野球を応援して喜ぶシニアのイラスト

"好きなこと"が、認知症の心をほどく? 〜阪神優勝とBPSDの研究から〜

認知症のご家族が、以前より 怒りっぽくなった、あるいは 元気がなくなって一日ぼんやり過ごすようになった――そんな変化に、戸惑ったことはありませんか? こうした、もの忘れ以外の「心と行動の変化」は、ご本人にとっても、支えるご家族にとっても、とてもつらいものです。 そんな中、ちょっと驚くような、でも心があたたかくなる研究が報告されました。テーマは、なんと 「プロ野球」。阪神タイガースが優勝したあと、ファンの認知症の方の “心の症状” がやわらいだ というのです。 理学療法士として長く介護の現場にいる私自身、学生時代は野球部で、いまも阪神ファンのひとり。この話には、つい身を乗り出してしまいました。今日は、この研究から見えてくる 「好きなこと・楽しみの力」 について、ごいっしょに考えてみたいと思います。 ✅ 阪神ファンの認知症の方 19名 で、2023年の優勝後に BPSD(ビーピーエスディー=認知症にともなう心と行動の症状)が やわらいだ と報告された ✅ 怒りっぽさ・無気力・興奮・昼夜逆転・気分の落ち込みなど、幅広い症状 で良い変化がみられた ✅ ただし 19名の小さな探索的な研究。「好きなこと・楽しみが心に効くかもしれない」という ヒント として受け止めたい 目次 そもそも「BPSD」って何? どんな研究だったの? どんな症状が、やわらいだの? なぜ「好きなこと」が、心に効くのでしょう 理学療法士として、私自身のこと いま、私たちにできること おわりに そもそも「BPSD」って何? 認知症というと、「もの忘れ」を思い浮かべる方が多いと思います。これは 中核症状(ちゅうかくしょうじょう)と呼ばれる、脳のはたらきが直接およぼす症状です。 いっぽうで、それを取り巻くように現れるのが BPSD(行動・心理症状)です。たとえば、 怒りっぽくなる、強い言葉が出る 不安そうにする、落ち着かず動き回る 元気がなくなる、何ごとにも関心をしめさなくなる 昼と夜が逆転する 気分が沈む といったものです。BPSDは、ご本人の体調・気持ち・まわりの環境 などによって、強くなったり、やわらいだりします。裏を返せば、接し方や環境を整えることで、和らげられる可能性がある ということでもあります。 どんな研究だったの? 今回の研究は、大阪・脳神経内科はつたクリニックの 初田裕幸(はつた ひろゆき)医師 らによるもので、医学誌 Geriatrics & Gerontology International(2026年5月号)に報告されました。 研究では、関西地方にお住まいの認知症の方 855名 を対象に、プロ野球の試合結果 と BPSDの変化 に関係がないかを調べました。 そして、そのうち 阪神タイガースのファンだった19名 に注目したところ、2023年にチームがセ・リーグで優勝したあと、BPSDのスコア(症状の強さを表す点数)が、はっきりと下がっていた(=症状がやわらいでいた)のです。 ここで、ひとつ大切なことを正直にお伝えします。これは 「探索的レトロスペクティブ研究」 といって、過去の記録をふり返って関係を探す、最初の手がかりを見つけるタイプ の研究です。注目したのも19名という小さな人数。ですから、「優勝すれば症状が必ず良くなる」と言い切れるものではありません。あくまで 「こういう面白い関係がありそうだ」という、出発点の発見 です。 ...

