「帯状疱疹のワクチン、打ったほうがいいのかしら」
「役所から案内が届いたけれど、どうしよう」

そんなふうに迷っておられる方が、まわりにいらっしゃるかもしれません。

いま、この帯状疱疹のワクチンについて、「打った人は、認知症になる人が少なかった」という研究が、世界のあちこちから報告されています。

ただ、はじめにお伝えしておきたいことがあります。この記事は、ワクチンを勧めるためのものではありません。どんな研究が出ているのかを正確にお伝えして、かかりつけの先生と相談するときの材料にしていただくためのものです。

✅ アメリカで66歳以上 約51万人を4年間追いかけた調査で、ワクチンを打った人の認知症の割合は 18.8%、打っていない人は 24.6% でした

✅ イギリス・ウェールズの28万人の調査でも、同じ方向の結果(認知症の診断が約20%少ない)が報告されています

✅ ただし、いずれも「打ったから減った」と証明したものではありません。打つかどうかは、持病やお薬とあわせて、かかりつけの医師とご相談ください


目次

  1. 帯状疱疹って、どんな病気?
  2. 51万人の調査でわかったこと
  3. もうひとつの手がかり「自然の実験」
  4. なぜ、ウイルスと認知症がつながるの?
  5. ここは、慎重に見てください
  6. 日本では、いまどうなっている?
  7. 現場で感じていること
  8. いま私たちにできること
  9. おわりに

帯状疱疹って、どんな病気?

免疫力が下がっているイラスト

子どものころにかかった水ぼうそう。あのウイルスは、治ったあとも体からいなくなるわけではありません。神経のそばに、じっと隠れて眠っています

そして、年齢を重ねたり、疲れや病気で体の守る力(免疫)が弱まったりすると、眠っていたウイルスが目を覚まします。神経に沿って皮膚に出てくるのが、帯状疱疹です。

体の左右どちらかに、帯のように痛みと発疹が出るのが特徴で、ピリピリ、ズキズキとした強い痛みをともないます。

あなた あなた

発疹が治れば、それで終わりなのでしょうか。

Torapon Torapon

それが、そうとも限らないんです。発疹が治ったあとも痛みだけが長く残ることがあって、これを帯状疱疹後神経痛と呼びます。数か月から、ときには年単位で続く方もいらっしゃいます。帯状疱疹がやっかいなのは、この痛みの後遺症なんですね。


51万人の調査でわかったこと

ここからが本題です。近年、この帯状疱疹のワクチンと、認知症との関係を調べた研究が、次々と発表されています。

2026年6月、アメリカのブラウン大学の研究チームが、医学誌『Annals of Internal Medicine』に大きな調査結果を発表しました。

  • 対象は、アメリカの医療施設にいた 66歳以上の50万9926人
  • 4年間、認知症になるかどうかを追いかけた
  • 使われたのは、いま日本でも使える組換えワクチン(シングリックス)

その結果が、こちらです。

ワクチンを打った人と打っていない人の認知症の割合を比べた図

打っていない人の 24.6% に対して、打った人は 18.8%。差は5.8ポイント、割合にすると約24%低いという結果でした。研究チームは「およそ17人に1人の認知症を防げる可能性がある」と述べています。


もうひとつの手がかり「自然の実験」

ウイルスと戦う免疫細胞のイラスト

「たまたまそうなっただけでは?」と思われるかもしれません。実は、それを確かめるのにとてもよくできた研究が、2025年に科学誌『Nature』に発表されています。

舞台はイギリスのウェールズ。ここでは以前、「1933年9月2日以降に生まれた人はワクチンを打てるが、それより前に生まれた人は一生打てない」という、誕生日で区切る制度がありました。

あなた あなた

たった数日の差で、打てる人と打てない人に分かれてしまったのですね。

Torapon Torapon

そうなんです。そして研究者たちは、そこに目をつけました。生まれた日が1週間違うだけの人たちは、体質も暮らしぶりも、ほとんど同じはず。それなのに、ワクチンを打てたかどうかだけが違う。これなら「くじ引きで分けた実験」に近い形で比べられる、というわけです。

28万2541人を7年間追いかけた結果、ワクチンを打てた側では、認知症と診断された人が3.5ポイント少なく、割合にすると約20%低いという結果でした。とくに女性で、この傾向がはっきりしていました。

こちらは古いタイプの生ワクチンを使った研究です。種類の違うワクチンで、別々の国で、同じ方向の結果が出た——ここが、研究者たちが注目している理由です。


なぜ、ウイルスと認知症がつながるの?

