ご家族にアルツハイマー病の方がいらっしゃる、あるいは「もしかして自分も…」と気になっている。
そんな方にとって、「いつか治る薬は出るのだろうか」 という思いは、いつも心のどこかにあるのではないでしょうか。
最近、医療ニュースで興味深い研究が紹介されました。
「進行したアルツハイマー病が『元に戻る』可能性」
そんな見出しが踊る、最新の研究レポートです。
私自身、母がアルツハイマー型認知症で施設に入所しているので、この記事を読んだとき、思わず食い入るように画面を見つめました。
今回は、その内容を 冷静に、わかりやすく お伝えしつつ、いま私たちにできることを一緒に考えてみたいと思います。
✅ 海外で「進行したアルツハイマー病から脳の機能を取り戻す可能性」を示す研究が発表されました
✅ 鍵となるのは 「NAD+(ナドプラス)」 という、細胞のエネルギー源となる物質
✅ ただし まだマウスの段階。すぐ使える治療ではないけれど、これまでにない新しい希望が見えてきました
目次
これまでの治療と、何が違うの?
これまでのアルツハイマー病の治療や薬は、「進行を遅らせる」ことが目標でした。
最近話題になった抗体薬(レカネマブなど)も、脳にたまる「アミロイドβ」というゴミを取り除いて、進行をゆっくりにする働きをします。とても大切な進歩ですが、「失われた記憶や能力が戻ってくる」わけではありません。
ところが今回の研究では──
| これまでの治療 | 今回の研究 | |
|---|---|---|
| 目標 | 進行を 遅らせる | 失われた機能を 取り戻す |
| ねらい | アミロイドβの除去 | 脳の 修復力 を取り戻す |
| 段階 | 一部すでに使用中 | まだマウス実験 |
「取り戻す可能性」というのは、これまでなかった視点です。だから医療界では 画期的 と評価されています。
NAD+(ナドプラス)ってどんな物質?

NAD+(ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド) という名前は難しいですが、はたらきはシンプルです。
私たちの すべての細胞の中 に存在し、エネルギーを生み出したり、傷ついた DNA を修復したり するために欠かせない、いわば「燃料」のような物質です。
体が元気に動くにも、傷を治すにも、NAD+ が必要です。
NAD+ が枯渇すると…
研究チームは、アルツハイマー病のマウスの脳と、実際の人間の患者さんの脳でも、この NAD+ のバランスが崩れて、枯渇している ことを突き止めました。
つまり──
脳がダメージを受けても、それを 修復するための「燃料」が足りない。
結果として、脳の防御システムが崩れ、アルツハイマー病が進んでいく。
これが、今回の研究の核心です。
研究でわかったこと

研究チームは、P7C3-A20 という薬剤を使って、マウスの脳の NAD+ を「正常な範囲」に保つ実験を行いました。
その結果、脳の機能が回復する兆候 が確認されたのです。
これまでの「進行を遅らせる」治療とは違って、「失われた機能を取り戻せるかもしれない」という、新しい可能性が見えてきました。
でも、すぐ人に使えるわけじゃない理由

