「ぐっすり眠ったはずなのに、頭がスッキリしない」 「悲しいことがあった日は、よく眠れない」

そんな経験はありませんか? 実は、私たちが眠っている間、脳の中ではとても大切な"作業"が行われています。 それは——記憶の整理と、感情の処理です。

前回はグリンパティック・システム(脳の掃除のしくみ)をお話ししました。 今回はその続きとして、「眠っている間、脳が裏側で何をしているのか」を、もう少しのぞいてみましょう。

この記事のポイント

✅ 睡眠は2つの段階に分かれていて、それぞれ違う"仕事"をしています

✅ ノンレム睡眠は記憶を脳に定着させ、レム睡眠は感情をやさしく整えてくれます

✅ 睡眠不足は、学ぶ力・気持ちのコントロール・人との関わりにも影響します

目次

  1. 睡眠は「ひとつ」じゃない
  2. ノンレム睡眠:記憶を"刻み込む"時間
  3. レム睡眠:「一晩のセラピー」と呼ばれる理由
  4. 眠りが足りないと、心と頭はどうなる?
  5. まとめ

睡眠は「ひとつ」じゃない

「眠っている時間」と聞くと、ずっと同じ状態が続いているように感じますよね。 でも実際の睡眠は、2つの段階が約90分ごとに交互にやってくることが分かっています。

  • ノンレム睡眠——脳が深く休んでいるけれど、体は動かせる状態。深さによってさらに段階が分かれます。
  • レム睡眠——体は休んでいるけれど、脳は活発に動いている状態。夢を見るのは主にこの時間です。

やさしい色合いで描かれた、寄り添う2匹の虎のイラスト

ひと晩に4〜5回、この2つを行き来しながら朝を迎えます。 そして面白いことに、前半はノンレム睡眠が多く、後半(朝方)はレム睡眠が多くなります。 だから「もう少し寝かせてほしいな」と感じる朝方は、実はレム睡眠のまっただ中なのです。

ノンレム睡眠:記憶を"刻み込む"時間

日中に「あ、これは大事だな」と思ったことや、新しく覚えた人の名前、運動の動きなどは、いったん「海馬(かいば)」という脳の小さな部屋に仮置きされます。

そのままだと、しばらくして消えてしまうことも。

ところが眠っている間、特にノンレム睡眠の深い段階になると、不思議なことが起こります。 昼間に活動した神経細胞のパターンが、もう一度ゆっくり再生されるのです。

これを「海馬のリプレイ」と呼びます。

やわらかな光に包まれて、ふんわり眠っている人のイラスト

「もう一度なぞり書きをしてもらう」イメージに近いかもしれません。 リプレイによって、海馬に置かれていた記憶は、より広い"長期保管庫"である大脳皮質(だいのうひしつ)へと書き写されていきます。

2024〜2025年の研究では、このリプレイのタイミングが「睡眠紡錘波(すいみんぼうすいは)」と呼ばれる特殊な脳波と同期しているほど、翌日の記憶テストの成績が良いことも分かってきました。

子どもが昼寝のあとに新しい言葉をスラスラ使えるようになるのも、この働きのおかげとされています。

学んだことを忘れたくないとき、夜更かしして詰め込むより、早めに眠った方が結果的に身につくのは、こういう理由なのです。

レム睡眠:「一晩のセラピー」と呼ばれる理由

つらい出来事があった日、ぐっすり眠った翌朝に「不思議と少し気持ちが楽になっていた」と感じることはありませんか?

これは気のせいではなく、レム睡眠の働きとされています。 睡眠研究の世界では、レム睡眠を**「一晩のセラピー(overnight therapy)」**と呼ぶことがあります。

不安をやわらげるしくみ

レム睡眠のあいだ、脳の中では、ストレスを高める物質(ノルアドレナリン)の分泌がぐっと下がります。 ストレスホルモンが少ない、安全な状態で、その日にあった出来事を脳が"もう一度なぞる"のです。

朝の光のなかで、ふっと肩の力が抜ける人のイラスト

すると、出来事の「内容(こんなことがあった)」は記憶として残るのに、くっついていた不快な感情だけが少しずつ薄められていく——そんなことが脳の中で起きています。

これがレム睡眠の「セラピー機能」です。

寝酒がよくない理由

ところが、アルコールはこのレム睡眠を強く抑え込みます。 夜にお酒を飲むと、寝つきは良くなったように感じても、レム睡眠が短くなり、その大切な"セラピー時間"が失われてしまいます。

「つらい日こそ飲んで寝る」が逆効果になりやすいのは、このためです。 ストレスを感じた日ほど、しっかりとした"素の眠り"が必要なのです。

眠りが足りないと、心と頭はどうなる?

ここまでをまとめると、睡眠は頭の中の “編集者” と “整理係” のような役割を担っていることが分かります。 編集者(NREM)が記憶を清書し、整理係(REM)が感情をていねいに片付けてくれているわけです。

その時間が足りないと、当然いろんな影響が出てきます。

  • 物覚えが悪くなる——昼間に覚えたことが、長期記憶に書き写されにくくなります。
  • イライラ・不安が強くなる——感情の整理が追いつかず、小さなことで揺れやすくなります。
  • 判断力が落ちる——前頭前皮質(判断を担う領域)の働きが鈍くなります。
  • 人とのつながりが浅くなる——表情を読み取る力や共感する力も弱まることが報告されています。

睡眠と脳の関係について、もう少し基本から知りたい方はこちらの記事もどうぞ。 👉 認知機能ってそもそも何?〜記憶・判断・注意のしくみ〜

逆に言えば、ぐっすり眠ることは、学びの力・心の安定・人とのつながりを、まとめて支えてくれているのです。

まとめ

最後にもう一度、ポイントを整理しておきましょう。

  • ✅ 睡眠はノンレム・レムの2段階で構成され、約90分ごとに切り替わります

  • ✅ ノンレム睡眠は記憶を長期保管庫に書き写してくれます

  • ✅ レム睡眠は不快な感情をそっと和らげる「一晩のセラピー」です

  • ✅ アルコールはレム睡眠を妨げるため、ストレスの強い日ほど寝酒は逆効果になりやすいです

  • ✅ ぐっすり眠ることは、学び・心・人とのつながりすべての土台になります

「眠ること=何もしていない時間」ではありません。 今夜のあなたの脳も、きっと一生懸命に整理整頓してくれています。

次回はいよいよ最終回、「今日から始める『脳が喜ぶ眠り方』」——具体的な実践のお話です。お楽しみに。


🛍️ あわせておすすめのアイテム

PR
Xiaomi Smart Band 9 Pro

Xiaomi Smart Band 9 Pro

ノンレム・レムの切り替わりが見えるだけで、「あ、今日のレム睡眠は短かったな」と気づける日が増えます。シャオミの定番スマートバンドは、手首につけるだけで毎晩の睡眠を自動記録してくれる、見える化の第一歩です。


参考にした情報

  • Walker MP. “Sleep, memory, and emotion.” Nature Reviews Neuroscience, 2021.
  • Goldstein AN, Walker MP. “The role of sleep in emotional brain function.” Annual Review of Clinical Psychology, 2014.
  • “Spindle-replay coupling predicts memory consolidation.” Nature Communications, 2024–2025年報告
  • 大規模な睡眠と感情処理に関するレビュー(2025年10月時点)