窓辺で本を読み、語り合う年配のふたりの水彩画

いちばん「頭が働く」のは何歳ごろ? 〜研究が示した「55〜60歳」という答え〜

「人の名前が、すぐに出てこない」 「新しい機械の使い方を覚えるのが、若いころより時間がかかる」 そんなふうに感じて、「もう歳だから」とため息をついたことはありませんか? ところが2025年、その常識をゆさぶる研究が発表されました。心の働きを総合すると、いちばん高くなるのは20代ではなく、55〜60歳ごろだというのです。 理学療法士として現場に立っていると、年齢を重ねた方の落ち着いた判断に、何度も助けられてきました。今回は、その感覚を裏づけるような研究のお話です。 ✅ 「頭のよさ」は一つではありません。覚えるスピードは20代がピークでも、知識・ことば・経験は60代まで伸びていくことがわかっています ✅ 16の側面をまとめると、総合的なピークは55〜60歳ごろ。下がりはじめるのは65歳ごろ、下がり方が大きくなるのは75歳以降と報告されました ✅ ただし、これは平均の傾向の話です。個人差はとても大きく、「何歳だからこう」と決めつけられるものではありません 目次 「頭のよさ」は、ひとつじゃない 16の側面を足し合わせたら、山のかたちになった 70代・80代まで伸びつづけるものもある この研究には、限界もあります 現場で感じていること いま私たちにできること おわりに 「頭のよさ」は、ひとつじゃない あなた 頭の働きは、若いころがいちばんいい……そう思っていました。 Torapon 半分は当たっていて、半分はちがうんです。「頭のよさ」には少なくとも2種類あると考えられていて、その2つは年齢とともに反対の方向に動くんですよ。 心理学では、「頭のよさ」を大きく2つに分けて考えます。 覚えるスピードや、初めての問題を解く力(専門的には「流動性知能」といいます)……こちらは20代ごろがピークで、そのあとゆっくり下がっていきます 知識・ことば・積み上げた経験(「結晶性知能」といいます)……こちらは60代ごろまで伸びつづけると報告されています 「人の名前が出てこない」「新しい機械に手間取る」というのは、前者の変化です。たしかにそこは、年齢とともにゆっくりになります。 でもそのあいだに、もう一方はずっと育ち続けているのです。長年つちかった知識、ことばの豊かさ、「こういうときは、こうしたほうがいい」という勘どころ。それらは、若いころには持っていなかったものです。 脳の中で何が起きて「ゆっくりめ」になるのかは、こちらの記事でくわしくお話ししています。 👉 認知機能はなぜ衰えるの?〜脳の中で起きている4つの変化〜 16の側面を足し合わせたら、山のかたちになった ここで紹介したいのが、オーストラリアの西オーストラリア大学のジル・ギニャック博士と、ポーランドのワルシャワ大学のマルチン・ザイェンコフスキ博士による研究です。2025年に、心理学の専門誌『Intelligence(インテリジェンス)』に発表されました。 二人が取り組んだのは、こんな疑問です。 「覚える力のピークが20代なら、どうして仕事で成果を出す人のピークは、50代後半なのだろう?」 そこで研究チームは、「人生をうまく運ぶ力」に関わる9つの分野・16の側面を選び出しました。推論する力、記憶、考えるスピード、知識、感情をあつかう力、まじめさ、気持ちの安定、お金についての判断力、道徳的な考え方、思いこみに振り回されにくさ……といったものです。 そして、それぞれについて「年齢とともにどう変わるか」を既存の大規模なデータから集め、同じものさしにそろえて、一本の指標にまとめました。 その結果が、こちらです。 18歳からぐんぐん上がり、55〜60歳ごろがいちばん高い 65歳ごろから下がりはじめ、75歳以降は下がり方が大きくなる 計算の仕方を変えても、ピークはやはり55〜60歳ごろ あなた 55〜60歳がピーク……。ちょうど、いちばん忙しい時期ですね。 Torapon そうなんです。会社で責任のある立場を任される時期と、ぴったり重なります。研究チームも、「仕事で成果が出るピークと、この山の頂上はほぼ同じ」だと述べています。経験を積んだ人が現場で頼りにされるのは、気のせいではなかった、というわけですね。 なお、「経験でみがかれる力」を重く見て計算した場合、85歳ごろの高さは18歳のころと同じくらいになったとも報告されています。ただし中身は別もので、得意なことと苦手なことが入れ替わっている——そんなイメージです。 70代・80代まで伸びつづけるものもある この研究でとくに興味深いのは、60歳を過ぎても伸びつづけるものがあった点です。 「もったいない」に引きずられにくい……たとえば、あまり面白くない映画を観ていて、「お金を払ったのだから、最後まで観ないと損だ」と思って座り続けてしまう。こういう判断のくせは、だれにでもあります。ところが年齢を重ねた方は、ここで上手に切り上げられると報告されています。しかもこの力は、70代・80代まで伸びつづける可能性があるそうです お金についての判断力……60代後半ごろまで伸びていきます 道徳的な考え方……年齢とともに深まっていくと報告されています まじめさ(几帳面さ)や、気持ちの安定……60代から70代にかけて、いちばん高くなっていきます いっぽうで、中年以降にゆっくり下がっていくものもありました。頭の切り替えの早さ、相手の考えを読みとる力(65歳ごろから)、そして「あれこれ考えたい」という意欲などです。 あなた 年をとると、頑固になるものだと思っていました。 Torapon おもしろいですよね。あわてて飛びつかず、落ち着いて決められる——それも立派な力です。若さの「速さ」とはちがう種類の強さが、年齢とともに育っている、ということなんです。 この研究には、限界もあります ここは大事なところなので、正直にお伝えします。この研究には、いくつか気をつけて読むべき点があります。 多くが「横断データ」である……同じ人を何十年も追いかけたのではなく、いろいろな年齢の人を、同じ時期に比べたものが中心です。そのため、「年齢による変化」と「育った時代のちがい」が混ざっている可能性があります 欧米のデータが中心……主に欧米の豊かな国のデータから集められています。日本を含む他の地域でも同じ形になるかは、これから調べる必要があります あくまで「平均」の話……人によるちがいは、とても大きいものです 研究チームは論文の中で、「高度な判断を求められる仕事には、40歳未満や65歳以上の人は向きにくいかもしれない」という見方にも触れています。ただ、これは平均から導いた一般論です。 年齢だけを見て「この人はもう」と判断するのではなく、その人が実際にどうかを見る。研究者自身も、そこを強調しています。 現場で感じていること 理学療法士として働いていると、年齢を重ねた方の「落ち着き」に助けられる場面が、たしかにあります。 ...

