ない状態)……ひとりで暮らしている、月に1回も子ども・友人・親戚と会ったり連絡したりしない、集まりに参加していない、など 孤独感(=自分の心が「さみしい」と感じていること)……「どのくらい、さみしいと感じますか」といった質問に、本人が答えたもの この2つは、重なることもありますが、同じではありません。 あなた 人と会う回数が少ないと、やっぱりさみしいものじゃないんですか? Torapon 重なる部分はあります。でも、ひとりの時間を楽しめる人もいれば、にぎやかな中でさみしさを感じる人もいます。今回の研究は、そこをきちんと分けて比べたところが新しいんです。 18か国のデータを、同じものさしで 研究は、アメリカ・イギリス(イングランド)・スウェーデン・ヨーロッパ各国・イスラエルなど、18か国で行われてきた11の長期の調査のデータを使ったものです。合わせて17万5,070人、追いかけた期間は最長26年(平均16年あまり)でした(学術誌『Journal of Personality and Social Psychology』2026年6月)。参加者は主に中高年で、はじめの年齢の平均は64.5歳でした。 これまでの研究は、「孤立」や「孤独」の測り方が研究ごとにバラバラで、結果も食い違っていました。そこで今回は、11の調査すべてに、まったく同じ計算のやり方を当てはめ、最後に結果をまとめています。 さらに、調べ方を先に専門家に審査してもらい、結果がどう出ても発表すると決めてから分析する、という形で行われました。都合のいい結果だけを選ぶことができない、ていねいな進め方です。 響いていたのは「さみしさ」のほう 結果を、かんたんにまとめると次のとおりです。 さみしさを強く感じている人ほど、頭の働きが大きく落ちる段階へ進みやすい傾向がありました 人づきあいが少ない人も、はじめは少し進みやすく見えました。でも、さみしさの感じ方が同じくらいの人どうしで比べると、その差はほとんどなくなりました 反対に、人づきあいの多さが同じくらいの人どうしで比べても、さみしさとの関係は、ほぼそのまま残りました つまり、頭の働きに関係していたのは、人づきあいの「量」よりも、本人が感じる「さみしさ」のほうだったのです。 おもしろいのは、研究チームはもともと「孤立のほうが強く関係するだろう」と予想していたことです。結果は、その予想とは逆でした。 また、さみしさは、頭の働きが「問題なし」から「少し低下」へ進むところとも関係していました。研究チームは、頭の働きが落ち始める早い段階で、とくに関係しているのかもしれないと考えています。 なお、亡くなりやすさについては、さみしさと人づきあいの少なさのどちらにも関係が見られました。 あなた 気持ちの問題が、どうして頭の働きにまで関係するんでしょう? Torapon 今回の研究は、そのしくみまでは調べていません。研究チームは考えられる道すじとして、さみしさが続くことによるストレス、会話や刺激が減ること、脳の「余力」が減ることなどを挙げています。どれも「かもしれない」の段階です。 あなた じゃあ、ひとりで暮らしていても、心配しなくていいんですか? Torapon 「頭の働き」については、今回は人数より気持ちのほうが関係していた、ということです。ただ、孤立は寿命とは小さいながら関係が残っていました。「ひとりは問題ない」とまでは言えません。大事なのは、自分の心が満たされているかどうかに目を向けることだと思います。 読むときに気をつけたいこと くじ引きで割り振った研究ではありません……さみしさが脳に悪さをしたのか、頭の働きが落ちてきたから人とのやりとりがつらくなり、さみしくなったのか。研究チーム自身も、向きは決められないと書いています 気分の落ち込みの影響も確かめています……さみしい人は、気分も落ち込みがちです。そこで、落ち込みの影響を差し引いて計算し直しましたが、結果はほぼ同じでした 日本のデータは入っていません……参加者の多くは欧米の人たちです。暮らし方や人づきあいの文化が違えば、結果が変わる可能性もあります 関係の強さは控えめです……さみしいと感じたら必ず認知症になる、という話ではありません 認知症の危険因子としての「社会的孤立」については、こちらで紹介しています。 👉 脳を守る「刺激とつながり」〜耳・目・心・環境の7つの危険因子〜 いま、私たちにできること ☑ 会う回数より「話せてよかった」を大切に……人数や回数を増やすことより、気持ちが通じるやりとりを ☑ 離れた人には、電話や便りで……この研究でも、会うだけでなく電話・メール・手紙のやりとりを「つながり」として数えています ☑ 自分のさみしさに気づいてあげる……「最近、さみしいな」と感じたら、それは大事なサイン。家族や友人、かかりつけ医に話してみてください ☑ まわりの人の「さみしさ」にも目を向ける……ひとり暮らしかどうかより、「最近どう?」の一声が助けになるかもしれません 🔎 離れた人に、ひとこと便りを出したい方へ 長い手紙でなくても、数行のひとことで気持ちは伝わります。手元に一筆箋があると、ふと思い出した人に便りを出しやすくなります。 ...

