「最近、人の名前がすぐに出てこない」「物のしまった場所をよく忘れる」――
そんな小さな不安を、ふと感じることはありませんか?

認知症は、ある日突然なるものではなく、何十年もかけて静かに進む病気だといわれています。
だからこそ、「いま、何ができるか」がとても大切です。

最近、世界的に権威のある医学誌『ランセット』の専門委員会が、こんな報告を発表しました。

「認知症のリスク要因の約45%は、生活習慣で管理・遅らせることが可能」

その中でも、今回お伝えしたいのが 「運動」 です。
私も理学療法士として30年、たくさんの方の体と向き合ってきましたが、「運動が脳に効く」という事実は、年を追うごとに 科学的にもはっきり してきています。

✅ 定期的に運動している人は、認知症リスクが 約31%低い(早歩きを週3回以上で 50%低下 との報告も)

✅ 効くのは 有酸素運動+筋トレ+コグニサイズ(運動と脳トレの組合せ) の合わせ技

✅ 「もう遅い」はありません。60代・70代から始めても1年で変わります


目次

  1. なぜ運動が脳にいいの?
  2. 認知症予防に効く「4つの運動」
  3. どのくらいやればいい? 頻度・強度・期間の目安
  4. 60〜70代の方へ 無理なく続けるコツ
  5. 理学療法士として、現場で感じていること
  6. いま、私たちにできること
  7. おわりに

なぜ運動が脳にいいの?

脳と運動の関係を表すイラスト

あなた あなた

運動が体にいいのは分かるんですけど……『脳にいい』って、どうもピンとこなくて。

Torapon Torapon

そうですよね。実はここ数年で、運動が脳そのものに効く しくみが少しずつ分かってきたんです。3つのポイントに分けて、やさしく見ていきましょう。

「運動が体にいい」のはイメージしやすいと思います。
でも、運動が “脳” にも直接効く ということは、案外知られていません。

ここ数年の研究で、こんなしくみが分かってきました。

① 筋肉から「脳の肥料」が出る

スクワットなど筋肉を使う運動をすると、筋肉から イリシン という物質が出て、脳の中で BDNF(脳由来神経栄養因子) を増やすことが分かっています。

BDNF は別名 「脳の肥料」。新しい神経のつながりを作ったり、傷んだ神経を修復したりする、とても大切なはたらきをします。

② 脳の血のめぐりが良くなる

運動で全身の血流が良くなると、脳にも新鮮な酸素と栄養が届きます。
特に 運動と頭の体操を組み合わせる と、記憶を司る脳の領域(海馬)が 萎縮しにくくなる ことが報告されています。

③ リスクそのものが下がる

統計的にも、運動習慣のある人は、ない人に比べて 認知症リスクが約31%低い というデータがあります。さらに、早歩きなどの 少し息が上がる運動を週3回以上 行っている方は、リスクが50%も下がる との報告もあります。

運動は、いま見つかっている認知症予防策の中でも、もっとも証拠(エビデンス)の積み重なった方法のひとつ です。


認知症予防に効く「4つの運動」

コグニサイズなど運動と頭の体操のイラスト

あなた あなた

どれか一つだけ、いちばん効く運動を教えてもらえたら楽なんですけど……。

Torapon Torapon

その気持ち、よく分かります。でもコツは、ひとつに絞らず組み合わせる ことなんです。ここでは4つご紹介しますね。ぜんぶやらなくても、気になったものから大丈夫ですよ。

ポイントは、ひとつの運動に絞らず、いくつか組み合わせる ことです。

① 有酸素運動

ウォーキング、水泳、サイクリング、軽いダンスなど。
全身の血のめぐりを良くし、高血圧・糖尿病といった “血管系のリスク” を減らすことにもつながります。

② 筋力トレーニング

スクワット、つま先立ち、いすからの立ち座りなど。
筋力を保つことは、将来の フレイル(虚弱)の予防 にも直結します。

③ コグニサイズ(認知運動療法)

聞きなれない言葉かもしれません。これは 「運動」と「計算・しりとりなどの脳トレ」を同時に行う プログラムです。

例:足踏みをしながら、3の倍数のときだけ手を叩く
例:歩きながら、100から7ずつ引き算 していく

「2つのことを同時にやる(二重課題=デュアルタスク)」ことで、脳がいつもより強く刺激されます。

④ 音楽や芸術活動

音楽に合わせて体を動かすダンス、書道、絵画など。
前頭葉 など、思考や判断を担う領域の活性化につながると報告されています。


どのくらいやればいい? 頻度・強度・期間の目安

運動の頻度や強度を示すイラスト

あなた あなた

毎日ハードにやらないと意味がないんでしょうか? そこまでの自信はなくて……。

Torapon Torapon

毎日ヘトヘトになる必要はないんです。目安は 週3日、合計で週150分ほど。少し息が上がる早歩きくらいでちょうどいいんですよ。ゆっくり無理なく続けるのがいちばんです。