July 30, 2026 · 1 分
近所の花壇の手入れを、年配の人たちが一緒にしていて、通りがかりの子どもが手を振っているイラスト

誰かの役に立つことが、脳を守る? 〜ボランティアと認知機能の研究から〜

「親がアルツハイマー型認知症だったから、自分もなるのでは」。 そんな心配を口にされる方は、少なくありません。たしかに、認知症にはなりやすさに関わる遺伝子があります。でも、遺伝子だけで、すべてが決まるわけではないようです。 2026年9月に、遺伝的になりやすい人でも、ボランティアを続けると、頭の衰えがゆるやかだったという研究が発表されました。 ✅ アメリカの約1万8千人を最長22年追った研究で、アルツハイマーになりやすい遺伝子を持つ人の速い衰えが、ボランティアを続けると、ゆるやかになっていました ✅ 量は控えめでよく、週に数時間くらいまでで関係が見られました。たくさんやった人で、より良かったわけではありません ✅ 日本の研究でも、65〜74歳で地域の会に参加している人は、認知症が少なかったという報告があります。ただし、どれも「関係が見られた」という研究です 目次 アルツハイマーになりやすい遺伝子とは? ボランティアを始めると、衰えがゆるやかに やりすぎなくて、いい 日本では「世話役」をしている人が いま、私たちにできること おわりに 参考にした情報 アルツハイマーになりやすい遺伝子とは? APOE ε4(アポイー・イプシロンフォー)という遺伝子のタイプを持つ人は、アルツハイマー型認知症になりやすいことが知られています。 今回の研究の参加者では、4人に1人ほどが、このタイプを1つ持っていました。 あなた 自分が持っているかどうか、調べたほうがいいんでしょうか? Torapon いいえ、この記事は「調べましょう」という話ではありません。持っているかどうかを知らなくても、できることは同じです。むしろ「遺伝で不利な人にも、まだやれることがある」という、希望の話として読んでください。 ボランティアを始めると、衰えがゆるやかに 研究は、アメリカの全国調査に参加した約1万8千人(はじめの年齢51〜74歳)を、1998年から2020年まで、2年ごとに追いかけたものです(学術誌『Alzheimer’s & Dementia』2026年9月)。 毎回、電話で頭の働き(単語を覚えて思い出す・引き算・数を逆に数える)を測り、あわせて次の2つを聞いています。 ボランティア……宗教・教育・健康・福祉などの団体で、ボランティアをしたか 身近な手助け……一緒に住んでいない友人・近所・親戚を、お金をもらわずに手伝ったか この研究の工夫は、同じ人で「始める前」と「その後」を比べたことです。もともと元気な人がボランティアをしている、という差を、できるだけ取りのぞいています。 結果は、次のとおりでした。 遺伝子を持つ人は、持たない人にくらべて、頭の衰えが速かった ところが、ボランティアを始めると、その速い衰えがゆるやかになっていた 逆に、ボランティアをやめると、衰えが急になっていた 研究チームの計算では、たとえば60歳で、アルツハイマーになりやすいタイプの遺伝子(APOE ε4)を2つ持つ人が、ボランティアを続けた場合、頭の働きが「低下」の目安まで下がるのが約2年遅い、という例が示されています(あくまで計算上の一例です)。 この遺伝子は、両親から1つずつ受け継ぎます。「2つ持つ」とは、両親の両方から、なりやすいタイプを受け継いだ人のことで、今回の参加者では約2%でした。 あなた 近所の人を手伝うのも、同じように良いんですか? Torapon それが、全体では「良い方向だけれど、はっきりしない」という結果でした(時間を少し空けて見た分析では、全体でも良い関係が出ています)。ヒスパニック系(中南米にルーツのある人たち)では、はっきり良い関係が見られました。人を手伝うことの意味は、文化や暮らし方によっても変わるのかもしれません。 やりすぎなくて、いい もうひとつ、おもしろい結果があります。ボランティアの時間です。 新しく始めたボランティアの時間(1年あたり) 週にすると 衰えをゆるやかにする関係 1〜99時間 2時間弱まで あり 100〜199時間 2〜4時間ほど あり 200時間以上 4時間ほど以上 はっきりせず たくさんやった人ほど良かった、わけではありませんでした。研究チームは、やりすぎると負担が大きくなり、良い面が打ち消されるのかもしれないと考えています。 あなた 週に数時間なら、できそうな気がします。 Torapon そうなんです。「無理なく、続けられる量で」。それが、この研究からいちばん伝えたいことです。 日本では「世話役」をしている人が 日本にも、近い研究があります。愛知県などの高齢者約1万5千人を、約10年追った研究です(AGES研究、2017年)。 65〜74歳では、趣味・スポーツ・ボランティアなど地域の会に参加している人は、参加していない人にくらべて、認知症になった人が約25%少なかった さらに、会長・世話役・会計などの役についている人は、ふつうの会員にくらべて、約20%少なかった 75歳以上では、はっきりした関係は見られませんでした アメリカの研究とあわせると、「人の役に立つ役割」を持つことに、何か意味がありそうです。 ただし、どちらもくじ引きで割り振った研究ではありません。元気だから参加できる、という面も残ります。「ボランティアをすれば認知症を防げる」とまでは言えないことは、心にとめておいてください。 ...

October 15, 2026 · 1 分
補聴器をつけた年配の女性が、娘とお茶を飲みながら笑顔で話しているイラスト

物忘れが始まってからの補聴器、意味はある?

