夜、布団に入っても、あれこれ考えて眠れない。
心配ごとがあると眠れず、眠れないと、また不安になる。そんな「眠れない」と「不安」の悪循環に、心当たりのある方もいるのではないでしょうか。
2026年9月、不眠と不安が「両方ある」人は、頭の働きの低下や認知症が多かったという研究が発表されました。興味深いのは、どちらか一つだけでは、はっきりした関係が見られなかったことです。
この研究を調べていて、まっ先に思い浮かんだのは、認知症の母のことでした。
私がまだ若かりし頃、母にはずいぶん心配をかけました。それが母のストレスになっていたような気がするのです。
母は、ちゃんと眠れていたのだろうか。若いうちから、もっと母を安心させてあげられるような生き方ができなかったのだろうか。今になって、そんなふうに反省しています。
✅ 中国・上海の約6万6千人と、イギリスの約15万人のデータで、不眠と不安が両方ある人は、頭の働きの低下や認知症が多めでした
✅ 不眠だけ・不安だけの人では、はっきりした関係は見られませんでした。ポイントは「重なること」
✅ どちらも「関係が見られた」という研究です。眠りや不安を治療すれば防げるかは、まだ確かめられていません
目次
2つの国のデータで調べた
研究は、中国・上海交通大学などのチームによるもので、学術誌『Alzheimer’s & Dementia』に2026年9月に発表されました。2つのデータを使っています。
① 上海の調査(約6万6千人)
- 上海の16の地区に住む、60歳以上の65,857人(2024〜2025年)
- 同じ時期に一度だけ、眠り・不安・頭の働きを調べたものです
- 眠りは8問の質問票で「はっきりした不眠」があるか(または睡眠薬を使っているか)、不安は7問の質問票で「軽い不安」以上があるかを見ました
② イギリスの調査(約15万人)
- イギリスの大規模な健康調査に参加した、60歳以上の149,467人(2006〜2010年に参加)
- 病院の診断記録などで、不眠や不安の病気があるかを調べ、その後、最長15年ほど、認知症になったかを追いかけました
どちらのデータでも、参加者を「どちらもない」「不眠だけ」「不安だけ」「両方ある」の4つのグループに分けて比べています。両方ある人は、上海で2.4%、イギリスで1.9%でした。
寝つきが悪い日なんて、誰にでもありますよね……。
はい。この研究で「不眠」とされたのは、たまに眠れない夜がある、という程度ではなく、質問票ではっきりした不眠と判定された人や、病院で不眠と診断された人です。まずは、そこを押さえておいてください。
両方ある人だけ、多かった
結果は、次のとおりでした。
上海の調査では
- 頭の働きの低下が見られた人は、両方ある人では3人に2人ほど、どちらもない人では3〜4人に1人ほどでした
- 年齢や学歴、持病、うつなどをそろえて比べても、両方ある人は、どちらもない人にくらべて、頭の働きの低下が約2倍多く見られました
イギリスの調査では
- 両方ある人は、どちらもない人にくらべて、認知症になりやすさが約1.5倍でした
- アルツハイマー型だけでなく、脳の血管が原因の認知症(血管性認知症)でも、同じような関係が見られました
そして、どちらの調査でも、不眠だけ・不安だけの人では、はっきりした関係は見られませんでした。
研究チームの計算では、両方が重なると、それぞれの分を足し合わせた以上に、関係が強くなっていました。
不眠だけなら、大丈夫ということですか?
この研究では「はっきりした関係は見られなかった」ということで、まったく関係がない、とまでは言えません。研究チームは「片方だけなら、脳がうまく持ちこたえているのかもしれない。でも重なると、それが追いつかなくなるのでは」と考えています。
上海の調査では、もう少し細かく見ています。
- 「不眠の疑い」くらいの軽い眠りの悩みでは、不安と重なっても、はっきりした関係はありませんでした
- はっきりした不眠に不安が重なったときだけ関係が見られ、不安が強いほど、関係も強くなっていました
なぜ、重なると良くないのか
研究チームは、次のような悪循環を考えています(まだ確かめられた仕組みではありません)。
- 不安が続くと、体が緊張した状態になり、眠りが浅く、とぎれとぎれになる
- 眠れないと、気持ちのブレーキが効きにくくなり、さらに不安が強まる
上海の参加者のうち約3千人では、血液検査も行っています。両方ある人は、p-tau217(アルツハイマー型認知症の脳の変化を映す、血液の目印)などの値が高めでした。
研究チームの計算では、両方ある人に頭の働きの低下が多かった理由の一部は、この脳の変化で説明できるようでした。つまり、次のような道すじが、一部にあるのかもしれません。
- 眠れない+不安が重なる
- 脳に、アルツハイマー型認知症につながる変化がたまりやすくなる
- 頭の働きが落ちていく
ただし、血液は一度測っただけです。時間とともにどう変わるかは、分かっていません。
p-tau217という血液検査については、こちらで詳しく紹介しています。 👉 血液一滴で、アルツハイマー病の“きざし”がわかる時代へ
気をつけて読みたいところ
- 上海の調査は一度だけ調べたものなので、「眠れない・不安だから頭の働きが落ちた」のか、「頭の働きが落ちてきたから、眠れない・不安になった」のか、どちらが先かは分かりません
- イギリスの調査は、時間を追っていますが、診断記録が中心です。病院にかかっていない人の不眠や不安は、拾いきれていない可能性があります
- 睡眠薬の種類や、機械で測った眠りのデータはありませんでした。薬の影響は、この研究からは分かりません
- 両方ある人には、うつのある人も多く含まれていました(研究では、うつの分もそろえて比べています)
睡眠薬を飲んでいるんですが、やめたほうがいいんでしょうか?
この研究からは、薬が良いのか悪いのかは分かりません。自己判断でやめると、かえって眠れなくなることもあります。気になるときは、必ず主治医に相談してくださいね。
いま、私たちにできること
- ☑ 「眠れない」と「不安」が両方続いていたら、ひとりで抱えない……かかりつけ医に相談しましょう。研究チームも「両方を一緒に見つけて、対処することが大切」と提案しています
- ☑ どちらか一方だけでも、つらければ相談を……両方が重なる前に手を打つことにもなります
- ☑ 眠りのリズムを整える……毎日同じ時刻に起きるなど、一般的な眠りの工夫は、過去の記事でも紹介しています(この研究で確かめたものではありません)
- ☑ 薬は自己判断で増やしたり、やめたりしない
眠りのリズムと認知症の関係は、こちらの記事もどうぞ。 👉 「何時間寝たか」より「毎日同じ時刻か」?
おわりに
眠れない夜も、心配ごとがある日も、誰にでもあります。今回の研究でも、どちらか一つだけでは、はっきりした関係は見られませんでした。
気をつけたいのは、はっきりした不眠と不安が、重なって続いているときです。そんなときは「年のせい」「性格だから」とがまんせず、早めに相談してみてください。
眠りと心の両方を大切にすることが、脳を守ることにもつながっているのかもしれません。
※睡眠薬や不安のお薬については、必ずかかりつけ医に相談してください。
参考にした情報
- Chen Y ほか「Synergistic association of insomnia and anxiety with cognitive impairment and dementia in older adults」Alzheimer’s & Dementia 2026年;22(9):e71853(上海の65,857人・イギリスの149,467人)
※ 本記事は、上記の論文をもとに、一般読者向けにわかりやすくまとめ直したものです。紹介した研究は観察研究(関係が見られたというもの)で、原因を証明したものではありません。診断や治療の代わりになるものではありません。