June 24, 2026 · 1 分
猛暑の中で涼をとるシニアのイラスト

夏の暑さは、脳にも効いていた? 〜猛暑と認知症リスク、今年からできる対策〜

年々きびしくなる夏の暑さ。「ご高齢のご家族が心配」「自分も夏になると体がつらい」と感じている方は、多いのではないでしょうか。 暑さといえば、まず気になるのは 熱中症。けれど最近、それだけではない可能性を示す研究が報告されました。テーマは 「長く続く猛暑と、認知症のリスク」 です。 日本の大規模な調査で、極端な暑さに何年もさらされることが、認知症の発症リスクと関係していそうだ という結果が出たのです。少し心配な話に聞こえるかもしれませんが、大事なのは 「だからこそ、今年の夏からできる対策がある」 ということ。今日は、研究の中身と、すぐに実践できる暑さ対策を、ごいっしょに見ていきます。 ✅ 日本の高齢者 約5万7千人 の調査で、極端な暑さに多くさらされた人ほど、認知症の発症リスクがやや高まる傾向がみられた ✅ 目安として、猛烈に暑い日が7日増えるごとに、認知症のリスクが約9%・亡くなるリスクが約13% 高まる計算だった ✅ ただし「暑さが原因」と言い切れる段階ではない。だからこそ 今年の夏から、エアコン・水分・室温の対策 を大切にしたい 目次 どんな研究だったの? どれくらい、リスクが上がるの? なぜ暑さが、脳に関わるのでしょう 理学療法士として、夏の現場で感じること いま、私たちにできること おわりに どんな研究だったの? あなた 暑さで「熱中症」はよく聞きますけど、「認知症」にも関係があるなんて初耳です。どんな調査だったんですか? Torapon 日本の高齢者 約5万7千人 を長く追いかけた、とても大きな調査なんです。順番に見ていきましょう。 この研究は、東京科学大学・公衆衛生学分野の 森田彩子(もりた あやこ)氏 らによるもので、認知症の世界的な医学誌 Alzheimer’s & Dementia(2026年1月4日号)に報告されました。 使われたのは、JAGES(ジェイジス=日本老年学的評価研究) という、日本の高齢者を長く追いかけた大規模な調査のデータ(2016〜2019年)です。対象になったのは、同じ町に30年以上住み、認知症がなく、自立して生活している65歳以上の方 約5万7千人。これだけ多くの方を追跡した、信頼性の高い調査です。 研究では、それぞれの地域の ふだんの気候とくらべて「極端に暑い日」が何日あったか を計算し、その暑さへの「のべの量」が多い人と少ない人で、その後の 認知症の発症 や 死亡 に差が出るかを調べました。 追跡のあいだに、2,454名(4.3%)が認知症を発症し、2,375名(4.2%)が亡くなっていました。 どれくらい、リスクが上がるの? 結果は、「極端な暑さにさらされた量が多い人ほど、認知症や死亡のリスクがやや高くなる」 という傾向を示すものでした。 数字でいうと、わかりやすい目安はこちらです。 猛烈に暑い日が7日ふえるごとに、認知症になるリスクは約 9%、亡くなるリスクは約 13% 高まる計算だった さらに研究チームは、2016〜18年に実際にあったレベルの猛暑 にあてはめると、認知症のリスクは 約1.43倍、死亡のリスクは約1.63倍になると試算した あなた 「1.43倍」って聞くと、ちょっとこわい数字です……。 Torapon どきっとしますよね。でも、ここで落ち着いて受け止めたい点があるんです。 これは たくさんの人を集めて見たときの「全体の傾向」 であって、「暑い夏を過ごした人が必ず認知症になる」という意味ではありません。また、この種の研究は 「関係がありそうだ」を示すもの で、暑さが直接の原因だと断定できる段階ではない、ということも大切です。 ...