「物忘れが出てきたと言われたけれど、耳も遠くて……。いまから補聴器をつけて、意味はあるんでしょうか」。 ご本人からも、ご家族からも、たまに聞かれる質問です。 このブログでは、補聴器について2回取り上げてきました。どちらも、まだ物忘れのない人が中心の話でした。今回は、すでに軽い物忘れ(MCI)が始まっている人を対象にした、2026年9月発表の試験をご紹介します。 ✅ 中国・上海で、難聴とMCIのある703人を、くじ引きで「補聴器の組」と「健康教室の組」(補聴器は使わず、聞こえのケアや健康について説明を受ける組)に分け、2年間調べました ✅ いちばん確かめたかった「認知症の段階へ進むのを防げるか」では、はっきりした差は出ませんでした ✅ 一方で、物忘れが「正常」まで戻った人は、補聴器の組で約15%、健康教室の組で約2%。ただし、偶然の可能性も残るため、研究者自身が慎重に受け止めるよう注意しています これまでの補聴器の記事は、こちらです。 👉 補聴器は、いつから使えばいいの? 👉 補聴器は、つけただけでは足りませんでした 目次 MCIとは? 703人を、くじ引きで2つに分けた 認知症への進行は、防げたとは言えなかった 「正常に戻った人」は、補聴器の組で多かった いま、私たちにできること おわりに 参考にした情報 MCIとは? MCI(軽度認知障害)とは、物忘れなどが年齢相応より目立つけれど、日常生活はおおむね自分でできている段階のことです。認知症の「手前」にあたります。 MCIの方の中には、認知症へ進む人もいれば、正常の範囲に戻る人もいます。だからこそ、この段階で何ができるかが注目されています。 MCIについては、こちらでくわしく書いています。 👉 認知症の種類とMCIをやさしく解説 703人を、くじ引きで2つに分けた 試験の対象は、上海の病院と地域で集めた、60歳以上で、中等度以上の難聴とMCIがある703人です(平均74.5歳)。学術誌『JAMA Neurology』に、2026年9月に発表されました。 補聴器の組(353人) 健康教室の組(350人) 内容 両耳の補聴器を無料で、専門家が調整 補聴器は使わず、聞こえのケア・持病の管理・生活習慣について説明を受ける 通う回数 6・12・24か月ごとに、調整と手入れ 同じ時期に、45分ほどの説明 物忘れの検査は、補聴器を外してから、どちらの組の人か知らない担当者がおこないました。 あなた 「くじ引き」で分けると、何がいいんですか? Torapon 「もともと元気な人が補聴器を選んでいた」というかたよりが起きにくいんです。くじ引きで分けると、2つの組は、年齢や元気さなどがだいたい同じになります。ちがうのは「補聴器を使ったかどうか」だけ。だから、もし結果に差が出れば、それは補聴器のおかげだったと考えやすくなるんです。これまで紹介した研究の多くは「関係が見られた」というところまででしたが、くじ引きの試験は、もう一歩ふみこんで確かめられます。 認知症への進行は、防げたとは言えなかった いちばん確かめたかったのは、2年のあいだに、認知症の段階まで進んだ人の割合です。 補聴器の組:約3.1% 健康教室の組:約4.7% 補聴器の組のほうが少なめでしたが、偶然の範囲を超える差とは言えませんでした。 研究者たちは、その理由のひとつとして、認知症へ進んだ人が予想よりずっと少なかったことを挙げています。進む人が少ないと、差を見つけにくくなるためです。 あなた じゃあ、補聴器は意味がなかったということですか? Torapon 「認知症への進行を防げた」とは言えなかった、というのが正確なところです。ただ、もうひとつ、見ておきたい結果があります。 「正常に戻った人」は、補聴器の組で多かった 試験では、はじめから「見る」と決めていたもうひとつの項目がありました。2年後に、物忘れが「正常」の段階まで戻った人の割合です。 補聴器の組:約15% 健康教室の組:約2% ただし、研究者自身が、この結果は慎重に受け止めてほしいと書いています。この試験で「いちばん確かめたいこと」として決めていたのは、前の章の「認知症への進行」のほうでした。こちらは「あわせて見ておく」項目だったので、偶然そうなった可能性も残る、ということです。ほかにも、注意点がいくつかあります。 物忘れの程度は、聞き取り中心の1つの物差しだけで判定していた 補聴器が無料だったので、参加者の答え方が良い方向にかたよった可能性がある 参加者の9割が家族と同居。一人暮らしの方に、同じように当てはまるかは分からない 中国語は、日本語とは性質のちがう言語で、日本でも同じ結果になるかは分からない それでも研究者たちは、補聴器は、認知症予防の効果がはっきりしなくても、会話のための大事な道具だと述べています。 あなた 物忘れが始まってからでも、補聴器を考えていいんですね。 Torapon はい。「MCIと言われたから、もう遅い」ということはありません。ただ、「補聴器で物忘れが治る」と期待しすぎないこと。会話が楽になる、家族と話す時間が増える。まずはそこを目的にするのが、いちばん自然だと思います。 いま、私たちにできること ☑ 耳鼻科で、聞こえを調べてもらう……物忘れの相談と一緒に、耳の相談もしてみてください ☑ 補聴器は「調整に通う」までがセット……この試験でも、半年〜1年ごとに調整していました(前回の記事 もどうぞ) ☑ 毎日、起きている時間につける……この試験の平均は1日約6時間でした。外す時間が長いと、慣れにくくなります ☑ ご家族は「つけてね」より「話そうね」……補聴器をつけて、話す相手がいることがいちばんの支えになります 📺 テレビの音量で、もめていませんか 補聴器を使う前、使い始めのころは、テレビの音量でご家族ともめることがよくあります。手元に置くスピーカーなら、テレビ本体の音量は下げたまま、手元でだけ大きくできます。 ...

