運動・食事・人とのつながり・睡眠を象徴するやさしいイラスト

今日から始める「脳の守り方」 〜4本柱で続ける認知機能の予防〜

第1回 では脳の主役たちを、 第2回 では脳が衰えていく仕組みを、ご一緒に見てきました。 ここまでくると、こんな声が聞こえてきそうです。 「で、結局、なにをすればいいの?」―― ご安心ください。最終回の今回は、今日から始められる「脳の守り方」 を、4つの柱にまとめてご紹介します。 特別な道具も、難しい知識も必要ありません。 毎日の暮らしの中で、少しずつ積み重ねるだけ です。 ✅ 守り方の柱は 「運動」「食事」「人とのつながり」「睡眠」 の4つ ✅ どれか1つでもOK。「これなら続けられそう」 から始めるのがコツ ✅ 脳は 何歳になっても変わる力(神経可塑性) を持っています 目次 大前提:脳は何歳になっても変わる 運動 〜歩くことから始められる、いちばん確かな予防策〜 食事 〜血管をいたわることが、脳を守ること〜 人とのつながり 〜「認知的予備能」を育てる暮らし方〜 睡眠 〜眠っている間に、脳は記憶を整えている〜 気になったら早めに専門医へ まとめ おわりに 大前提:脳は何歳になっても変わる 予防のお話に入る前に、もう一度お伝えしたい大事なことがあります。 それは、脳は何歳になっても新しい回路を作る力を持っているということです。 専門用語では 神経可塑性(しんけい かそせい) と呼ばれます。 60歳から新しい楽器を始めた方 70歳から英会話を学び始めた方 80歳から絵を描き始めた方 そういう方たちの脳をMRIで見ると、実際に脳の構造が変わっていることが研究で報告されています。 「もう年だから」と思った瞬間に、脳の成長は止まりがちです。 「やってみよう」と思った瞬間から、脳はまた動き出します。 ここから紹介する4つの柱は、その「動き出した脳」を 育て、守る ための土台です。 運動 〜歩くことから始められる、いちばん確かな予防策〜 研究で いちばんはっきり効果が示されているのが、運動 です。 なかでも 有酸素運動(ウォーキング、軽いジョギング、水中歩行など)は―― 前頭前皮質や海馬の 灰白質を増やす 左右の脳をつなぐ 連絡網を強くする ミエリン(神経の保護膜)の修復を助ける ことが分かっています。 どのくらい、何を? 目安は1日5,000〜7,500歩。これだけで認知症リスクがしっかり下がるという研究があります 少し息が弾むくらいの早歩き を、合間に1〜2分でも入れる 週に2〜3回、ストレッチや軽い筋トレも組み合わせる 詳しくは、こちらの記事もあわせてどうぞ。 👉 1日5,000〜7,500歩で認知症リスクがぐっと下がる 👉 認知症リスクを45%下げる運動習慣 ...

