「腸は第二の脳」。そんな言葉を、テレビや雑誌で見かけたことがあるかもしれません。
2026年9月、アメリカのカリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)などのチームが、腸内細菌(おなかの中にすむ細菌)や便に含まれる物質が、脳の「老け具合」と関係していたという研究を発表しました。
ただ、中身をよく読むと、「この菌を増やせば脳が若返る」という話ではありません。どこまで分かって、どこから先が分からないのか。一緒に見ていきましょう。
✅ 約1,500人の脳をMRIで調べると、実際の年齢より脳が老けて見える人は、記憶や段取りの力がやや低く、気分も落ち込みぎみでした
✅ 便を調べた182人では、いくつかの腸内細菌や便の中の物質が、脳の老け具合と関係していました。ただし、その関係はごく小さなものでした
✅ ある1回の時点で調べた研究で、腸が先か脳が先かは分かりません。参加者の多くは30歳前後で、食事も調べていません
目次
「脳の年齢」って、どうやって測るの?
研究チームは、脳がぼんやり休んでいるときの様子を、MRI(磁気で体の中を写す検査)で撮影しました。
休んでいるときでも、脳のあちこちの部分は、互いに連絡を取り合っています。その「つながり方」は、年齢とともに少しずつ変わっていきます。
そこで、たくさんの人のデータをコンピューターに学ばせて、つながり方から「この脳は何歳くらいに見えるか」を当てるしくみを作りました。
- 脳から見た年齢が、実際の年齢より上 → 脳が「老けて見える」
- 脳から見た年齢が、実際の年齢より下 → 脳が「若く見える」
この差を、研究では「脳の老け具合」の目安にしています。
脳のシワや縮み具合を見るのとは、ちがうんですね。
そうなんです。今回は形ではなく、脳の部分どうしの「連絡のとり方」を見ています。ですから、ここでいう「老けて見える」は、病気があるという意味ではありません。あくまで、たくさんの人とくらべたときの「個人差」です。
脳が老けて見える人は、記憶や気分も
研究に参加したのは、病気のない18〜65歳の約1,500人(1,462人)です。年齢の真ん中は30歳前後で、若い人や働き盛りの人が中心でした(学術誌『eBioMedicine』2026年10月号、オンライン公開は9月)。
使われたデータは、アメリカのほか、日本の研究で集められた690人分も含まれています。
3つのグループ(674人・444人・344人)に分けて、同じ結果がくり返し出るかを確かめています。
結果は、次のとおりでした。
- 脳が老けて見える人ほど、少しのあいだ覚えておく力(ワーキングメモリ)や、段取りよく物事を進める力のテストの点が、やや低め
- 脳が老けて見える人ほど、気分の落ち込みの点数が、やや高め
- この傾向は、3つのグループで、くり返し見られた
ただし、論文自身も「関係の強さは控えめ」と書いています。脳の老け具合は、記憶や気分を左右するたくさんある要因の1つ、と考えるのがよさそうです。
おなかの中を調べてみると
ここからが、腸の話です。
3つめのグループ(ロサンゼルスの344人)のうち、脳の検査と便の検査がそろった182人について、便の中の細菌の種類と物質をくわしく調べました。
その結果、次のようなものが、脳の老け具合と関係していました。
| 便の中で見つかったもの | 脳が老けて見える人で |
|---|---|
| クロストリジウム、コリンセラなど、いくつかの細菌 | 多い傾向 |
| セラミド(脂の一種で、体の炎症にも関わる物質) | 多い傾向 |
| 24-ヒドロキシコレステロール(コレステロールが形を変えたもの) | 多い傾向 |
| エステトロール(女性ホルモンの仲間) | 少ない傾向 |
では、なぜ便の中の菌や物質が、脳の老け具合と関係するのでしょうか。
研究チームは、これらの菌や物質が、体の中の炎症や血管の働き、脳の神経どうしのつながり、細胞がエネルギーを作るしくみなどを通して、脳に影響しているのではないか、と考えています。ただし、これはまだ「そうかもしれない」という段階の考えです。
ただ、気をつけたい点が2つあります。
- 関係の大きさは、ごく小さい……脳の老け具合は、同じ年齢でも人によって差があります。その差のうち、腸の様子で説明がついたのは、計算上わずか2%ほどでした。残りの大部分は、腸とは別の理由によるものです