October 17, 2026 · 1 分
野球を応援して喜ぶシニアのイラスト

"好きなこと"が、認知症の心をほどく? 〜阪神優勝とBPSDの研究から〜

認知症のご家族が、以前より 怒りっぽくなった、あるいは 元気がなくなって一日ぼんやり過ごすようになった――そんな変化に、戸惑ったことはありませんか? こうした、もの忘れ以外の「心と行動の変化」は、ご本人にとっても、支えるご家族にとっても、とてもつらいものです。 そんな中、ちょっと驚くような、でも心があたたかくなる研究が報告されました。テーマは、なんと 「プロ野球」。阪神タイガースが優勝したあと、ファンの認知症の方の “心の症状” がやわらいだ というのです。 理学療法士として長く介護の現場にいる私自身、学生時代は野球部で、いまも阪神ファンのひとり。この話には、つい身を乗り出してしまいました。今日は、この研究から見えてくる 「好きなこと・楽しみの力」 について、ごいっしょに考えてみたいと思います。 ✅ 阪神ファンの認知症の方 19名 で、2023年の優勝後に BPSD(ビーピーエスディー=認知症にともなう心と行動の症状)が やわらいだ と報告された ✅ 怒りっぽさ・無気力・興奮・昼夜逆転・気分の落ち込みなど、幅広い症状 で良い変化がみられた ✅ ただし 19名の小さな探索的な研究。「好きなこと・楽しみが心に効くかもしれない」という ヒント として受け止めたい 目次 そもそも「BPSD」って何? どんな研究だったの? どんな症状が、やわらいだの? なぜ「好きなこと」が、心に効くのでしょう 理学療法士として、私自身のこと いま、私たちにできること おわりに そもそも「BPSD」って何? 認知症というと、「もの忘れ」を思い浮かべる方が多いと思います。これは 中核症状(ちゅうかくしょうじょう)と呼ばれる、脳のはたらきが直接およぼす症状です。 いっぽうで、それを取り巻くように現れるのが BPSD(行動・心理症状)です。たとえば、 怒りっぽくなる、強い言葉が出る 不安そうにする、落ち着かず動き回る 元気がなくなる、何ごとにも関心をしめさなくなる 昼と夜が逆転する 気分が沈む といったものです。BPSDは、ご本人の体調・気持ち・まわりの環境 などによって、強くなったり、やわらいだりします。裏を返せば、接し方や環境を整えることで、和らげられる可能性がある ということでもあります。 どんな研究だったの? 今回の研究は、大阪・脳神経内科はつたクリニックの 初田裕幸(はつた ひろゆき)医師 らによるもので、医学誌 Geriatrics & Gerontology International(2026年5月号)に報告されました。 研究では、関西地方にお住まいの認知症の方 855名 を対象に、プロ野球の試合結果 と BPSDの変化 に関係がないかを調べました。 そして、そのうち 阪神タイガースのファンだった19名 に注目したところ、2023年にチームがセ・リーグで優勝したあと、BPSDのスコア(症状の強さを表す点数)が、はっきりと下がっていた(=症状がやわらいでいた)のです。 ここで、ひとつ大切なことを正直にお伝えします。これは 「探索的レトロスペクティブ研究」 といって、過去の記録をふり返って関係を探す、最初の手がかりを見つけるタイプ の研究です。注目したのも19名という小さな人数。ですから、「優勝すれば症状が必ず良くなる」と言い切れるものではありません。あくまで 「こういう面白い関係がありそうだ」という、出発点の発見 です。 ...

June 24, 2026 · 1 分
猛暑の中で涼をとるシニアのイラスト

夏の暑さは、脳にも効いていた? 〜猛暑と認知症リスク、今年からできる対策〜

年々きびしくなる夏の暑さ。「ご高齢のご家族が心配」「自分も夏になると体がつらい」と感じている方は、多いのではないでしょうか。 暑さといえば、まず気になるのは 熱中症。けれど最近、それだけではない可能性を示す研究が報告されました。テーマは 「長く続く猛暑と、認知症のリスク」 です。 日本の大規模な調査で、極端な暑さに何年もさらされることが、認知症の発症リスクと関係していそうだ という結果が出たのです。少し心配な話に聞こえるかもしれませんが、大事なのは 「だからこそ、今年の夏からできる対策がある」 ということ。今日は、研究の中身と、すぐに実践できる暑さ対策を、ごいっしょに見ていきます。 ✅ 日本の高齢者 約5万7千人 の調査で、極端な暑さに多くさらされた人ほど、認知症の発症リスクがやや高まる傾向がみられた ✅ 目安として、猛烈に暑い日が7日増えるごとに、認知症のリスクが約9%・亡くなるリスクが約13% 高まる計算だった ✅ ただし「暑さが原因」と言い切れる段階ではない。だからこそ 今年の夏から、エアコン・水分・室温の対策 を大切にしたい 目次 どんな研究だったの? どれくらい、リスクが上がるの? なぜ暑さが、脳に関わるのでしょう 理学療法士として、夏の現場で感じること いま、私たちにできること おわりに どんな研究だったの? あなた 暑さで「熱中症」はよく聞きますけど、「認知症」にも関係があるなんて初耳です。どんな調査だったんですか? Torapon 日本の高齢者 約5万7千人 を長く追いかけた、とても大きな調査なんです。順番に見ていきましょう。 この研究は、東京科学大学・公衆衛生学分野の 森田彩子(もりた あやこ)氏 らによるもので、認知症の世界的な医学誌 Alzheimer’s & Dementia(2026年1月4日号)に報告されました。 使われたのは、JAGES(ジェイジス=日本老年学的評価研究) という、日本の高齢者を長く追いかけた大規模な調査のデータ(2016〜2019年)です。対象になったのは、同じ町に30年以上住み、認知症がなく、自立して生活している65歳以上の方 約5万7千人。これだけ多くの方を追跡した、信頼性の高い調査です。 研究では、それぞれの地域の ふだんの気候とくらべて「極端に暑い日」が何日あったか を計算し、その暑さへの「のべの量」が多い人と少ない人で、その後の 認知症の発症 や 死亡 に差が出るかを調べました。 追跡のあいだに、2,454名(4.3%)が認知症を発症し、2,375名(4.2%)が亡くなっていました。 どれくらい、リスクが上がるの? 結果は、「極端な暑さにさらされた量が多い人ほど、認知症や死亡のリスクがやや高くなる」 という傾向を示すものでした。 数字でいうと、わかりやすい目安はこちらです。 猛烈に暑い日が7日ふえるごとに、認知症になるリスクは約 9%、亡くなるリスクは約 13% 高まる計算だった さらに研究チームは、2016〜18年に実際にあったレベルの猛暑 にあてはめると、認知症のリスクは 約1.43倍、死亡のリスクは約1.63倍になると試算した あなた 「1.43倍」って聞くと、ちょっとこわい数字です……。 Torapon どきっとしますよね。でも、ここで落ち着いて受け止めたい点があるんです。 これは たくさんの人を集めて見たときの「全体の傾向」 であって、「暑い夏を過ごした人が必ず認知症になる」という意味ではありません。また、この種の研究は 「関係がありそうだ」を示すもの で、暑さが直接の原因だと断定できる段階ではない、ということも大切です。 ...