しくみは、まだはっきりとはわかっていません。ただ、いくつかの考え方があります。

  • ウイルスが神経を傷つける……目を覚ましたウイルスは神経に炎症を起こします。それが脳にも影響するのではないか、という考え方です
  • 血管が傷む……帯状疱疹のあと、脳卒中や心筋梗塞が増えるという報告があります。血管の傷みは、認知症とも関わりの深いものです
  • ワクチンが免疫全体を整える……ウイルスを抑えるだけでなく、体の守るしくみそのものによい影響があるのではないか、という見方もあります

血管の状態が脳を守るという話は、こちらの記事でもお話ししています。
👉 認知症を防ぐ「血管と代謝」の整え方


ここは、慎重に見てください

大事なところなので、はっきり書いておきます。これらの研究は、「ワクチンを打てば認知症を防げる」と証明したものではありません。

  • 打つ人と打たない人は、もともと違う……ワクチンを打つ方は、健康に気を配っている方が多い傾向があります。研究チームはその影響を計算で取り除こうとしていますが、完全には取り除けません
  • 研究チーム自身が慎重……ブラウン大学のチームも「ワクチンが理由だと確実には言えない」と明言し、今後さらに検証が必要だとしています
  • 認知症を防ぐための薬ではありません……帯状疱疹ワクチンは、あくまで帯状疱疹を防ぐためのものです
あなた あなた

では、この研究はあまり意味がないということでしょうか。

Torapon Torapon

いいえ、そうではありません。別々の国で、種類の違うワクチンで、同じ方向の結果が出ているというのは、それだけで注目に値します。ただ、「だから打つべきだ」と一足飛びに結論を出すのは早い、ということなんです。もともと帯状疱疹そのものを防ぐ効果は、はっきりしているのですから、そこに「こんな研究もある」と一つ知識を足しておく——そのくらいの受け止め方が、ちょうどよいと思います。


日本では、いまどうなっている?

予防注射を受ける人のイラスト

日本では、2025年度(令和7年度)から、帯状疱疹ワクチンが定期接種になりました

対象になるのは、次の方です。

  • その年度に 65歳になる方
  • 60〜64歳で、HIVによる免疫の機能の障害があり、日常生活がほとんど不可能な方
  • 【経過措置】2025年度から2029年度までの5年間は、その年度に 70歳・75歳・80歳・85歳・90歳・95歳・100歳になる方も対象

つまり「65歳の人だけ」ではなく、5歳きざみで、5年かけて広く行き渡らせるしくみになっています。

ワクチンは2種類あり、生ワクチンは1回組換えワクチンは2か月以上あけて2回接種します。費用は自治体によって違いますので、お住まいの市区町村からの案内をご確認ください。

なお、定期接種として受けられるのは、対象になる年度の1年間だけです。案内が届いたら、まずは目を通してみてください。


現場で感じていること

理学療法士として現場に立っていると、帯状疱疹後神経痛に悩んでおられる方に出会うことがあります。

発疹はとうに治っているのに、服がふれるだけで痛む、夜も眠れない——そうして、体を動かすことそのものが減っていってしまう。痛みが、その方の生活を小さくしてしまうのを見るのは、つらいものです。

認知症との関係が話題になっていますが、私はまず、この痛みの後遺症を防げること自体が、大きな意味を持つと感じています。


いま私たちにできること

医師に相談するイラスト

  • 案内が届いたら、目を通す:対象の年度は1年だけです。まずは知ることから
  • かかりつけの医師に相談する:持病やお薬、これまでの経過によって、判断は一人ひとり違います。この記事ではなく、先生の判断が優先です
  • 費用と回数を確認する:自治体で異なります。2回接種のワクチンは、間隔もあわせて確認を
  • 早めに受診する:もし帯状疱疹が出たら、発疹が出てから早いほど、薬がよく効きます。「たかが湿疹」と様子を見ないでください
  • 体の守る力を落とさない:睡眠、栄養、適度な運動。ウイルスが目を覚ますきっかけは、疲れや体調の崩れです

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おわりに

ワクチンの話は、どうしても「打つべきか、打たざるべきか」という話になりがちです。でも、そこを決めるのは、この記事ではありません。あなたと、あなたのかかりつけの先生です。

私にできるのは、いまどんな研究が出ているのかを、できるだけ正確にお伝えすることだと思っています。

51万人の調査と、28万人の「自然の実験」。どちらも、同じ方向を指していました。それでもなお、研究者たちは「まだ確実とは言えない」と慎重です。その慎重さも含めて、お伝えしたいと思いました。

案内の封筒が届いたら、そのまま引き出しにしまわず、ひとこと先生に聞いてみてください。
「これ、私は打ったほうがいいでしょうか」——それだけで、じゅうぶんです。


参考にした情報

  • Hayes, K. ら(ブラウン大学公衆衛生大学院ほか)『Annals of Internal Medicine』2026年6月発表。米国の66歳以上 509,926人を対象に、組換え帯状疱疹ワクチン(RZV)接種者と非接種者の4年間の認知症発症を比較(Target trial emulation という手法)。接種者18.8%、非接種者24.6%
  • Eyting, M. ら『Nature』2025年(doi:10.1038/s41586-025-08800-x)。ウェールズの「1933年9月2日生まれ」という接種資格の境界を利用した自然実験(回帰不連続デザイン)。282,541人・7年で、認知症の新規診断が3.5パーセントポイント(相対約20%)少なかった。対象は生ワクチン(Zostavax)
  • 厚生労働省「帯状疱疹ワクチン」(定期接種の対象者・経過措置・ワクチンの種類と接種回数・副反応について)
  • ※上記の研究はいずれも観察研究であり、ワクチンと認知症の因果関係を証明したものではありません
  • ※接種の可否は、持病・服薬・体調によって異なります。必ずかかりつけの医師にご相談ください。 この記事は一般的な情報提供であり、個別の診断・治療に代わるものではありません