ベッドでぐっすり眠る女性のイラスト

「何時間寝たか」より「毎日同じ時刻か」? 〜睡眠のリズムと認知症の関係〜

「睡眠は7時間は取りましょう」——。そんな話は、よく耳にしますよね。 では、寝る時刻や起きる時刻が、日によってバラバラな場合は、どんな影響があるでしょうか。 平日は6時起き、休日は10時起き。仕事や家の用事で、寝る時間もまちまち。そんな方は、きっと多いと思います。 じつは近年、睡眠の「長さ」だけでなく「毎日の規則正しさ」も、認知症と関係しているかもしれないという大規模な研究が、いくつか出てきました。 今回は、その中身を、わかっていることと、まだわからないことに分けてご紹介します。 ✅ イギリスの約8万8千人を調べた研究では、寝起きの時刻がいちばんバラバラな人(下位5%)は、真ん中の人にくらべて、認知症になる割合が 約1.5倍 だった ✅ 別の約8万2千人の研究では、睡眠が短め(7時間未満)の人でも、リズムがそろっている人は、そうでない人にくらべて認知症が少なかった ✅ ただし、どちらも「そういう関係が見られたという研究」です。バラバラな睡眠が原因だと決まったわけではありません 目次 睡眠の「規則正しさ」って、どう測るの 研究1:寝起きがバラバラな人は、認知症が約1.5倍 研究2:睡眠が短めでも、リズムがそろっていると ここは、慎重に読んでください どうして関係するの(考えられている仕組み) 現場で感じていること 今夜からできること(私の考えです) おわりに 睡眠の「規則正しさ」って、どう測るの あなた 規則正しい睡眠って、「毎日同じ時間に寝る」ってことですよね? それって、どうやって調べたんですか? Torapon そのとおりです。研究では、手首につける小さな機械(動きを記録する装置)を1週間つけてもらい、「毎日、同じ時間帯に寝ているか・起きているか」 を数字にしています。 この数字(睡眠規則性指数=SRI)は 0〜100点で表されます。 毎日まったく同じ時間帯に寝て起きていれば、100点に近づく 日によってバラバラなほど、0点に近づく ここで大事なのは、「何時に寝るか」ではなく「毎日そろっているか」 を見ていることです。夜型でも朝型でも、毎日同じなら、点数は高くなります。 研究1:寝起きがバラバラな人は、認知症が約1.5倍 1つめは、オーストラリアのモナシュ大学などの研究で、2024年に医学誌『Neurology(ニューロロジー)』に載りました。 対象:イギリスの88,094人(平均62歳) 方法:1週間、手首の装置で睡眠を記録 → その後、約7年間(人によって追いかけた年数は違い、ちょうど真ん中の人で7.2年)追いかけた 結果:追跡中に認知症になったのは 480人(全体の約0.5%) 年齢・性別・持病・遺伝(APOE ε4=アルツハイマー型のなりやすさに関わる遺伝子)などの影響を取りのぞいて比べると—— 比べた人 規則性の位置 認知症になる割合 真ん中の人(基準) 真ん中 1倍 いちばんバラバラな人(下位5%) かなり不規則 約1.5倍(1.53倍) いちばんそろっている人(上位5%) かなり規則的 約1.2倍(差があるとは言えない範囲) あなた あれ? いちばんそろっている人も、少し高いんですか? Torapon 数字の上では少し高めですが、誤差の範囲で、「差がある」とは言えない結果でした。大事なのは、いちばんバラバラな人だけが、はっきり高かったことです。 さらに、脳のMRIを撮った一部の人(約1万5千人)では、規則性が両端(とてもバラバラ/とても規則的)の人ほど、脳の灰白質(神経細胞が集まる部分)や、記憶に関わる海馬が小さい傾向がありました。 研究チームは、この結果を「不規則な睡眠は、認知症の新しい危険因子かもしれない」と、控えめにまとめています。 研究2:睡眠が短めでも、リズムがそろっていると 2つめは、シドニー大学などの研究で、2025年に『BMC Public Health』に載りました。 対象:イギリスの82,391人(43〜79歳) 方法:同じく1週間、手首の装置で睡眠を記録 → 平均7.9年追いかけた 結果:追跡中に認知症になったのは 694人 この研究では、まず、睡眠の長さを見ています。 ...

