年々きびしくなる夏の暑さ。「ご高齢のご家族が心配」「自分も夏になると体がつらい」と感じている方は、多いのではないでしょうか。

暑さといえば、まず気になるのは 熱中症。けれど最近、それだけではない可能性を示す研究が報告されました。テーマは 「長く続く猛暑と、認知症のリスク」 です。

日本の大規模な調査で、極端な暑さに何年もさらされることが、認知症の発症リスクと関係していそうだ という結果が出たのです。少し心配な話に聞こえるかもしれませんが、大事なのは 「だからこそ、今年の夏からできる対策がある」 ということ。今日は、研究の中身と、すぐに実践できる暑さ対策を、ごいっしょに見ていきます。

✅ 日本の高齢者 約5万7千人 の調査で、極端な暑さに多くさらされた人ほど、認知症の発症リスクがやや高まる傾向がみられた

✅ 目安として、猛烈に暑い日が7日増えるごとに、認知症のリスクが約9%・亡くなるリスクが約13% 高まる計算だった

✅ ただし「暑さが原因」と言い切れる段階ではない。だからこそ 今年の夏から、エアコン・水分・室温の対策 を大切にしたい


目次

  1. どんな研究だったの?
  2. どれくらい、リスクが上がるの?
  3. なぜ暑さが、脳に関わるのでしょう
  4. 理学療法士として、夏の現場で感じること
  5. いま、私たちにできること
  6. おわりに

どんな研究だったの?

データを分析する研究者のイラスト

この研究は、東京科学大学・公衆衛生学分野の 森田彩子(もりた あやこ)氏 らによるもので、認知症の世界的な医学誌 Alzheimer’s & Dementia(2026年1月4日号)に報告されました。

使われたのは、JAGES(ジェイジス=日本老年学的評価研究) という、日本の高齢者を長く追いかけた大規模な調査のデータ(2016〜2019年)です。対象になったのは、同じ町に30年以上住み、認知症がなく、自立して生活している65歳以上の方 約5万7千人。これだけ多くの方を追跡した、信頼性の高い調査です。

研究では、それぞれの地域の ふだんの気候とくらべて「極端に暑い日」が何日あったか を計算し、その暑さへの「のべの量」が多い人と少ない人で、その後の 認知症の発症死亡 に差が出るかを調べました。

追跡のあいだに、2,454名(4.3%)が認知症を発症し、2,375名(4.2%)が亡くなっていました。


どれくらい、リスクが上がるの?

気温計と太陽のイラスト

結果は、「極端な暑さにさらされた量が多い人ほど、認知症や死亡のリスクがやや高くなる」 という傾向を示すものでした。

数字でいうと、わかりやすい目安はこちらです。

  • 猛烈に暑い日が7日ふえるごとに、認知症になるリスクは約 9%、亡くなるリスクは約 13% 高まる計算だった
  • さらに研究チームは、2016〜18年に実際にあったレベルの猛暑 にあてはめると、認知症のリスクは 約1.43倍、死亡のリスクは約1.63倍になると試算した

「1.43倍」と聞くと、少しどきっとするかもしれません。ただ、ここで落ち着いて受け止めたい点があります。これは たくさんの人を集めて見たときの「全体の傾向」 であって、「暑い夏を過ごした人が必ず認知症になる」という意味ではありません。また、この種の研究は 「関係がありそうだ」を示すもの で、暑さが直接の原因だと断定できる段階ではない、ということも大切です。

それでも、これだけ多くの方を調べて傾向が見えたことは、「夏の暑さ対策を、脳の健康の視点からも大切にしよう」 という、十分な後押しになります。


なぜ暑さが、脳に関わるのでしょう

脳と海馬を示すイラスト

研究チームは、暑さが脳に影響しうる道すじを、いくつか挙げています。むずかしい言葉も出てきますが、やさしく言いかえてみます。

① 熱が、脳に直接ダメージを与える可能性
強い熱は、神経の細胞を傷つけたり、記憶の中心である 海馬(かいば)に、アルツハイマー病と関係する アミロイドβ(脳にたまる老廃物のようなたんぱく質)がたまるのを、後押ししてしまう可能性が指摘されています。