June 25, 2026 · 1 分
夜空と眠りのイメージ

眠っている間に、脳は「明日の準備」をしている? 〜睡眠と“未来の記憶”の意外な関係〜

「寝ている間って、脳はただ休んでいるだけなのかな?」 ふと、そんなふうに思ったことはありませんか。 じつは睡眠中の脳は、思っている以上に いそがしくはたらいている ことがわかってきました。今回は、そんな研究のひとつをご紹介します。 脳は眠っている間に、「昨日までの記憶」を整理するだけでなく、「これから経験すること」の準備まで進めている ✅ 睡眠中の脳は、過去の記憶を保存する はたらきと、未来の記憶に備える はたらきを、同時に 進めていた ✅ これから覚えることを担当する細胞が、経験するより前の睡眠中に、すでに準備されている ことがわかった ✅ つまり睡眠は「ただの休み」ではなく、脳が舞台裏でせっせと働いている時間 だった(※マウスでの研究です) 目次 睡眠と記憶の、これまでの話 見つかった「明日の準備」のしくみ いま私たちにできること おわりに 睡眠と記憶の、これまでの話 私たちが眠っている間、脳は その日に見聞きしたことを整理して、しっかりした記憶に変えている ――これは以前からよく知られていました。 詳しくは、こちらの記事もどうぞ。 👉 眠っている間、脳は何をしているの? ところが今回の研究では、脳が整理しているのは「過去」だけではなかった、という新しい一面が見えてきました。 見つかった「明日の準備」のしくみ 富山大学のチームが、自由に動きまわるマウスの脳を、特別な小さな顕微鏡でのぞいて観察しました。 すると――記憶を担当する細胞のうち、「これから経験することを覚える」役の細胞 が、その経験をする より前の睡眠中に、すでに準備されている ことがわかったのです。 しかもこの“準備係”の細胞は、前の出来事を覚えたあとの睡眠中に用意される ようで、「昨日の経験」が「明日の記憶の受け皿」づくりに影響している可能性も示されました。 脳は眠っている間に、過去をしまいながら、未来の置き場所まで整えている――そんなイメージです。 ※ この研究は2025年、科学誌『Nature Communications』に発表されたものです。マウスでの研究 であり、人でまったく同じことが起きると確認されたわけではありません。 いま私たちにできること むずかしい話になりましたが、私たちにできることは、とてもシンプルです。 ✅ 睡眠時間をけずらない(記憶の整理も準備も、眠っている間に進みます) ✅ 毎日だいたい同じ時間に寝起きする(脳のリズムが整います) ✅ 寝る前のスマホ・明るい光をひかえる ✅ 昼間に体を動かす(夜の眠りが深くなります) 「しっかり眠ること」が、昨日の自分にも、明日の自分にも役立っている。そう思うと、眠る時間がちょっと愛おしく感じられますね。 具体的な眠り方のコツは、こちらにまとめています。 👉 脳が喜ぶ眠り方 おわりに 「寝る子は育つ」と言いますが、どうやら 大人の脳にとっても、睡眠は“育ちの時間” のようです。 過去を整理し、未来に備える――そんな脳の働きを思いながら、今夜もゆっくり休んでください。それが、いちばん身近な“脳のケア”なのかもしれません。 📚 あわせて読みたい一冊 PR スタンフォード式 最高の睡眠 睡眠研究の世界的な拠点・スタンフォード大学の研究者が、「眠りの質を上げるコツ」をやさしくまとめた30万部超のベストセラー。今日からできる工夫がたくさん載っています。 Amazonで見る 楽天で見る 参考にした情報 富山大学 学術研究部医学系 生化学講座の研究/井ノ口馨 卓越教授ほか 科学誌『Nature Communications』2025年発表の論文(睡眠中の記憶の並行処理) ※ 本記事は、上記の信頼できる研究・大学発表をもとに、一般読者向けにわかりやすくまとめ直したものです。紹介した内容は研究段階のものです。睡眠や体調についてご心配がある場合は、かかりつけ医にご相談ください。

