「認知症になる確率が何パーセント上がります」

こういう言い方を、健康の話題でよく見かけます。私も仕事柄、たくさん目にしてきました。ただ、正直に申し上げると、パーセントで言われても、自分の生活とどうつながるのかが、なかなか実感できません

ところが2026年8月、少し変わった角度から書かれた報告が出ました。確率ではなく、認知症にならずに過ごせた年数 で見た、という研究です。

年数で言われると、急に、身近な話に感じられます。

✅ アメリカの12,409人を およそ26年間 追いかけた研究で、55歳の時点で高血圧・糖尿病・喫煙のどれにも当てはまらなかった人 は、95歳までのうち、認知症にならずに過ごせた年数が 30.1年 でした

✅ 一方、3つとも当てはまった人は17.5年 。0個の人と3個の人では、12.6年の開き がありました

✅ ただしこれは アメリカのデータ で、原因と結果を証明した研究ではありません 。しかも、この年数には「早くお亡くなりになった方の分」も混ざっています。ここは正直にお伝えします

認知症にかかわる要因の全体像は、こちらの記事にまとめてあります。 👉 認知症を防ぐ「血管と代謝」の整え方 〜数字で見える7つの危険因子〜


目次

  1. 確率ではなく年数で考えるという発想
  2. どんな研究だったのか
  3. 中年期の3つとは高血圧と糖尿病とたばこ
  4. 55歳の時点で何が見えたのか
  5. 正直に書いておきたいこの研究の弱いところ
  6. もう手遅れという意味ではありません
  7. 理学療法士として現場で思うこと
  8. いま私たちにできること
  9. おわりに
  10. 参考にした情報

確率ではなく年数で考えるという発想

たとえば「認知症になる可能性が2倍になります」と言われたとします。

そう言われても、多くの方はこう思うのではないでしょうか。もともと何パーセントだったのか。2倍になると、自分の生活は具体的にどう変わるのか。

今回ご紹介する研究チームは、その伝わりにくさを分かっていたようです。だから、こういう出し方をしました。

55歳のあなたは、これから何年、認知症にならずに過ごせそうか。

同じデータを見ていても、こう言われると、頭に絵が浮かびます。55歳から30年なら85歳。17年なら72歳。自分の家族や、自分がやりたいことを、その年齢に当てはめて考えられます。

「将来」と考えながら、これからの計画を書いている男性のイラスト

あなた あなた

たしかに、パーセントより年数のほうが、ぴんときますね。

Torapon Torapon

そうなんです。研究者の方たちも、そこを狙ったのだと思います。ただ、分かりやすい数字ほど、後ろにある注意書きが飛ばされやすい という弱点もあります。この記事では、その注意書きのほうも、きちんと書いていきますね。


どんな研究だったのか

報告したのは、中国の清華大学のJiaqi Hu先生ら の研究チームです。2026年8月5日、アメリカ神経学会が出している医学誌 Neurology Open Access に、オンラインで公開されました。

使われたのは、アメリカで長年続いている ARIC研究 という大きな調査のデータです。ARICは「Atherosclerosis Risk in Communities」の略で、日本語にすると「地域住民における動脈硬化の調査」という意味になります。

数字を並べると、こうなります。

項目 内容
参加した人数 12,409人
調査を始めたときの平均年齢 56.2歳
女性の割合 56.0%
追いかけた期間 中央値でおよそ26.3年(1990〜92年に開始し、2022年まで)
期間中に認知症になった人 3,008人
期間中に認知症にならないまま亡くなった人 5,238人

中央値 … 全員を短い順に並べたとき、ちょうど真ん中に来る人の値のことです。平均値と違って、極端に長い人や短い人に引っぱられにくい数字です。

30年近くにわたって、1万人以上を追いかけ続けた調査です。これだけ長く人を追った研究は、そう多くはありません。そこは、この研究の強みです。


中年期の3つとは高血圧と糖尿病とたばこ

研究チームが注目したのは、中年のころの3つの状態 です。

健康診断で血圧を測ってもらっている女性のイラスト

① 高血圧

血圧が高い状態が続くと、脳の奥にある細い血管が、少しずつ傷んでいきます。目に見えないほど小さな詰まりやもれが積み重なることが、考えるスピードがゆっくりになる一因になると考えられています。

