誰かの役に立つことが、脳を守る? 〜ボランティアと認知機能の研究から〜
「親がアルツハイマー型認知症だったから、自分もなるのでは」。 そんな心配を口にされる方は、少なくありません。たしかに、認知症にはなりやすさに関わる遺伝子があります。でも、遺伝子だけで、すべてが決まるわけではないようです。 2026年9月に、遺伝的になりやすい人でも、ボランティアを続けると、頭の衰えがゆるやかだったという研究が発表されました。 ✅ アメリカの約1万8千人を最長22年追った研究で、アルツハイマーになりやすい遺伝子を持つ人の速い衰えが、ボランティアを続けると、ゆるやかになっていました ✅ 量は控えめでよく、週に数時間くらいまでで関係が見られました。たくさんやった人で、より良かったわけではありません ✅ 日本の研究でも、65〜74歳で地域の会に参加している人は、認知症が少なかったという報告があります。ただし、どれも「関係が見られた」という研究です 目次 アルツハイマーになりやすい遺伝子とは? ボランティアを始めると、衰えがゆるやかに やりすぎなくて、いい 日本では「世話役」をしている人が いま、私たちにできること おわりに 参考にした情報 アルツハイマーになりやすい遺伝子とは? APOE ε4(アポイー・イプシロンフォー)という遺伝子のタイプを持つ人は、アルツハイマー型認知症になりやすいことが知られています。 今回の研究の参加者では、4人に1人ほどが、このタイプを1つ持っていました。 あなた 自分が持っているかどうか、調べたほうがいいんでしょうか? Torapon いいえ、この記事は「調べましょう」という話ではありません。持っているかどうかを知らなくても、できることは同じです。むしろ「遺伝で不利な人にも、まだやれることがある」という、希望の話として読んでください。 ボランティアを始めると、衰えがゆるやかに 研究は、アメリカの全国調査に参加した約1万8千人(はじめの年齢51〜74歳)を、1998年から2020年まで、2年ごとに追いかけたものです(学術誌『Alzheimer’s & Dementia』2026年9月)。 毎回、電話で頭の働き(単語を覚えて思い出す・引き算・数を逆に数える)を測り、あわせて次の2つを聞いています。 ボランティア……宗教・教育・健康・福祉などの団体で、ボランティアをしたか 身近な手助け……一緒に住んでいない友人・近所・親戚を、お金をもらわずに手伝ったか この研究の工夫は、同じ人で「始める前」と「その後」を比べたことです。もともと元気な人がボランティアをしている、という差を、できるだけ取りのぞいています。 結果は、次のとおりでした。 遺伝子を持つ人は、持たない人にくらべて、頭の衰えが速かった ところが、ボランティアを始めると、その速い衰えがゆるやかになっていた 逆に、ボランティアをやめると、衰えが急になっていた 研究チームの計算では、たとえば60歳で、アルツハイマーになりやすいタイプの遺伝子(APOE ε4)を2つ持つ人が、ボランティアを続けた場合、頭の働きが「低下」の目安まで下がるのが約2年遅い、という例が示されています(あくまで計算上の一例です)。 この遺伝子は、両親から1つずつ受け継ぎます。「2つ持つ」とは、両親の両方から、なりやすいタイプを受け継いだ人のことで、今回の参加者では約2%でした。 あなた 近所の人を手伝うのも、同じように良いんですか? Torapon それが、全体では「良い方向だけれど、はっきりしない」という結果でした(時間を少し空けて見た分析では、全体でも良い関係が出ています)。ヒスパニック系(中南米にルーツのある人たち)では、はっきり良い関係が見られました。人を手伝うことの意味は、文化や暮らし方によっても変わるのかもしれません。 やりすぎなくて、いい もうひとつ、おもしろい結果があります。ボランティアの時間です。 新しく始めたボランティアの時間(1年あたり) 週にすると 衰えをゆるやかにする関係 1〜99時間 2時間弱まで あり 100〜199時間 2〜4時間ほど あり 200時間以上 4時間ほど以上 はっきりせず たくさんやった人ほど良かった、わけではありませんでした。研究チームは、やりすぎると負担が大きくなり、良い面が打ち消されるのかもしれないと考えています。 あなた 週に数時間なら、できそうな気がします。 Torapon そうなんです。「無理なく、続けられる量で」。それが、この研究からいちばん伝えたいことです。 日本では「世話役」をしている人が 日本にも、近い研究があります。愛知県などの高齢者約1万5千人を、約10年追った研究です(AGES研究、2017年)。 65〜74歳では、趣味・スポーツ・ボランティアなど地域の会に参加している人は、参加していない人にくらべて、認知症になった人が約25%少なかった さらに、会長・世話役・会計などの役についている人は、ふつうの会員にくらべて、約20%少なかった 75歳以上では、はっきりした関係は見られませんでした アメリカの研究とあわせると、「人の役に立つ役割」を持つことに、何か意味がありそうです。 ただし、どちらもくじ引きで割り振った研究ではありません。元気だから参加できる、という面も残ります。「ボランティアをすれば認知症を防げる」とまでは言えないことは、心にとめておいてください。 ...