May 14, 2026 · 2 分
近所の花壇の手入れを、年配の人たちが一緒にしていて、通りがかりの子どもが手を振っているイラスト

誰かの役に立つことが、脳を守る? 〜ボランティアと認知機能の研究から〜

「親がアルツハイマー型認知症だったから、自分もなるのでは」。 そんな心配を口にされる方は、少なくありません。たしかに、認知症にはなりやすさに関わる遺伝子があります。でも、遺伝子だけで、すべてが決まるわけではないようです。 2026年9月に、遺伝的になりやすい人でも、ボランティアを続けると、頭の衰えがゆるやかだったという研究が発表されました。 ✅ アメリカの約1万8千人を最長22年追った研究で、アルツハイマーになりやすい遺伝子を持つ人の速い衰えが、ボランティアを続けると、ゆるやかになっていました ✅ 量は控えめでよく、週に数時間くらいまでで関係が見られました。たくさんやった人で、より良かったわけではありません ✅ 日本の研究でも、65〜74歳で地域の会に参加している人は、認知症が少なかったという報告があります。ただし、どれも「関係が見られた」という研究です 目次 アルツハイマーになりやすい遺伝子とは? ボランティアを始めると、衰えがゆるやかに やりすぎなくて、いい 日本では「世話役」をしている人が いま、私たちにできること おわりに 参考にした情報 アルツハイマーになりやすい遺伝子とは? APOE ε4(アポイー・イプシロンフォー)という遺伝子のタイプを持つ人は、アルツハイマー型認知症になりやすいことが知られています。 今回の研究の参加者では、4人に1人ほどが、このタイプを1つ持っていました。 あなた 自分が持っているかどうか、調べたほうがいいんでしょうか? Torapon いいえ、この記事は「調べましょう」という話ではありません。持っているかどうかを知らなくても、できることは同じです。むしろ「遺伝で不利な人にも、まだやれることがある」という、希望の話として読んでください。 ボランティアを始めると、衰えがゆるやかに 研究は、アメリカの全国調査に参加した約1万8千人(はじめの年齢51〜74歳)を、1998年から2020年まで、2年ごとに追いかけたものです(学術誌『Alzheimer’s & Dementia』2026年9月)。 毎回、電話で頭の働き(単語を覚えて思い出す・引き算・数を逆に数える)を測り、あわせて次の2つを聞いています。 ボランティア……宗教・教育・健康・福祉などの団体で、ボランティアをしたか 身近な手助け……一緒に住んでいない友人・近所・親戚を、お金をもらわずに手伝ったか この研究の工夫は、同じ人で「始める前」と「その後」を比べたことです。もともと元気な人がボランティアをしている、という差を、できるだけ取りのぞいています。 結果は、次のとおりでした。 遺伝子を持つ人は、持たない人にくらべて、頭の衰えが速かった ところが、ボランティアを始めると、その速い衰えがゆるやかになっていた 逆に、ボランティアをやめると、衰えが急になっていた 研究チームの計算では、たとえば60歳で、アルツハイマーになりやすいタイプの遺伝子(APOE ε4)を2つ持つ人が、ボランティアを続けた場合、頭の働きが「低下」の目安まで下がるのが約2年遅い、という例が示されています(あくまで計算上の一例です)。 この遺伝子は、両親から1つずつ受け継ぎます。「2つ持つ」とは、両親の両方から、なりやすいタイプを受け継いだ人のことで、今回の参加者では約2%でした。 あなた 近所の人を手伝うのも、同じように良いんですか? Torapon それが、全体では「良い方向だけれど、はっきりしない」という結果でした(時間を少し空けて見た分析では、全体でも良い関係が出ています)。ヒスパニック系(中南米にルーツのある人たち)では、はっきり良い関係が見られました。人を手伝うことの意味は、文化や暮らし方によっても変わるのかもしれません。 やりすぎなくて、いい もうひとつ、おもしろい結果があります。ボランティアの時間です。 新しく始めたボランティアの時間(1年あたり) 週にすると 衰えをゆるやかにする関係 1〜99時間 2時間弱まで あり 100〜199時間 2〜4時間ほど あり 200時間以上 4時間ほど以上 はっきりせず たくさんやった人ほど良かった、わけではありませんでした。研究チームは、やりすぎると負担が大きくなり、良い面が打ち消されるのかもしれないと考えています。 あなた 週に数時間なら、できそうな気がします。 Torapon そうなんです。「無理なく、続けられる量で」。それが、この研究からいちばん伝えたいことです。 日本では「世話役」をしている人が 日本にも、近い研究があります。愛知県などの高齢者約1万5千人を、約10年追った研究です(AGES研究、2017年)。 65〜74歳では、趣味・スポーツ・ボランティアなど地域の会に参加している人は、参加していない人にくらべて、認知症になった人が約25%少なかった さらに、会長・世話役・会計などの役についている人は、ふつうの会員にくらべて、約20%少なかった 75歳以上では、はっきりした関係は見られませんでした アメリカの研究とあわせると、「人の役に立つ役割」を持つことに、何か意味がありそうです。 ただし、どちらもくじ引きで割り振った研究ではありません。元気だから参加できる、という面も残ります。「ボランティアをすれば認知症を防げる」とまでは言えないことは、心にとめておいてください。 ...