June 20, 2026 · 1 分
朝日のイラスト

アルツハイマー病に明るい光? 〜『NAD+』研究の進展と、いま私たちにできること〜

ご家族にアルツハイマー病の方がいらっしゃる、あるいは「もしかして自分も…」と気になっている。 そんな方にとって、「いつか治る薬は出るのだろうか」 という思いは、いつも心のどこかにあるのではないでしょうか。 最近、医療ニュースで興味深い研究が紹介されました。 「進行したアルツハイマー病が『元に戻る』可能性」 そんな見出しが踊る、最新の研究レポートです。 私自身、母がアルツハイマー型認知症で施設に入所しているので、この記事を読んだとき、思わず食い入るように画面を見つめました。 今回は、その内容を 冷静に、わかりやすく お伝えしつつ、いま私たちにできることを一緒に考えてみたいと思います。 ✅ 海外で「進行したアルツハイマー病から脳の機能を取り戻す可能性」を示す研究が発表されました ✅ 鍵となるのは 「NAD+(ナドプラス)」 という、細胞のエネルギー源となる物質 ✅ ただし まだマウスの段階。すぐ使える治療ではないけれど、これまでにない新しい希望が見えてきました 目次 これまでの治療と、何が違うの? NAD+(ナドプラス)ってどんな物質? 研究でわかったこと でも、すぐ人に使えるわけじゃない理由 私が感じたこと いま、私たちにできること おわりに これまでの治療と、何が違うの? これまでのアルツハイマー病の治療や薬は、「進行を遅らせる」ことが目標でした。 最近話題になった抗体薬(レカネマブなど)も、脳にたまる「アミロイドβ」というゴミを取り除いて、進行をゆっくりにする働きをします。とても大切な進歩ですが、「失われた記憶や能力が戻ってくる」わけではありません。 ところが今回の研究では── これまでの治療 今回の研究 目標 進行を 遅らせる 失われた機能を 取り戻す ねらい アミロイドβの除去 脳の 修復力 を取り戻す 段階 一部すでに使用中 まだマウス実験 「取り戻す可能性」というのは、これまでなかった視点です。だから医療界では 画期的 と評価されています。 NAD+(ナドプラス)ってどんな物質? NAD+(ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド) という名前は難しいですが、はたらきはシンプルです。 私たちの すべての細胞の中 に存在し、エネルギーを生み出したり、傷ついた DNA を修復したり するために欠かせない、いわば「燃料」のような物質です。 体が元気に動くにも、傷を治すにも、NAD+ が必要です。 NAD+ が枯渇すると… 研究チームは、アルツハイマー病のマウスの脳と、実際の人間の患者さんの脳でも、この NAD+ のバランスが崩れて、枯渇している ことを突き止めました。 つまり── 脳がダメージを受けても、それを 修復するための「燃料」が足りない。 結果として、脳の防御システムが崩れ、アルツハイマー病が進んでいく。 ...