October 8, 2026 · 1 分
薬と生活習慣を考えるイメージ

「やせる薬」は、認知症に効くのか 〜大きな期待と、正直な結果〜

ここ数年、「やせる薬」という言葉をよく耳にするようになりました。もともとは糖尿病の薬として使われてきた GLP-1(ジーエルピーワン) という種類のお薬です。 この薬について、しばらく前からこんな話題がありました。 「この薬を飲んでいる人は、認知症になる人が少ないらしい」 大きな期待が集まりました。そして2026年、その答えの一つが出ました。今日は、期待と、その正直な結果のお話です。少し意外な結末ですが、そこから学べることのほうが、じつは大きいのです。 ✅ カルテを集めた調査では、この薬を飲んでいる人は認知症のリスクが40〜70%低いという報告がありました ✅ ところが、3,808人を対象にきちんと比べた試験では、差はありませんでした(2026年3月発表)。ただしこれは「すでに始まったもの忘れを治せるか」を調べたものです ✅ 「そもそも防げるか」は、これから。1億ドルをかけた新しい試験が始まりましたが、その土台に置かれているのは、やはり生活習慣です 目次 なぜ「脳にも効く」と期待されたのか きちんと試したら、差はなかった 期待と結果が、なぜずれたのか それでも研究は終わらない いま確かなのは、生活習慣のほう 現場で感じていること いま私たちにできること おわりに なぜ「脳にも効く」と期待されたのか GLP-1という薬は、もともと血糖値を下げる薬です。食欲を抑えるはたらきもあるため、体重が減ることから「やせる薬」として知られるようになりました。 この薬と認知症の関係が注目されたきっかけは、大量のカルテのデータでした。 糖尿病の患者さんのうち、GLP-1の薬を使っていた人と、別の薬を使っていた人を後から比べたところ、GLP-1のグループでは認知症になった人が40〜70%少なかったという報告が、いくつも出てきたのです。 理屈の面でも、期待できる材料がありました。 脳の炎症をやわらげるはたらきがありそうだ 脳の血のめぐりによさそうだ 血糖や体重が整うこと自体が、脳にもよいはずだ あなた それだけそろっていれば、効きそうに思えますね。 Torapon そうなんです。世界中の研究者が期待しました。だからこそ、本当にそうなのかを確かめる大きな試験が組まれたんですよ。 きちんと試したら、差はなかった その試験の名前を evoke(イヴォーク) といいます。 3,808人が参加(55〜85歳) 全員、もの忘れが始まっている段階の方(軽度認知障害、または軽度のアルツハイマー病) くじ引きで「本物の薬(飲むタイプのセマグルチド)」と「にせ薬」に分ける 2年間、認知機能の変化を比べる 結果は、2026年3月の国際学会で発表され、医学誌『Lancet』にも掲載されました。 本物の薬を飲んだ人と、にせ薬を飲んだ人とで、認知機能の変化に差はありませんでした。 血液の検査では、脳の炎症に関わる数値が最大10%ほど改善していました。けれど、もの忘れの進み方そのものは変わらなかったのです。 あなた あんなに期待されていたのに……。 Torapon 残念な結果ではあります。でも私は、この結果がきちんと発表されたこと自体が大切だと思っています。効かなかったことをはっきり示してくれたから、私たちは「この薬を飲めばもの忘れが治る」という期待に、お金や時間を注がずにすむのですから。 期待と結果が、なぜずれたのか 理由は、大きく2つあります。 ひとつは、調べ方の違いです。 はじめの「40〜70%低い」は、もともと薬を飲んでいた人のカルテを、後から集めて比べたもの(観察研究)でした。この方法には落とし穴があります。薬を飲んでいる人と飲んでいない人は、もともと違うからです。通院を続けている、健康に気を配っている、経済的な余裕がある——そうした違いが、結果に混ざりこんでしまいます。 いっぽう evoke は、くじ引きで薬とにせ薬に分ける方法でした。こうすると2つのグループの条件がそろうので、薬そのものの効果がはっきり見えます。 この「観察研究では言い切れない」という話は、前回の記事でもお伝えしました。 👉 帯状疱疹のワクチンで、認知症が減る? もうひとつは、タイミングです。 evoke に参加したのは、すでにもの忘れが始まっていた方々でした。認知症の変化は、症状が出る10年、20年前から静かに始まっていると考えられています。だとすれば、症状が出てからでは遅すぎたのかもしれません。 それでも研究は終わらない 2026年7月13日、ロンドンで開かれたアルツハイマー病の国際会議で、アメリカのアルツハイマー協会が新しい試験を発表しました。PROTECT-Cog(プロテクト・コグ)といいます。 1億ドル(150億円ほど)をかけた、世界規模の試験 対象は、まだ認知症になっていない、リスクの高い高齢の方 生活習慣のプログラムに、GLP-1のような代謝を整える薬を足すと、さらに効果が上がるかを調べる 3年間、6か月ごとに認知機能と健康状態をくわしく調べる 責任者は、アルツハイマー協会の Maria C. Carrillo 博士です。 ...