October 15, 2026 · 1 分
ゴルフ場で仲間と一緒に体をほぐすシニアたちの水彩画

ゴルフを続けている人は、頭も元気? 〜4,575人の研究が教えてくれた「続けること」の意味〜

「そろそろ、ゴルフもやめどきかな」 「腰も痛いし、スコアも昔のようにはいかないし……」 そんなふうに、長く続けてきた趣味を手放すことを考えたことはありませんか。 2026年、国立長寿医療研究センターの島田裕之先生たちが、高齢者4,575人を対象にした研究を発表しました。テーマは、ゴルフと頭の元気との関係です。 理学療法士として現場に立っていると、趣味を手放した方から、少しずつ元気がなくなっていく——そんな場面に何度か出会うことがありました。今回の研究は、その実感に静かに重なるものでした。 ✅ 認知機能が下がっていた人の割合は、今もゴルフをしている人14.1%/やめた人20.1%/したことがない人21.6% でした ✅ 効いていそうなのは、歩く・頭を使う・人と交わる、この3つが同時にそろうこと です ✅ ただし 回数を増やす必要はありません 。関係していたのは「たくさん回ること」ではなく「続いていること」でした 目次 4,575人を、3つのグループに分けてみたら ゴルフの、何が効いているのでしょう ここは正直に——「だからゴルフをすれば安心」とは言えません では、ほかのスポーツや活動はどうなのでしょう 共通しているのは「3つ」と「続いていること」 私自身のこと いま私たちにできること おわりに 4,575人を、3つのグループに分けてみたら この研究では、高齢の方4,575人を、こんなふうに3つに分けて比べました。 今もゴルフをしている人 昔はしていたが、やめた人 ゴルフをしたことがない人 そして4種類の検査で、認知機能が下がっているかどうかを調べました。結果が、こちらです。 今も続けている人が14.1% 。やめた人が20.1%、したことがない人が21.6%でした。統計的にみても、続けている人は「したことがない人」よりはっきり低い、と報告されています。 さらに興味深いのは、次の2点です。 ゴルフ歴が長い人ほど、認知機能が下がっていない傾向がありました いっぽうで、年間のラウンド数や練習の量とは、はっきりした関係が見られませんでした あなた ゴルフをやめてしまった人は、もうダメということでしょうか……。 Torapon いいえ、そう読むのは早いです。実はこの研究、記憶に関しては「やめた人」にも良い関連がみられた と報告しています。それに、あとでお話ししますが、この数字には 逆向きの説明 も十分にあり得るんです。「頭が心配になってきたから、ゴルフをやめた」という順番ですね。 まとめると、この研究がいちばん強く示していたのは、こういうことになります。 月に何回も回っている人が良い成績だったのではありません。回数は少なくても、ゴルフをやめずに長く続けてきた人——そちらのほうに、良い結果が出ていたのです。 ゴルフの、何が効いているのでしょう では、ゴルフの何が頭に関わっているのでしょうか。研究チームは、ゴルフを「体・頭・人づきあい、いくつもの要求が重なる活動」だととらえています。 ① 歩く 18ホールを回れば、カートを使っても、けっこうな距離を歩きます。歩いて回れば8〜10km、1万歩を超えることも珍しくありません。しかも平らではありません。上り下り、傾いた足場、ラフの中。ただの散歩より、体の使い方はずっと複雑です。 ② 頭を使う ここがゴルフの、いちばん面白いところかもしれません。 風の向きと強さ、グリーンまでの残り距離、足元の傾き、池やバンカーの位置、そして今日の自分の調子。それを全部あわせて、1本のクラブを選ぶ 。しかも、状況は毎回ちがいます。同じ場面は二度とありません。 あなた 言われてみれば、ラウンド中はずっと何か考えていますね。 Torapon そうなんです。しかも「決めて、打って、結果を見て、次を考える」のくり返しでしょう。これは脳の中でも 段取りをつけたり、切り替えたりする働き をよく使います。ふだんの生活では、なかなかここまで使わないんですよ。 これを裏づける研究もあります。同じ島田先生たちが2018年に行った試験では、運動習慣のなかった65歳以上の106人を、24週間のゴルフ教室と健康講座のグループにくじ引きで分けました。その結果、ゴルフ教室のグループでは、単語を覚える力が6.8%、お話を覚える力が11.2% 高くなったと報告されています。 こちらは「くじ引きで分けて比べた試験」なので、ゴルフの側に原因があると言いやすい研究です。 ③ 人と交わる そしてもう一つ。ゴルフは、4時間前後を、だれかと一緒に過ごす遊びです。 ...

August 11, 2026 · 2 分