May 4, 2026 · 1 分
脳のイラスト

脳は「自分で治す力」を取り戻せる? 〜改良型ビタミンKと神経再生の研究〜

「一度こわれた脳の神経は、もう元には戻らない」―― 長いあいだ、そう考えられてきました。 でも、その常識を少しずつ書きかえるような研究が出てきています。今回は、日本の大学から届いた、こんなお話です。 ビタミンKを改良した新しい物質が、「神経のもと」から神経細胞が育つのを、約3倍も後押しした ワクワクする話ですが、これも まだ研究の入り口 の段階です。「将来が楽しみな芽」として、やさしくお伝えします。 ✅ 芝浦工業大学のチームが、ビタミンKを改良した新しい化合物 をつくった ✅ その化合物は、「神経のもと(神経幹細胞)」を神経細胞に変える力が、天然のビタミンKの約3倍 だった ✅ ただし、これは 培養した細胞での実験。市販のビタミンKサプリとは 別物 で、「飲めば脳が再生する」話ではありません 目次 神経細胞は、本当に増えないの? 改良型ビタミンKの研究 ここを誤解しないで おわりに 神経細胞は、本当に増えないの? 私たちの脳は、たくさんの 神経細胞 がつながり合ってできています。これらは増えにくく、傷つくと戻りにくい――それが長年の「常識」でした。 ところが近年、脳の中には「神経のもと(神経幹細胞=しんけいかんさいぼう)」が残っていて、条件がそろえば 新しい神経細胞が生まれうる ことが分かってきました。そこで「このもとを、上手に神経細胞へ育てられないか?」という研究が進んでいるのです。 改良型ビタミンKの研究 芝浦工業大学のチームは、ビタミンK に注目しました。ビタミンKをそのまま使うのではなく、ビタミンAに関係する成分と組み合わせて、新しい化合物を設計したのです。 すると、その化合物は「神経のもと」を神経細胞に変える力が、天然のビタミンKのおよそ3倍 にもなりました。研究チームは、将来的に アルツハイマー病やパーキンソン病 のように神経が失われる病気の治療に、役立つ可能性があると期待しています。 この研究は2026年、専門誌『ACS Chemical Neuroscience』に発表されました。 ここを誤解しないで とても大事な注意点があります。 今回すごい働きを見せたのは、研究者が 新しく設計した特別な化合物 です。納豆や青菜に含まれる、ふだんのビタミンKとは別物 ですし、市販のビタミンKサプリを飲めば脳が再生する、という話ではありません。 また、実験は 培養した細胞 で行われたもので、人や動物の体で確かめるのはこれからです。期待しすぎず、研究の進み具合を見守りたいですね。 ⚠️ 血液をさらさらにするお薬(ワルファリンなど)を飲んでいる方 は、ビタミンKのとり方に注意が必要です。食事やサプリを変える前に、必ずかかりつけ医にご相談ください。 ビタミンKそのものは、骨や血管の健康に欠かせない大切な栄養です。納豆・ほうれん草・ブロッコリーなどから、ふだんの食事でバランスよく とるのがおすすめです。 おわりに 「こわれた脳は戻らない」という常識が、研究の進歩で少しずつ変わろうとしています。脳が 自分自身を修復する力 を引き出す――そんな未来の入り口に、私たちは立っているのかもしれません。 すぐに治療が変わるわけではありませんが、こうした地道な研究の積み重ねが、いつか大きな希望につながります。今日できることは、バランスのよい食事と、無理のない生活。基本を大切にしながら、明るいニュースを待ちましょう。 📚 あわせて読みたい一冊 PR LIFESPAN(ライフスパン)老いなき世界 ハーバード大学の老化研究の第一人者が、「老い」を科学の力でどこまで遅らせ、若返らせられるのかを語った世界的ベストセラー。体や脳が自分を修復する力という、今回の話とも通じるテーマを大きな視野で学べます。 Amazonで見る 楽天で見る 参考にした情報 芝浦工業大学の研究チーム(ビタミンKを改良した神経再生化合物) 専門誌『ACS Chemical Neuroscience』2026年発表の論文 ※ 本記事は、上記の信頼できる研究・大学発表をもとに、一般読者向けにわかりやすくまとめ直したものです。紹介した内容は培養細胞を用いた研究段階のものであり、治療効果やサプリメントの効果を示すものではありません。お薬の服用中の方・治療中の方は、必ずかかりつけ医にご相談ください。