August 2, 2026 · 1 分
縁側でくつろぐおだやかな老夫婦のイラスト

健康にかけるお金は年15.7万円。それでも「何を信じたらいい?」 〜あふれる健康情報との、かしこいつき合い方〜

「テレビで良いと言っていたから」「ネットで評判だったから」——。 そう思って買った健康食品やサプリが、いつの間にか戸棚にたまっていませんか? じつは今、健康にお金をかけている人ほど、「何を信じたらいいか分からない」と感じている という調査結果が出ています。今回は、その最新データを見ながら、あふれる健康情報とのかしこいつき合い方を、ご一緒に考えてみたいと思います。 ✅ 1年間に健康にかけるお金は、平均で 約15.7万円(前の年より約1.8万円アップ) ✅ 「健康の正しい情報が分からない、何を信じたらいいか分からない」と感じる人は 24.0%(3年で5.1ポイント増加) ✅ 情報にふり回されないコツは、「誰が・何人に・いつ調べたか」 を確かめること 目次 健康にかけるお金は、年15.7万円まで増えている お金をかけるほど、「迷い」も増えている 情報にふり回されないための、3つのものさし 理学療法士として、現場で感じること いま、私たちにできること おわりに 健康にかけるお金は、年15.7万円まで増えている あなた みんな、健康のためにどれくらいお金を使っているんでしょう? Torapon 最近の調査だと、1年で平均15.7万円 なんですよ。しかも、年々増えているんです。 ハルメクグループの生きかた上手研究所が、2025年に 50〜79歳の女性467人 に行った「健康に関する意識・実態調査2025」によると—— 1年間に健康にかけているお金は、平均で 約15.7万円 前の年より 約1.8万円 増えていました 内訳を見ると、「運動サービス」「マッサージ・整体」「医薬品・医療品」への出費が、それぞれ増えています。「認知症になりにくい生活を送りたい」「入院や介護のいらない体でいたい」といった 予防への意識 も、この3年で高まっているそうです。 体を大切に思う気持ちが、こうしてお金の使い方にも表れているのですね。 お金をかけるほど、「迷い」も増えている ところが、ここで少し気になる数字があります。 同じ調査で、「健康に関する正しい情報が分からない、何を信じたらよいのか分からない」 と答えた人が、こんなふうに増えているのです。 年 「何を信じたらいいか分からない」と感じる人 2023年 18.9% 2025年 24.0% 3年で 5.1ポイント も増えています。いまや、4人に1人 が情報に迷っている計算です。 あなた たしかに……。テレビ、ネット、ご近所の話。どれもそれらしく聞こえて、かえって分からなくなります。 Torapon そうなんです。情報が多すぎると、選ぶのがかえって難しくなる。だからこそ、情報を見分けるちょっとしたコツが役に立つんですよ。 健康を大切に思う気持ちが強いからこそ、たくさんの情報を集める。でも集めるほど、どれが本当か分からなくなる——。そんな“情報の渋滞”が、いま多くの方に起きているのかもしれません。 情報にふり回されないための、3つのものさし 医療の現場でも、私たちは新しい情報の「たしからしさ」を、いくつかの目印で見分けています。むずかしい知識はいりません。次の 3つのものさし を持つだけで、ぐっと惑わされにくくなります。 ものさし① 「誰が言っているか」を見る まず、その情報の 発信元 を確かめます。国や学会、大学、公的な研究機関などが出している情報は、比較的たしかです。反対に、その商品を売っている会社だけ が「効きます」と言っている場合は、少し立ち止まって考えたいところです。 ...

July 22, 2026 · 1 分