② 糖尿病

血糖(けっとう=血液の中のブドウ糖)が高い状態が続くことでも、同じように血管が傷みます。あわせて、脳の神経細胞そのものにも負担がかかると言われています。

③ 喫煙

たばこの煙に含まれる成分は、肺から血液に入り、体じゅうを巡ります。血管を縮ませ、傷つける働きがあります。

なお、この研究で数えたのは、調査の時点でたばこを吸っていた人 です(本人の申告)。以前に吸っていてやめた人は、当てはまらない側に入っています。

この3つは、以前ご紹介した ランセット委員会の14の要因 にも、そろって入っているものです。今回の研究は、そのうち中年期に測りやすい3つを取り出して、「年数」に置き換えてみた、という位置づけになります。

14の要因の全体像は、こちらでまとめています。 👉 日本人の認知症、約4割は予防できる 〜カギは「難聴」と「運動不足」〜

あなた あなた

どれも、健康診断でよく言われるものばかりですね。

Torapon Torapon

はい。目新しいものは一つもありません。むしろ、そこがこの研究の要点 だと私は思っています。健康診断で毎年見ている血圧と血糖の数字、そしてたばこを吸っているかどうか。たったこれだけの違いで、95歳までに認知症にならずに過ごせた年数に、最大で12.6年もの開きが出ていた わけですから。


55歳の時点で何が見えたのか

ここが、この記事の中心です。

研究チームは、55歳の時点でこの3つがいくつ当てはまるか で参加者を分け、そこから、55歳から95歳までの40年間のうち、平均して何年を認知症にならずに過ごせたか を計算しました。結果はこうでした。

55歳の時点で高血圧・糖尿病・たばこのうち当てはまった数が0個なら30.1年、1個26.3年、2個21.0年、3個17.5年と、95歳までに認知症にならずに過ごせた年数が短くなることを示した横棒グラフ

55歳の時点で当てはまった数 95歳までに、認知症にならずに過ごせた年数
0個(3つとも当てはまらない) 30.1年
1個 26.3年
2個 21.0年
3個(3つとも当てはまる) 17.5年

0個の人と3個の人では、12.6年の開きがありました。

1つ増えるごとに、階段を降りるように短くなっていく形です。0個から1個で3.8年、1個から2個で5.3年、2個から3個で3.5年、それぞれ短くなっています。

もうひとつ、この研究では 3つとも当てはまった人は、3つとも当てはまらなかった人と比べて、認知症になりやすさが2.69倍 と計算されています。そして、認知症になる前に亡くなりやすさは、さらに大きく5.61倍 でした。この5.61倍の意味は、あとの「弱いところ」でお話しします。

背すじを伸ばして歩くおじいさんのイラスト

この記事で統計の数字が出てくるのは、ここまでです。 以降は、これらの数字をどう受け取ればいいか、という話になります。


正直に書いておきたいこの研究の弱いところ

数字がきれいに並んでいるときほど、いったん立ち止まる必要があります。この研究には、はっきり書いておかなければならない注意点が4つあります。

① これは観察研究であって、原因と結果を証明したものではありません

この研究は 前向きコホート研究 という形のものです。たくさんの人を先に集めて、その後を長く追いかけて、何が起きたかを記録していく方法です。人間を対象にした研究としては、信頼度の高いやり方のひとつです。

ただし、これで分かるのは「そういう傾向があった」ということまでです。「高血圧だったから認知症になった」と証明したわけではありません。

たとえば、こういう可能性が残ります。中年のころに高血圧や糖尿病がある方は、同時に、体を動かす機会が少なかったり、経済的に余裕がなかったり、ほかの持病を抱えていたり することも多いものです。年数を短くしていた本当の理由が、そちらにあった可能性は消せません。