ここはとても大切な部分なので、丁寧にお伝えします。
希望のあるニュースですが、「明日からこの薬が使えます」という話ではありません。 理由は3つあります。
① 使われたのは「特殊なマウス」
今回使われたのは、遺伝子操作で強制的にアルツハイマー病を発症させたマウス です。
人間のアルツハイマー病は、遺伝だけでなく、生活習慣・加齢・環境 など、さまざまな要因が複雑に絡み合って発症します。マウスで効いた薬が、人間で同じように効くとは限りません。
② 「NAD+ を増やせばいい」は危険
「では NAD+ サプリを買って飲めばいい」と思われるかもしれませんが、それは危険な誤解 です。
過去の研究では、NAD+ の前駆体(材料)を 過剰に摂取すると、NAD+ が異常に増えすぎてしまい、がん細胞の増殖を助けるリスク が指摘されています。
今回の研究で成功したのは、薬剤が NAD+ を 「正常な範囲」に留める特性 を持っていたからです。市販のサプリメントで、同じように精密にコントロールできるかは、まったくの未知数です。
③ これから何年もかけて検証が必要
マウスでの結果が出ても、人間で安全に使えるかどうかを確かめるには、これから 何段階もの臨床試験 が必要です。実際の薬として届くまでには、何年もかかるのが普通です。
私が感じたこと
母がアルツハイマー型認知症で施設にいる私にとって、この記事はやはり、特別な気持ちで読みました。
正直に言うと、希望は見えました。
これまでは「進行を遅らせる」しかなかった病気に対して、「失われたものを取り戻せるかもしれない」という新しい光 が差したからです。
でも同時に、こうも思いました。
期待しすぎてはいけない。
マウスの段階の話だ。
いま、母にしてあげられることは、別のところにある。
研究の進展は、これからも見守っていきたいと思います。
今後の臨床試験で、ひとりでも多くの方が 「取り戻せる時間」 を手にできるよう、心から願っています。
いま、私たちにできること

新しい治療が実用化されるまでには、時間がかかります。
だからこそ、いま自分やご家族にできることを、確実に続けていく ことが、何より大切です。
① 気になる兆候があれば、早めに相談を
「同じことを何度も聞く」「物をしまった場所がわからない」といった変化に気づいたら、ひとりで抱え込まず、地域包括支援センターへ相談 してください。
🔍 「お住まいの市町村名 + 地域包括支援センター」 で検索すれば、お近くの窓口がすぐ見つかります。
詳しくは、前回の記事もあわせてお読みください。
👉 認知症の種類とMCIをやさしく解説 〜母のアルツハイマーから学んだ早期対応の大切さ〜
② 生活習慣を整える
科学的根拠(エビデンス)が積み重なってきている、認知症予防に役立つ習慣です。
- 適度な運動(ウォーキングなど、無理のない範囲で)
- バランスのよい食事(魚・野菜・大豆を中心に)
- 質のよい睡眠
- 人との交流(家族・地域・趣味の仲間との関わり)
- 頭を使う活動(読書・パズル・新しいことを学ぶ)
派手な特効薬ではありませんが、こうした 当たり前のこと の積み重ねが、いまの段階でいちばん確実な「予防」になります。
③ 薬やサプリは、必ず医師に相談を
NAD+ 関連のサプリメントが話題になることもありますが、ご自身の判断で大量に摂るのは避けてください。
体の状態や持病によっては、思わぬ影響が出ることもあります。気になる場合は、かかりつけ医に必ず相談 してください。
📚 あわせて読みたい一冊
運動脳(新版)
『運動こそ最強の認知症予防』を、世界中の研究をもとに証明した一冊。NAD+のような最新研究にも希望がありますが、今日から確実にできる予防はやっぱり運動だと、あらためて教えてくれます。スウェーデンの精神科医による世界的ベストセラー。
おわりに
医学の世界では、いま、認知症に関する研究が これまでにないスピードで進んでいます。
「治る病気ではない」と思われていた認知症が、もしかしたら数年〜数十年後には、「進行を遅らせる」だけでなく「機能を取り戻せる」病気 になっているかもしれません。
その日を信じて、いまは 静かに、希望を持ちながら、できることを積み重ねていく 。
それが、私自身の今の姿勢です。
新しい研究の動きは、これからもこのブログで、できるだけわかりやすくお伝えしていきたいと思います。
参考にした情報
- ケアネット(医師向け医療情報サイト)連載「NYから木曜日」第44回(2026年1月)
- 医療従事者向け会員制サイトのため、記事本文の閲覧には登録が必要です
※ 本記事は、上記の医療メディアで紹介された研究レポートをもとに、一般読者向けにわかりやすくまとめ直したものです。サプリメントや薬の使用については、必ずかかりつけ医にご相談ください。