June 25, 2026 · 1 分
予防接種と健康を考えるイメージ

帯状疱疹のワクチンで、認知症が減る? 〜50万人の調査が示したこと〜

「帯状疱疹のワクチン、打ったほうがいいのかしら」 「役所から案内が届いたけれど、どうしよう」 そんなふうに迷っておられる方が、まわりにいらっしゃるかもしれません。 いま、この帯状疱疹のワクチンについて、「打った人は、認知症になる人が少なかった」という研究が、世界のあちこちから報告されています。 ただ、はじめにお伝えしておきたいことがあります。この記事は、ワクチンを勧めるためのものではありません。どんな研究が出ているのかを正確にお伝えして、かかりつけの先生と相談するときの材料にしていただくためのものです。 ✅ アメリカで66歳以上 約51万人を4年間追いかけた調査で、ワクチンを打った人の認知症の割合は 18.8%、打っていない人は 24.6% でした ✅ イギリス・ウェールズの28万人の調査でも、同じ方向の結果(認知症の診断が約20%少ない)が報告されています ✅ ただし、いずれも「打ったから減った」と証明したものではありません。打つかどうかは、持病やお薬とあわせて、かかりつけの医師とご相談ください 目次 帯状疱疹って、どんな病気? 51万人の調査でわかったこと もうひとつの手がかり「自然の実験」 なぜ、ウイルスと認知症がつながるの? ここは、慎重に見てください 日本では、いまどうなっている? 現場で感じていること いま私たちにできること おわりに 帯状疱疹って、どんな病気? 子どものころにかかった水ぼうそう。あのウイルスは、治ったあとも体からいなくなるわけではありません。神経のそばに、じっと隠れて眠っています。 そして、年齢を重ねたり、疲れや病気で体の守る力(免疫)が弱まったりすると、眠っていたウイルスが目を覚まします。神経に沿って皮膚に出てくるのが、帯状疱疹です。 体の左右どちらかに、帯のように痛みと発疹が出るのが特徴で、ピリピリ、ズキズキとした強い痛みをともないます。 あなた 発疹が治れば、それで終わりなのでしょうか。 Torapon それが、そうとも限らないんです。発疹が治ったあとも痛みだけが長く残ることがあって、これを帯状疱疹後神経痛と呼びます。数か月から、ときには年単位で続く方もいらっしゃいます。帯状疱疹がやっかいなのは、この痛みの後遺症なんですね。 51万人の調査でわかったこと ここからが本題です。近年、この帯状疱疹のワクチンと、認知症との関係を調べた研究が、次々と発表されています。 2026年6月、アメリカのブラウン大学の研究チームが、医学誌『Annals of Internal Medicine』に大きな調査結果を発表しました。 対象は、アメリカの医療施設にいた 66歳以上の50万9926人 4年間、認知症になるかどうかを追いかけた 使われたのは、いま日本でも使える組換えワクチン(シングリックス) その結果が、こちらです。 打っていない人の 24.6% に対して、打った人は 18.8%。差は5.8ポイント、割合にすると約24%低いという結果でした。研究チームは「およそ17人に1人の認知症を防げる可能性がある」と述べています。 もうひとつの手がかり「自然の実験」 「たまたまそうなっただけでは?」と思われるかもしれません。実は、それを確かめるのにとてもよくできた研究が、2025年に科学誌『Nature』に発表されています。 舞台はイギリスのウェールズ。ここでは以前、「1933年9月2日以降に生まれた人はワクチンを打てるが、それより前に生まれた人は一生打てない」という、誕生日で区切る制度がありました。 あなた たった数日の差で、打てる人と打てない人に分かれてしまったのですね。 Torapon そうなんです。そして研究者たちは、そこに目をつけました。生まれた日が1週間違うだけの人たちは、体質も暮らしぶりも、ほとんど同じはず。それなのに、ワクチンを打てたかどうかだけが違う。これなら「くじ引きで分けた実験」に近い形で比べられる、というわけです。 28万2541人を7年間追いかけた結果、ワクチンを打てた側では、認知症と診断された人が3.5ポイント少なく、割合にすると約20%低いという結果でした。とくに女性で、この傾向がはっきりしていました。 こちらは古いタイプの生ワクチンを使った研究です。種類の違うワクチンで、別々の国で、同じ方向の結果が出た——ここが、研究者たちが注目している理由です。 なぜ、ウイルスと認知症がつながるの? しくみは、まだはっきりとはわかっていません。ただ、いくつかの考え方があります。 ウイルスが神経を傷つける……目を覚ましたウイルスは神経に炎症を起こします。それが脳にも影響するのではないか、という考え方です 血管が傷む……帯状疱疹のあと、脳卒中や心筋梗塞が増えるという報告があります。血管の傷みは、認知症とも関わりの深いものです ワクチンが免疫全体を整える……ウイルスを抑えるだけでなく、体の守るしくみそのものによい影響があるのではないか、という見方もあります 血管の状態が脳を守るという話は、こちらの記事でもお話ししています。 👉 認知症を防ぐ「血管と代謝」の整え方 ここは、慎重に見てください 大事なところなので、はっきり書いておきます。これらの研究は、「ワクチンを打てば認知症を防げる」と証明したものではありません。 打つ人と打たない人は、もともと違う……ワクチンを打つ方は、健康に気を配っている方が多い傾向があります。研究チームはその影響を計算で取り除こうとしていますが、完全には取り除けません 研究チーム自身が慎重……ブラウン大学のチームも「ワクチンが理由だと確実には言えない」と明言し、今後さらに検証が必要だとしています 認知症を防ぐための薬ではありません……帯状疱疹ワクチンは、あくまで帯状疱疹を防ぐためのものです あなた では、この研究はあまり意味がないということでしょうか。 ...