June 1, 2026 · 1 分
朝日と研究のイメージ

アルツハイマーの「炎症スイッチ」が見つかった? 〜脳の火を消す研究の最前線〜

「認知症の薬や治療は、これからどうなっていくの?」 ご家族のことを思って、そんなふうに気になっている方も多いと思います。 今回は、アルツハイマー病の研究の最前線から、ひとつ明るいニュースが届きました。 アルツハイマー病の脳で「炎症を止まらなくするスイッチ」になっているタンパク質が見つかった ただし、これは まだ研究の段階 の話です。期待しすぎず、でも前向きに――そんな気持ちで読んでいただければと思います。 ✅ アルツハイマー病の脳では「STING(スティング)」というタンパク質が、炎症をいつまでも続けさせるスイッチ になっていた ✅ マウスの実験で、このスイッチが入るのを防いだところ、脳の炎症がやわらいだ ✅ ただし 動物実験の段階 で、すぐに使える薬ではない。「新しい治療の的(まと)が見つかった」というニュースです 目次 そもそも「脳の炎症」って? 見つかった「炎症スイッチ」の話 いま私たちにできること おわりに そもそも「脳の炎症」って? 私たちの体には、ばい菌やケガから身を守る「免疫(めんえき)」のしくみがあります。脳にも、同じように見張り役の細胞がいて、異常があると 炎症 を起こして対応します。 ところが、この炎症が 必要もないのにずっと続いてしまう と、今度は脳そのものを傷つけてしまいます。アルツハイマー病では、この「消えない炎症」が、神経のつながりを弱らせる一因と考えられてきました。 見つかった「炎症スイッチ」の話 アメリカのスクリプス研究所のチームが、この「消えない炎症」の犯人をつきとめました。 カギになっていたのは、免疫の見張り役として働く「STING(スティング)」というタンパク質です。アルツハイマー病の脳では、このSTINGが 化学的に変化 してしまい、炎症のスイッチが入りっぱなしになっていたのです。 そこで研究チームが、マウスの実験で この変化が起きないように したところ――脳の炎症がやわらいだことが確認されました。研究を率いた神経内科医のスチュアート・リプトン博士は、これを「アルツハイマー病の新しい、重要な治療の的(まと)になる」と話しています。 ※ この研究は2026年、医学誌『Cell Chemical Biology』に発表されたものです。マウスでの段階 であり、人に使える薬ができたわけではありません。 いま私たちにできること 「新しい薬を待つ」だけでなく、今日からできること もあります。脳の余計な炎症を抑えるには、こんな生活習慣が役立つと考えられています。 ✅ 適度な運動 を続ける(歩く・体操など) ✅ しっかり眠る(睡眠中に脳の掃除が進みます) ✅ 野菜・魚を中心としたバランスのよい食事 ✅ 歯みがき・歯科受診など 口の中を清潔に保つ(歯周病の炎症も関係するといわれます) 特別なことではなく、いつもの暮らしの延長です。 運動と脳の関係は、こちらの記事もどうぞ。 👉 認知症を遠ざける運動のヒント おわりに 炎症という「脳の中の火」を、どこで消せばいいのか――その スイッチの場所 が見えてきた。これは、これからの認知症研究にとって大きな一歩です。 すぐに治療が変わるわけではありませんが、世界中の研究者が一歩ずつ前に進んでいます。私たちは過度に不安にならず、今できる生活習慣を大切にしながら、こうした明るいニュースを待ちたいですね。 📚 あわせて読みたい一冊 PR アルツハイマー病 真実と終焉 アルツハイマー病を「炎症・栄養・毒素」など複数の原因から見直す、世界的に話題になった一冊(白澤卓二先生監修)。今回の炎症の話とも通じる、生活習慣からのアプローチがやさしく整理されています。 Amazonで見る 楽天で見る 参考にした情報 スクリプス研究所(米国)の研究/責任著者:スチュアート・リプトン博士 医学誌『Cell Chemical Biology』2026年発表の論文(STINGタンパク質と脳の炎症) ※ 本記事は、上記の信頼できる研究・大学発表をもとに、一般読者向けにわかりやすくまとめ直したものです。紹介した内容は研究段階のものであり、治療効果を保証するものではありません。治療やお薬については、必ず主治医・かかりつけ医にご相談ください。