「では、どれくらいやれば効くの?」という、いちばん気になるところです。
研究で示されている目安は、こんな感じです。

目安
頻度 週3日以上(合計で 週150分以上 が目標)
強度 中強度以上(少し息が上がる程度の早歩き)
期間 半年(24週)以上 続けると脳の変化が見えてくる

ここで、ひとつ大事なポイントです。

ゆっくり散歩するだけでは、認知機能への効果ははっきり示されていません。

「ふだんより少し速く歩く」ことを意識してみてください。
「人と会話しながらでも続けられるけれど、歌うのは少しきつい」――そのくらいの強度が、ひとつの目安です。


60〜70代の方へ 無理なく続けるコツ

地域の集まりで運動するシニアたちのイラスト

あなた あなた

やろうと思っても、いつも三日坊主で終わってしまうんです……。

Torapon Torapon

続かないのは、あなたの意志が弱いからではないんです。大事なのは 『続けられる仕組み』 のほう。誰かと一緒にできる場所を見つけると、ぐっと続けやすくなりますよ。

体力の変化を感じやすいこの年代では、「無理なく」「楽しく」続ける工夫 が、いちばんの鍵になります。

① 「通いの場」やグループに参加する

地域の運動教室、いきいき百歳体操、ボランティア活動など。
運動 + 人との交流 が同時にできるので、ひとりでやるより圧倒的に続きます。
「人と会う」こと自体も、認知症予防のとても大切な要素です。

② 日常生活を運動に変える

  • 買い物に行くときに、ひと駅手前から早歩きで歩く
  • テレビCMの間に スクワットを5回
  • 歯みがきしながら つま先立ち

「運動の時間」をわざわざ作るのが難しい方は、日常の動きを少し変える だけでも十分な刺激になります。

③ 記録をつける

歩数、その日にやった活動、体調をひとことメモする「生活ノート」を作るのもおすすめです。
自分の変化が目に見える ことで、続けるモチベーションが保てます。


理学療法士として、現場で感じていること

私は理学療法士として、これまでたくさんの高齢の方の運動指導に関わってきました。

「やる気」も、もちろん大事です。
でも、現場で見ていてもっと大事だと感じるのは、「続けられる仕組み」 のほうです。

立派な運動メニューを渡しても、ひとりで続けるのは本当に難しいものです。
そこでおすすめしたいのは、何でもいいから、地域のコミュニティに出かけてみる こと。
体操教室でも、カラオケでも、囲碁将棋の集まりでも、町内会の役でも構いません。

出かける → 誰かと話す → 体を動かす

この3つが自然にセットになる場所に、月1回でも、週1回でも、定期的に顔を出す
これが、私の経験のうえでは、長く続けられるいちばんのコツのように感じています。


いま、私たちにできること

ここまでの内容を、今日からできるかたち にまとめます。

  • 週3日、少し息が上がる程度の 早歩きを30分 から
  • ✅ テレビを見ながらでもいい、スクワットや、いすからの立ち座り を5〜10回
  • ✅ 歩きながら しりとり・引き算 など、頭も一緒に使う「コグニサイズ」をひとつ
  • ✅ 地域の 運動教室・百歳体操・趣味の集まり に、月1回でもいいので顔を出す
  • ✅ 持病のある方は、始める前にかかりつけ医へひとこと相談

すべてを完璧にやる必要は、まったくありません。
ひとつだけ、続けやすそうなものを今日から始める ――それで十分です。

関連する記事もあわせてどうぞ。
👉 認知症の種類とMCIをやさしく解説
👉 アルツハイマー病に明るい光?〜NAD+研究の進展〜


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おわりに

「もう年だから、いまさら運動しても……」
そんな声を、現場でも本当によく聞きます。

でも、研究の結果ははっきりしています。
60代・70代から始めても、1年続ければ、体も脳も確実に変わります。

派手な特効薬や、新しい高価なサプリは要りません。
今日の一歩が、10年後のあなたの脳を守る「貯金」 になります。

無理なく、楽しく、できれば誰かと一緒に。
それが、いちばん確かな認知症予防のかたちです。


参考にした情報

  • ランセット委員会 2024年報告(認知症予防可能な14のリスク要因)
  • 国立長寿医療研究センター「あたまとからだを元気にする MCIハンドブック」
  • 厚生労働省 認知症施策関連資料
  • 認知症の予防・診断・治療に関する統合的アプローチ報告書

※ 本記事は、上記の信頼できる医療・公的資料をもとに、一般読者向けにわかりやすくまとめ直したものです。持病のある方や、運動を始めるのが久しぶりの方は、必ずかかりつけ医にご相談のうえ、ご自身に合った強度から始めてください。