August 1, 2026 · 1 分
紅葉の川沿いの道を、杖をついた夫と妻が寄り添って歩く後ろ姿のイラスト

体が弱ってきたら、頭も? 〜「フレイル」の変化と、認知機能の研究から〜

「最近、ペットボトルのふたが開けにくい」「歩くのが、前より遅くなった気がする」。 ご自分のことでも、離れて暮らす親のことでも、そんな小さな変化に気づいたことはありませんか。 こうした体の弱りは「フレイル(虚弱)」と呼ばれます。そして最近、体が弱っていく人は、頭の働きも落ちやすいことを示す研究が、いくつか出てきました。 今回は、「悪くなったとき」と「戻ったとき」に注目した研究を3つ、短くご紹介します。 ✅ 元気な状態からフレイルの側へ悪化した人は、元気なままの人にくらべて、頭の働きの落ち方が少し速いという結果でした ✅ 一方、フレイルの手前から元気に戻った人は、手前のままの人にくらべて、認知症になった人が約4割少なかったという研究もあります ✅ ただし、体を鍛えるだけで頭も守れる、とまでは言えません。くじ引きで調べた試験では、運動に「頭を使う」「食べる」を組み合わせたほうがよさそうでした 目次 そもそも「フレイル」とは? 悪化すると、頭の衰えも少し速い 手前から戻った人は、認知症が少なかった 運動だけで、頭も守れるの? 現場で感じていること いま、私たちにできること おわりに 参考にした情報 そもそも「フレイル」とは? フレイルとは、元気な状態と、介護が必要な状態の「あいだ」のことです。日本語では「虚弱」と訳されます。 日本では、次の5つのうち、3つ以上当てはまるとフレイル、1〜2つならフレイルの手前(プレフレイル)と考えます(日本版CHS基準・2020年改定)。 チェック項目 目安 体重が減った 6か月で2kg以上、意図せずに減った 握力が弱い 男性28kg未満、女性18kg未満 疲れやすい ここ2週間、わけもなく疲れたような感じがする 歩くのが遅い 1秒に1m未満(横断歩道を青のうちに渡りきれないくらい) 体を動かしていない 軽い運動・体操も、定期的な運動・スポーツも、週1回もしていない あなた いくつか当てはまるかも……。もう手遅れでしょうか? Torapon いいえ。フレイルのいちばん大事な特徴は、「戻れることがある」ところなんです。だからこそ、早めに気づくことに意味があります。 悪化すると、頭の衰えも少し速い 2026年9月に、中国・イギリス・アメリカの約2万人を合わせて調べた研究が発表されました(学術誌『Alzheimer’s & Dementia』)。 フレイルの状態を2年あけて2回測り、その後数年間、頭の働き(記憶・今日の日付などの見当識・段取りする力)を追いかけています。 はじめからフレイルやその手前だった人は、元気な人にくらべて、頭の働きが少しずつ速く落ちていました 元気な状態からフレイルの側へ悪化した人も、元気なままの人にくらべて、同じように少し速く落ちていました ただし、この研究には注意点が2つあります。 ここでの「フレイル」は、筋力ではなく、持病・症状・生活の不自由・気分の落ち込みなど、健康の問題がいくつ重なっているかで測ったものです フレイルが良くなった人で、頭の衰えがゆるやかになったかは、はっきりしませんでした。研究者自身も「フレイルを改善すれば頭が守られる、とは示していない」と書いています 手前から戻った人は、認知症が少なかった もうひとつ、体の弱りで測った研究があります(上の表のような項目で見る海外の物差しを、少し変えたものです)。2026年に発表された、60歳以上の約1万6千人を合わせて調べた研究です(学術誌『Journal of Advanced Research』)。 こちらも、フレイルの状態を2回測って、その「変化」と認知症の関係を見ています。 フレイルの変化 くらべた相手 認知症になった割合 元気 → 手前・フレイルに悪化 元気なままの人 約1.6倍 手前 → フレイルに悪化 手前のままの人 約1.9倍 手前 → 元気に戻った 手前のままの人 約0.6倍(約4割少ない) あなた 戻った人は、認知症が少なかったんですね! ...

October 13, 2026 · 2 分
ゴルフ場で仲間と一緒に体をほぐすシニアたちの水彩画

ゴルフを続けている人は、頭も元気? 〜4,575人の研究が教えてくれた「続けること」の意味〜

「そろそろ、ゴルフもやめどきかな」 「腰も痛いし、スコアも昔のようにはいかないし……」 そんなふうに、長く続けてきた趣味を手放すことを考えたことはありませんか。 2026年、国立長寿医療研究センターの島田裕之先生たちが、高齢者4,575人を対象にした研究を発表しました。テーマは、ゴルフと頭の元気との関係です。 理学療法士として現場に立っていると、趣味を手放した方から、少しずつ元気がなくなっていく——そんな場面に何度か出会うことがありました。今回の研究は、その実感に静かに重なるものでした。 ✅ 認知機能が下がっていた人の割合は、今もゴルフをしている人14.1%/やめた人20.1%/したことがない人21.6% でした ✅ 効いていそうなのは、歩く・頭を使う・人と交わる、この3つが同時にそろうこと です ✅ ただし 回数を増やす必要はありません 。関係していたのは「たくさん回ること」ではなく「続いていること」でした 目次 4,575人を、3つのグループに分けてみたら ゴルフの、何が効いているのでしょう ここは正直に——「だからゴルフをすれば安心」とは言えません では、ほかのスポーツや活動はどうなのでしょう 共通しているのは「3つ」と「続いていること」 私自身のこと いま私たちにできること おわりに 4,575人を、3つのグループに分けてみたら この研究では、高齢の方4,575人を、こんなふうに3つに分けて比べました。 今もゴルフをしている人 昔はしていたが、やめた人 ゴルフをしたことがない人 そして4種類の検査で、認知機能が下がっているかどうかを調べました。結果が、こちらです。 今も続けている人が14.1% 。やめた人が20.1%、したことがない人が21.6%でした。統計的にみても、続けている人は「したことがない人」よりはっきり低い、と報告されています。 さらに興味深いのは、次の2点です。 ゴルフ歴が長い人ほど、認知機能が下がっていない傾向がありました いっぽうで、年間のラウンド数や練習の量とは、はっきりした関係が見られませんでした あなた ゴルフをやめてしまった人は、もうダメということでしょうか……。 Torapon いいえ、そう読むのは早いです。実はこの研究、記憶に関しては「やめた人」にも良い関連がみられた と報告しています。それに、あとでお話ししますが、この数字には 逆向きの説明 も十分にあり得るんです。「頭が心配になってきたから、ゴルフをやめた」という順番ですね。 まとめると、この研究がいちばん強く示していたのは、こういうことになります。 月に何回も回っている人が良い成績だったのではありません。回数は少なくても、ゴルフをやめずに長く続けてきた人——そちらのほうに、良い結果が出ていたのです。 ゴルフの、何が効いているのでしょう では、ゴルフの何が頭に関わっているのでしょうか。研究チームは、ゴルフを「体・頭・人づきあい、いくつもの要求が重なる活動」だととらえています。 ① 歩く 18ホールを回れば、カートを使っても、けっこうな距離を歩きます。歩いて回れば8〜10km、1万歩を超えることも珍しくありません。しかも平らではありません。上り下り、傾いた足場、ラフの中。ただの散歩より、体の使い方はずっと複雑です。 ② 頭を使う ここがゴルフの、いちばん面白いところかもしれません。 風の向きと強さ、グリーンまでの残り距離、足元の傾き、池やバンカーの位置、そして今日の自分の調子。それを全部あわせて、1本のクラブを選ぶ 。しかも、状況は毎回ちがいます。同じ場面は二度とありません。 あなた 言われてみれば、ラウンド中はずっと何か考えていますね。 Torapon そうなんです。しかも「決めて、打って、結果を見て、次を考える」のくり返しでしょう。これは脳の中でも 段取りをつけたり、切り替えたりする働き をよく使います。ふだんの生活では、なかなかここまで使わないんですよ。 これを裏づける研究もあります。同じ島田先生たちが2018年に行った試験では、運動習慣のなかった65歳以上の106人を、24週間のゴルフ教室と健康講座のグループにくじ引きで分けました。その結果、ゴルフ教室のグループでは、単語を覚える力が6.8%、お話を覚える力が11.2% 高くなったと報告されています。 こちらは「くじ引きで分けて比べた試験」なので、ゴルフの側に原因があると言いやすい研究です。 ③ 人と交わる そしてもう一つ。ゴルフは、4時間前後を、だれかと一緒に過ごす遊びです。 ...