- 調べた人にかたよりがある……182人を含むこのグループは、9割ほどが女性(344人中312人)でした。研究チームも「男女半々の、もっと大きな集団で確かめる必要がある」と書いています
たった2%なんですか。もっと大きな話かと思いました。
報道の見出しだけだと、そう感じますよね。でも、腸と脳を同じ人で同時に調べた研究は、まだ少ないんです。「関係の手がかりが見えてきた」という、入り口の研究として受け取るのがちょうどいいと思います。
「良い菌・悪い菌」とは言えない理由
「脳が老けて見える人に多かった菌」と聞くと、つい「悪い菌だ」と思いたくなります。でも、そう決めつけるのは早すぎます。
① どちらが先か、分からない
この研究は、ある1回の時点で、脳と便を調べたものです。時間を追って変化を見たわけではありません。
- 腸の状態が、脳に影響したのか
- 脳やストレスの状態が、腸に影響したのか
- 食事や睡眠など、別の何かが両方に影響したのか
このどれなのかは、分かりません。論文でも「原因や順番は言えない」と、はっきり書かれています。
② 「健康な腸にいる」とされる菌も含まれていた
脳が老けて見える人で多めだった菌の中には、論文の中でふだん健康な腸にすみついている仲間として説明されている菌(クリステンセネラ)も入っていました。
同じ菌でも、ほかの菌との組み合わせや、その人の体の状態によって、意味が変わるのかもしれません。研究チームも、同じ名前の菌の中の細かい違いまでは見分けられていない、と書いています。
じゃあ、その菌を減らすサプリを飲めばいい、という話でもないんですね。
はい。この研究では、菌を増やしたり減らしたりする試みは、何もしていません。ですから、特定のサプリや整腸剤をおすすめできる根拠にはなりません。
いま、私たちにできること
この研究は食事を調べていません。ですから、ここからは「研究の結果」ではなく、腸内細菌の「えさ」になるものを、ふだんの食事でとろう、という一般的なお話です。
- ☑ 食物繊維を、毎日の食卓に……野菜・きのこ・海藻・豆・ごはんに雑穀を少し。乾物(切り干し大根・干ししいたけ)は、常備しておくと便利です
- ☑ 発酵食品を、ひと品……みそ汁・ぬか漬け・ヨーグルトなど。特別なものでなく、昔ながらのおかずで十分です
- ☑ いろいろな食材を少しずつ……同じものばかりより、品数を多めに
- ☑ おなかの調子が長く続けて悪いときは、受診を……便通の変化や体重減少は、自己判断せずに医師へ
日本食と地中海食をあわせた「認知症予防の食卓」は、こちらで紹介しています。腸内環境の研究にも触れています。 👉 地中海食と日本食、合わせるとどうなる?
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おわりに
おなかの中と脳の年齢に、何らかのつながりがありそうだ。今回の研究は、その手がかりを、約1,500人の脳と182人の便から示しました。
一方で、関係は小さく、どちらが先かも分からず、参加者の多くは若い世代でした。研究チームも、高い年齢の人たちで確かめることを、これからの課題にあげています。
「この菌が良い・悪い」と決めつけず、サプリに頼らず、野菜や発酵食品のある、いつもの食卓を大切に。それが、いまの段階でいちばん無理のない向き合い方だと思います。
参考にした情報
- Zhao K, Vignolle GA, Labus JS ほか, Church A「Brain-gut crosstalk associated with brain ageing in young and mid-life adults: a multicohort cross-sectional study」eBioMedicine 2026年;132:106468(アメリカ・日本などの健康な18〜65歳1,462人、便の分析は182人)
- ScienceDaily(2026年10月4日、UCLA Healthの発表を紹介した記事)
※ 本記事は、上記の論文をもとに、一般読者向けにわかりやすくまとめ直したものです。紹介した研究は、ある1回の時点で調べた観察研究(関係が見られたというもの)で、原因を証明したものではありません。特定の菌・サプリ・整腸剤をおすすめするものではありません。