June 1, 2026 · 1 分
研究と希望のイメージ

アルツハイマー病に「もうひとつの引き金」? 〜脳の“発電所”をふさぐタンパク質の発見〜

「認知症の研究は、いまどこまで進んでいるの?」 ご家族のことを思って、そんなふうに気になっている方も多いと思います。 今回は、アルツハイマー病の研究の最前線から、また新しい発見が届きました。 アルツハイマー病の脳で「細胞のエネルギー工場」をふさいでしまうタンパク質が見つかった ただし、これは まだ研究の段階 の話です。期待しすぎず、でも前向きに――そんな気持ちで読んでいただければと思います。 ✅ アルツハイマー病の脳では「GRK2(ジーアールケーツー)」というタンパク質がかたまり、細胞の“発電所”であるミトコンドリアをふさいでいた ✅ それによって、認知症のもとと言われる アミロイドβ(ベータ)が増える悪循環 が起きていた ✅ マウスの実験で、このかたまりを防ぐ候補の物質を使うと、神経細胞の傷みがやわらいだ。ただし まだ動物実験の段階 で、すぐ使える薬ではありません 目次 そもそも「ミトコンドリア」って? 見つかった新しい「悪循環」の話 いま私たちにできること おわりに そもそも「ミトコンドリア」って? 私たちの体は、目に見えないほど小さな「細胞(さいぼう)」が、たくさん集まってできています。その細胞の一つひとつの中に、体を動かすためのエネルギーをつくる、小さな工場 があります。これが「ミトコンドリア」です。車でいえばエンジン、家でいえば電気をつくる発電所のような、大切な役わりをしています。 脳の神経細胞は、とてもたくさんのエネルギーを使います。ですから、このミトコンドリアが元気でないと、神経細胞もうまくはたらけません。ミトコンドリアの元気と脳の元気は、深くつながっている と考えられています。 見つかった新しい「悪循環」の話 スイスの工科大学(ETHチューリッヒ)のチームが、この「発電所のトラブル」の犯人のひとつをつきとめました。 カギになっていたのは、「GRK2(ジーアールケーツー)」というタンパク質です。アルツハイマー病の脳では、このGRK2の“はたらかなくなった形”が かたまりになってたまり、ミトコンドリアの出入り口をふさいでいたのです。 すると発電所がうまく回らなくなり、認知症のもとと言われる アミロイドβ(ベータ)が増える。そのアミロイドβが、またGRK2のかたまりを増やす――という 「悪循環」 が起きていました。 そこで研究チームが、このかたまりができるのを防ぐ候補の物質(「化合物10」と呼ばれるもの)をマウスに使ったところ――発電所のはたらきが戻り、神経細胞の傷みがやわらいだ ことが確認されました。 ※ この研究は2026年、医学誌『Cell Reports Medicine』に発表されたものです。ヒトの脳の組織とマウスで調べた段階 であり、人に使える薬ができたわけではありません。研究チームはこれから、薬の開発を一緒に進める企業を探す段階だとしています。 以前ご紹介した「炎症スイッチ」の話と同じく、これも 「新しい治療の的(まと)が見つかった」 という前向きなニュースです。 あわせて、こちらの記事もどうぞ。 👉 アルツハイマーの「炎症スイッチ」が見つかった? いま私たちにできること 「新しい薬を待つ」だけでなく、今日からできること もあります。細胞の発電所(ミトコンドリア)を元気に保つには、こんな生活習慣が役立つと考えられています。 ✅ 適度な運動 を続ける(歩く・体操など。ミトコンドリアは運動で増えるといわれます) ✅ しっかり眠る(睡眠中に脳の掃除が進みます) ✅ 野菜・魚を中心としたバランスのよい食事 ✅ 食べすぎに気をつける(腹八分目も体にやさしいといわれます) 特別なことではなく、いつもの暮らしの延長です。 おわりに 「炎症」に続いて、今度は「細胞の発電所」。アルツハイマー病を、いろいろな角度から見直す研究が、世界中で一歩ずつ進んでいます。 すぐに治療が変わるわけではありませんが、手がかりは確実に増えています。私たちは過度に不安にならず、今できる生活習慣を大切にしながら、こうした明るいニュースを待ちたいですね。 📚 あわせて読みたい二冊 PR 生涯健康脳 こんなカンタンなことで脳は一生、健康でいられる! ...