October 25, 2026 · 1 分
仲間と一緒に体操を楽しむシニアたちのイラスト

脳を守る「刺激とつながり」 〜耳・目・心・環境の7つの危険因子〜

「最近、人と話す機会が減ったな」 「テレビの音が大きいと言われるようになった」―― そんな小さな変化を、年齢のせいとあきらめていませんか? 認知症のリスク要因のうち 約45%は生活習慣で減らせる ――『ランセット』の専門委員会はそう報告しています。前回ご紹介した「血管と代謝」のなかま(→記事はこちら )に対して、今回は 「脳に入ってくる刺激」や「人とのつながり」「心の状態」「環境」 にかかわる7つの因子をまとめます。 血液検査では測れないけれど、毎日の暮らしのなかで守れる ――それがこのなかまの特徴です。 ✅ 難聴・視力低下・社会的孤立・うつ・知的活動の少なさ・頭のケガ・大気汚染の7つ ✅ 脳は「使われ、つながっている」ほど元気でいられる ✅ 耳・目のケアや、人との交流は、今日から 始められる 認知症の14因子の「全体像」を先に知りたい方は、こちらの記事もどうぞ。 👉 日本人の認知症、約4割は予防できる 〜カギは「難聴」と「運動不足」〜 目次 なぜ「刺激とつながり」が脳を守るの? ① 難聴 ― 最大級のカギになる因子 ② 視力低下 ― 2024年に加わった新しい因子 ③ 社会的孤立 ― 「ひとり」が続くこと ④ うつ ― 心の落ち込みと脳のつながり ⑤ 知的活動の少なさ ― 「脳を使う」習慣 ⑥ 頭のケガ ― 転倒・事故から頭を守る ⑦ 大気汚染 ― 環境というリスク いま、私たちにできること おわりに なぜ「刺激とつながり」が脳を守るの? 脳には、「使われるほど鍛えられ、放っておくと衰えやすい」 という性質があります。会話をする、景色を見る、考える、人と笑う――こうした 刺激のひとつひとつ が、脳の元気を保つ栄養になっています。 専門的には、こうして蓄えられた脳の余力を 「脳の予備能(よびのう=脳のたくわえ)」 と呼びます。耳や目から入る情報、人とのつながり、前向きな気持ちは、この「たくわえ」を増やし、認知症の発症を遅らせる方向に働くと考えられています。 ここで紹介する7つは、この「刺激とつながり」が細ってしまう 因子です。逆に言えば、耳と目をケアし、人と関わり続けること が、そのまま予防になります。 ① 難聴 ― 最大級のカギになる因子 なぜ脳に良くない? 聞こえが悪くなると、脳に届く音の情報が減り、会話もおっくうになって、人との交流まで遠ざかりがちに。日本人では認知症の 約6.7% にかかわり、14因子のなかでも最大級 とされています。近年は、補聴器を適切に使うとリスクが下がる可能性 も報告されています。 ...

June 14, 2026 · 2 分