August 11, 2026 · 2 分
朝の窓辺で、年配の夫婦がコーヒーカップを手に、ゆったりと過ごしているイラスト

コーヒーを飲む人は、認知症が少なかった? 〜13万人を最長43年追った研究から〜

「コーヒーは、体にいいの? 悪いの?」。 昔から、よく話題になるテーマです。脳についても、「良い」という研究と「はっきりしない」という研究があり、決着がついていませんでした。 2026年2月、アメリカの医学雑誌『JAMA』に、13万人あまりを最長43年追いかけた研究が発表されました。この研究のポイントは、カフェイン入りのコーヒーと、カフェインレスのコーヒーを分けて調べたことです。 ✅ アメリカの約13万2千人を最長43年追った研究で、カフェイン入りコーヒーをいちばん多く飲むグループは、いちばん少ないグループにくらべて、認知症になる危険が18%低いという関係が見られました ✅ お茶でも似た関係が見られました。一方、カフェインレスのコーヒーでは、関係は見られませんでした ✅ 関係がいちばんはっきりしていたのは、コーヒーなら1日2〜3杯、お茶なら1〜2杯ほど。ただし「関係が見られた」研究で、「飲めば防げる」と証明したものではありません 目次 どんな研究だったのか カフェイン入りを多く飲む人は、認知症が少なかった カフェインレスでは、関係が見られなかった 「たくさん飲むほど良い」わけではない いま、私たちにできること おわりに 参考にした情報 どんな研究だったのか 研究したのは、アメリカのハーバード大学などのチームです。使ったのは、長く続いている2つの健康調査でした。 女性の看護師 約8万7千人(1980年から2023年まで) 男性の医療職 約4万5千人(1986年から2023年まで) 合わせて13万1,821人です。はじめの時点で、がん・パーキンソン病・認知症のない人たちでした。始めたときの平均年齢は、女性が46歳、男性が54歳ほどで、まだ働き盛りの世代です。 参加者は、2〜4年ごとに、何をどれくらい食べたり飲んだりしているかのアンケートに答えてきました。追いかけた期間は最長43年、半分の人は37年ほど以上。その間に、1万1,033人が認知症と診断されています。 あなた 40年以上も! そんなに長く調べた研究なんですね。 Torapon そうなんです。認知症は、症状が出る何十年も前から、脳の変化が始まるといわれています。中年のころの習慣と、何十年も後の認知症を結びつけて見られるのが、この研究の強みです。 カフェイン入りを多く飲む人は、認知症が少なかった 研究チームは、カフェイン入りコーヒーを飲む量で、参加者を4つのグループに分けました。 そして、結果に影響しそうなほかの要因をできるだけ差し引いて比べると、 いちばん多く飲むグループは、いちばん少ないグループにくらべて、認知症になる危険が18%低かった 「最近、もの忘れが増えた」と自分で感じている人の割合も、いちばん多く飲むグループで7.8%、いちばん少ないグループで9.5%と、少なめでした 女性の看護師の調査では、電話で頭の働きを確かめるテストも行われています。こちらでも、いちばん多く飲むグループのほうが、点数が少し高めでした。 ただ、その差は41点満点で0.11点ほど。とても小さな差です。いくつかのテストを合わせた成績では、偶然でも起こりうる程度の差にとどまりました。研究チーム自身も「わずかに良い(modestly better)」という言い方をしています。 お茶でも、似た関係が見られました。なお、要旨からは、お茶の種類(紅茶・緑茶など)の内訳は分かりません。 カフェインレスでは、関係が見られなかった この研究でいちばん目を引くのが、ここです。 カフェインレスのコーヒーを多く飲む人では、認知症の少なさとも、頭の働きのテストとも、関係が見られませんでした。 研究チームによると、これまでの研究の多くは、カフェイン入りとカフェインレスを区別せずに「コーヒー」としてまとめて調べていました。結果がそろわなかった理由のひとつは、そこにあったのかもしれません。今回は2つを分けて見たことで、「同じコーヒーでも、カフェイン入りのほうにだけ関係があった」ことが見えてきました。 あなた ということは、カフェインが脳に良いということですか? Torapon そう考えたくなりますよね。ただ、この研究は飲む量を割り振って比べたものではなく、ふだんの習慣を調べたものです。カフェインそのものが効いているのか、カフェイン入りを飲む人の暮らし方に何か違いがあるのかは、この研究だけでは分かりません。「カフェイン入りのほうに関係があった」と受け止めておくのが正確です。 「たくさん飲むほど良い」わけではない 量と認知症の関係を細かく見ると、まっすぐな関係ではありませんでした。 関係がいちばんはっきりしていたのは、 カフェイン入りコーヒーなら、1日2〜3杯ほど お茶なら、1日1〜2杯ほど 研究チームのまとめも「ほどほどの量で、関係がいちばん強かった」というものです。 なお、要旨には「1杯」が何ミリリットルかは書かれていません。また、砂糖やミルクの量、飲む時間帯について調べたかどうかも、要旨からは分かりません。 あなた じゃあ、今日から1日3杯にしようかな。 Torapon すでにコーヒーが好きな方は、「ほどほどに楽しんでいれば十分」と受け取ってください。飲めない方、苦手な方が、無理に飲み始める必要はありません。この研究は、そこまでは示していません。 いま、私たちにできること ☑ 好きな人は、ほどほどに楽しむ……研究で関係がいちばんはっきりしていたのは、1日2〜3杯ほど。増やすほど良い、という結果ではありませんでした ☑ 砂糖やミルクは控えめに……この研究で調べたことではありませんが、甘い飲み物を何杯も、となると、ほかの面が心配になります ☑ 夕方以降は控えめに……カフェインで眠りが浅くなると、元も子もありません。睡眠と脳の関係は、こちらで紹介しています。 👉 「何時間寝たか」より「毎日同じ時刻か」? ☑ 合わない人は、無理に飲まなくてよい……胃が荒れる、動悸がする、眠れなくなる方、心臓の病気や妊娠中などでカフェインを控えるよう言われている方は、主治医の指示を優先してください 🔎 家でゆっくり、コーヒーを淹れたい方へ 豆を挽いて、ゆっくり淹れる時間そのものが、ひと息つく習慣になります。今回の研究で関係が見られたのはカフェイン入りのコーヒーでした。 ...