June 19, 2026 · 1 分
研究と希望のイメージ

脳の老化を進める『鉄のタンパク質』 〜減らすと記憶が戻った、という新しい発見〜

「年をとると、もの覚えが悪くなるのは仕方ない」 そう思ってあきらめている方も、多いかもしれません。 ところが最近、「脳の老化には、ある“原因物質”がかかわっていて、それを減らすと記憶が戻った」 という、おどろきの研究が報告されました。 今回は、その発見――脳にたまる 「FTL1(エフティーエルワン)」 というタンパク質の話を、やさしくご紹介します。ただし、これは まだ研究の段階 の話です。期待しすぎず、でも前向きに、そんな気持ちで読んでいただければと思います。 ✅ 老化した脳には 「FTL1」という鉄に関わるタンパク質がたまり、細胞の“発電所”ミトコンドリアを弱らせて、記憶力を下げていた ✅ 年老いたマウスでこの FTL1を減らしたところ、記憶のテストの成績が改善。脳の働きが“若返る”可能性が示されました ✅ ただし、これは マウスの遺伝子を操作した実験の段階。人にそのまま使えるわけではなく、これからの研究が必要です 目次 そもそも「FTL1」と「ミトコンドリア」って? 見つかった「脳の老化のしくみ」 FTL1を減らしたら、記憶が戻った 人に使えるの? 見通しと、いまの限界 いま私たちにできること おわりに そもそも「FTL1」と「ミトコンドリア」って? 私たちの体は、小さな 「細胞(さいぼう)」 がたくさん集まってできています。その細胞の一つひとつの中に、エネルギーをつくる小さな工場があります。これが 「ミトコンドリア」 です。家でいえば、電気をつくる発電所のような存在です。 脳の神経細胞は、とてもたくさんのエネルギーを使います。ですから、この発電所が元気でないと、脳もうまくはたらけません。 一方の 「FTL1」 は、もともと 脳の中の“鉄”をしまっておく役割を持つタンパク質です。鉄は体に必要なものですが、多すぎても少なすぎてもいけない、デリケートな存在。FTL1は、その鉄のバランスを保つ係をしています。 見つかった「脳の老化のしくみ」 研究チームが、**若いマウスと年老いたマウスの脳(記憶をつかさどる海馬)**を比べたところ、おどろくことがわかりました。年をとるにつれて、神経細胞の中にFTL1が異常にたまっていくのです。 FTL1が増えすぎると、脳の中の鉄のバランスが乱れます。すると―― 発電所(ミトコンドリア)の働きが悪くなる → 体に必要なエネルギー(ATP)がうまくつくれなくなる → 神経細胞どうしのつなぎ目(シナプス)の働きが弱る → 記憶力や、考える力が低下する つまり、「年をとると、FTL1が増える → 脳がエネルギー不足になり、神経のつながりが弱る」 という流れが、もの覚えの低下の一因になっていた、というわけです。 ここで大事なのは、この研究が 「神経細胞が死んでしまうことだけが、脳の老化の原因ではない」 と示した点です。つながりの“働き”が弱っているだけなら、もう一度元気にできる余地がある――。そんな希望につながる発見でもあります。 脳の“発電所”をめぐる話は、こちらの記事もどうぞ。 👉 アルツハイマー病に「もうひとつの引き金」? FTL1を減らしたら、記憶が戻った 研究チームは、次に 「では、増えすぎたFTL1を減らしたらどうなるか」 を確かめました。年老いたマウスの脳で、FTL1を減らす操作を行ったのです。 すると、その結果は劇的でした。 物を見分ける記憶:ふつうの年老いたマウスは、新しい物と古い物を見分けられず、テストの成績はほぼゼロ。ところが FTL1を減らしたマウスは、はっきりと成績が改善し、新しい物を見分けられるようになりました 道を覚える記憶(空間記憶):以前通った道と新しい道を区別するテストでも、ふつうの年老いたマウスはできなかったのに、FTL1を減らしたマウスでは、はっきり改善が見られました 脳の中を調べると、乱れていた鉄のバランスが整い、弱っていたミトコンドリアの働きとエネルギー産生も回復していました。加齢で減っていた、つなぎ目(シナプス)に必要なタンパク質も、再び増えていたといいます。 さらに研究チームは、エネルギーづくりを助ける「NADH」という成分を与えることでも、記憶の低下を防げることを確認しました。FTL1という“原因”だけでなく、エネルギー不足という“結果”の側からも手を打てる可能性が見えてきたのです。 人に使えるの? 見通しと、いまの限界 ...

July 1, 2026 · 1 分