② 暑さが、暮らしの「悪循環」を生む可能性
暑い日が続くと、外に出るのがおっくうになり、体を動かす量が減ります。すると、人との交わりが減って 孤立 しがちになり、睡眠 も乱れ、持病の管理もうまくいかなくなる……。こうした積み重ねが、数年かけてじわじわと、脳の健康や体の状態に影響していく、というわけです。

裏を返せば、暑い時期も、無理のない範囲で体を動かし、人とつながり、よく眠ることが、脳を守ることにつながる とも言えます。


理学療法士として、夏の現場で感じること

リハビリや介護の現場にいると、夏のご高齢の方には、独特の「気をつけたい点」があると感じます。

ひとつは、「暑さを感じにくくなる」 こと。年齢を重ねると、暑さやのどの渇きのセンサーがゆっくりになり、ご本人は平気なつもりでも、体の中で熱がこもっていることがあります。「エアコンは苦手」「もったいない」とつけずに過ごされる方、トイレが近くなるからと 水分を控えてしまう 方も少なくありません。

だからこそ、まわりが さりげなく声をかけ、環境を整える ことがとても大切です。「暑くない?」と聞くより、「いっしょに一杯飲みましょう」「少し涼しくしましょうね」と、行動でうながす ほうが、すっと受け入れてもらえることが多いように感じます。


いま、私たちにできること

エアコンと水分補給で涼むイラスト

研究はむずかしくても、できることはとてもシンプルです。今年の夏から、無理なく始めてみましょう。

エアコンを、がまんしない。 「暑い」と感じる前につける。室温の目安は 28℃以下 を意識して

のどが渇く前に、水分を。 こまめに少しずつ。トイレを気にして控えすぎないことも大切

室温・湿度を「見える化」。 温湿度計を部屋に置くと、本人もまわりも気づきやすい

暑い時間を避けて、体を動かす。 早朝や夕方の涼しい時間、または室内でできる体操を

離れて暮らすご家族は、こまめな声かけを。 電話で「エアコンつけてる?」の一言が、見守りになる

ご高齢の方や持病のある方は、暑さの影響を受けやすいことがあります。※ 体調や水分の取り方に不安があるときは、かかりつけ医にご相談ください。

暑さ対策のちょっとした道具も、心強い味方になります。記事でも触れた「室温・湿度の見える化」や「身近な冷感グッズ」を、無理のない範囲で取り入れてみてください。

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記事でも触れた「室温・湿度の見える化」に。手のひらサイズで、卓上にもマグネットでも置けて、温度と湿度がひと目でわかります。数字で見えると、ご本人もまわりも『そろそろエアコンを』と気づきやすくなります。

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おわりに

「夏の暑さが、脳にも関わっているかもしれない」――そう聞くと、少し不安になるかもしれません。けれど、この研究がいちばん伝えたいのは、「暑さ対策は、熱中症だけでなく、長い目で見た脳の健康のためにも大切」 という前向きなメッセージだと、私は受け止めています。

エアコンをつける、こまめに水を飲む、室温に気を配る、声をかけ合う。どれも特別なことではありません。今年の夏からできる小さな習慣 が、ご自身と大切な人の、これからの健康を静かに支えてくれます。

どうか、無理をせず、上手に夏を越えていきましょう。


参考にした情報

  • Morita A, et al. 「Long-term exposure to extreme heat and the onset of dementia and mortality in older adults」 Alzheimer’s & Dementia(2026年1月4日号)
  • 日本老年学的評価研究(JAGES)
  • ケアネット 医療ニュース「猛暑への長期曝露、認知症発症リスクを高める可能性」(2026年)※閲覧には会員登録が必要です

※ 本記事は、上記の研究・解説をもとに、一般読者向けにわかりやすくまとめ直したものです。ご紹介した研究は、多くの人を対象に「関係がありそうか」を調べた観察研究であり、暑さが認知症の直接の原因だと断定するものではありません。体調や暑さ対策に不安がある場合は、かかりつけ医にご相談ください。