October 23, 2026 · 1 分
朝の食卓で、ぬか漬けや野菜のおかず、ごはんとみそ汁を前に、年配の夫婦がくつろいでいるイラスト

おなかの中と『脳の年齢』は、つながっている? 〜腸内細菌と脳の老け具合の研究から〜

「腸は第二の脳」。そんな言葉を、テレビや雑誌で見かけたことがあるかもしれません。 2026年9月、アメリカのカリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)などのチームが、腸内細菌(おなかの中にすむ細菌)や便に含まれる物質が、脳の「老け具合」と関係していたという研究を発表しました。 ただ、中身をよく読むと、「この菌を増やせば脳が若返る」という話ではありません。どこまで分かって、どこから先が分からないのか。一緒に見ていきましょう。 ✅ 約1,500人の脳をMRIで調べると、実際の年齢より脳が老けて見える人は、記憶や段取りの力がやや低く、気分も落ち込みぎみでした ✅ 便を調べた182人では、いくつかの腸内細菌や便の中の物質が、脳の老け具合と関係していました。ただし、その関係はごく小さなものでした ✅ ある1回の時点で調べた研究で、腸が先か脳が先かは分かりません。参加者の多くは30歳前後で、食事も調べていません 目次 「脳の年齢」って、どうやって測るの? 脳が老けて見える人は、記憶や気分も おなかの中を調べてみると 「良い菌・悪い菌」とは言えない理由 いま、私たちにできること おわりに 参考にした情報 「脳の年齢」って、どうやって測るの? 研究チームは、脳がぼんやり休んでいるときの様子を、MRI(磁気で体の中を写す検査)で撮影しました。 休んでいるときでも、脳のあちこちの部分は、互いに連絡を取り合っています。その「つながり方」は、年齢とともに少しずつ変わっていきます。 そこで、たくさんの人のデータをコンピューターに学ばせて、つながり方から「この脳は何歳くらいに見えるか」を当てるしくみを作りました。 脳から見た年齢が、実際の年齢より上 → 脳が「老けて見える」 脳から見た年齢が、実際の年齢より下 → 脳が「若く見える」 この差を、研究では「脳の老け具合」の目安にしています。 あなた 脳のシワや縮み具合を見るのとは、ちがうんですね。 Torapon そうなんです。今回は形ではなく、脳の部分どうしの「連絡のとり方」を見ています。ですから、ここでいう「老けて見える」は、病気があるという意味ではありません。あくまで、たくさんの人とくらべたときの「個人差」です。 脳が老けて見える人は、記憶や気分も 研究に参加したのは、病気のない18〜65歳の約1,500人(1,462人)です。年齢の真ん中は30歳前後で、若い人や働き盛りの人が中心でした(学術誌『eBioMedicine』2026年10月号、オンライン公開は9月)。 使われたデータは、アメリカのほか、日本の研究で集められた690人分も含まれています。 3つのグループ(674人・444人・344人)に分けて、同じ結果がくり返し出るかを確かめています。 結果は、次のとおりでした。 脳が老けて見える人ほど、少しのあいだ覚えておく力(ワーキングメモリ)や、段取りよく物事を進める力のテストの点が、やや低め 脳が老けて見える人ほど、気分の落ち込みの点数が、やや高め この傾向は、3つのグループで、くり返し見られた ただし、論文自身も「関係の強さは控えめ」と書いています。脳の老け具合は、記憶や気分を左右するたくさんある要因の1つ、と考えるのがよさそうです。 おなかの中を調べてみると ここからが、腸の話です。 3つめのグループ(ロサンゼルスの344人)のうち、脳の検査と便の検査がそろった182人について、便の中の細菌の種類と物質をくわしく調べました。 その結果、次のようなものが、脳の老け具合と関係していました。 便の中で見つかったもの 脳が老けて見える人で クロストリジウム、コリンセラなど、いくつかの細菌 多い傾向 セラミド(脂の一種で、体の炎症にも関わる物質) 多い傾向 24-ヒドロキシコレステロール(コレステロールが形を変えたもの) 多い傾向 エステトロール(女性ホルモンの仲間) 少ない傾向 では、なぜ便の中の菌や物質が、脳の老け具合と関係するのでしょうか。 研究チームは、これらの菌や物質が、体の中の炎症や血管の働き、脳の神経どうしのつながり、細胞がエネルギーを作るしくみなどを通して、脳に影響しているのではないか、と考えています。ただし、これはまだ「そうかもしれない」という段階の考えです。 ただ、気をつけたい点が2つあります。 関係の大きさは、ごく小さい……脳の老け具合は、同じ年齢でも人によって差があります。その差のうち、腸の様子で説明がついたのは、計算上わずか2%ほどでした。残りの大部分は、腸とは別の理由によるものです 調べた人にかたよりがある……182人を含むこのグループは、9割ほどが女性(344人中312人)でした。研究チームも「男女半々の、もっと大きな集団で確かめる必要がある」と書いています あなた たった2%なんですか。もっと大きな話かと思いました。 Torapon 報道の見出しだけだと、そう感じますよね。でも、腸と脳を同じ人で同時に調べた研究は、まだ少ないんです。「関係の手がかりが見えてきた」という、入り口の研究として受け取るのがちょうどいいと思います。 「良い菌・悪い菌」とは言えない理由 「脳が老けて見える人に多かった菌」と聞くと、つい「悪い菌だ」と思いたくなります。でも、そう決めつけるのは早すぎます。 ① どちらが先か、分からない この研究は、ある1回の時点で、脳と便を調べたものです。時間を追って変化を見たわけではありません。 腸の状態が、脳に影響したのか 脳やストレスの状態が、腸に影響したのか 食事や睡眠など、別の何かが両方に影響したのか このどれなのかは、分かりません。論文でも「原因や順番は言えない」と、はっきり書かれています。 ...

October 21, 2026 · 1 分