② これはアメリカのデータです

参加者はアメリカの地域住民です。食事も、医療のかかり方も、たばこの吸われ方も、日本とは違います。日本人にそのまま当てはまる数字だとは考えないでください。 「日本人なら30.1年です」とは、この研究からは言えません。

③ ここがいちばん大事です。年数には、早くお亡くなりになった方の分が混ざっています

追跡した期間のうちに、認知症にならないまま亡くなった方が5,238人 いらっしゃいました。認知症になった3,008人より、多い人数です。

「認知症にならずに過ごせた年数」という言い方をすると、その年数が終わったあとに認知症になったように聞こえます。でも実際には、その年数の一部は、認知症になる前にお亡くなりになったことで終わっています

つまり、3つとも当てはまる人の17.5年という数字は、「17.5年たったら認知症になる」という意味ではありません。「認知症にならずにいられた期間が、平均するとそこまでだった」という意味です。高血圧・糖尿病・喫煙は、心臓の病気や脳卒中、がんとも深く関わっていますから、年数が短くなった分には、寿命そのものが短くなった分が含まれています 。先ほどの、認知症になる前に亡くなりやすさが5.61倍 という数字が、そのことを表しています。

ここを混同すると、この研究をまったく違う意味に読んでしまいます。

④ 3つを調べたのは、1990〜92年の1回だけです

高血圧・糖尿病・たばこを調べたのは、1990〜92年の調査の1回だけ です。いまから30年以上前で、しかも、その後に治療を始めたり、たばこをやめたりした変化は、数字に入っていません。研究チーム自身も、これを弱いところとして挙げています。当時と現在では、血圧の薬も、糖尿病の治療も、大きく変わりました。当時の高血圧と、いまの高血圧では、その後にたどる道が同じとは限りません。

あなた あなた

なんだか、読めば読むほど、この数字を信じていいのか分からなくなってきました。

Torapon Torapon

そう感じていただけたなら、この記事は役に立っています。数字そのものを暗記する必要はありません。 持ち帰っていただきたいのは、「中年のころの血圧・血糖・たばこは、その後の長い時間にかかわっていそうだ」という方向だけです。年数の細かいところは、正直、日本人にそのまま当てはめられません。


もう手遅れという意味ではありません

この記事を読んでくださっている方の多くは、すでに55歳を過ぎていらっしゃると思います。

だから、こう思われた方がいるかもしれません。「もう55歳は過ぎてしまった。いまさら言われても遅い」と。

ここは、はっきり書いておきます。

この研究は、中年期に1回だけ調べた状態をもとにした研究です。その後にたばこをやめた人、血圧の薬を飲みはじめた人、血糖を整えた人が、その後どうなったかを調べた研究ではありません。

つまり、この研究は「55歳を過ぎたら何をしても変わらない」とは、一言も言っていないのです。言っていないことを、読み取らないようにしましょう。

そして、別の研究からは、年齢を重ねてからでも手はある ことが分かっています。血圧を整えることも、禁煙することも、体を動かすことも、何歳から始めても体に良い方向に働くことが、たくさんの報告で示されています。

禁煙を思い浮かべながら、腕にニコチンパッチを貼る男性のイラスト

私が現場で見てきた範囲でも、50代、60代で禁煙された方、歩く距離が伸びた方は、たくさんいらっしゃいます。「もう遅い」と言って、いま手が届くものまで手放してしまうことのほうが、私はもったいないと思います。

あなた あなた

70代からでも、意味がありますか。

Torapon Torapon

あります。ただし、期待の置きどころは変えたほうがいい とも思っています。60代70代から始めることで、認知症を完全に防げるかは分かりません。でも、歩ける距離、息切れのしにくさ、転びにくさ といったところは、始めた方から確実に変わっていきます。そちらは、私が毎日見ているものです。


理学療法士として現場で思うこと

理学療法士が、横になった人の脚を動かしてリハビリをしているイラスト

リハビリの現場にいると、患者さんのカルテを見る機会が多くあります。

そこで気づくのは、脳卒中で運ばれてきた方の記録には、たいてい、何十年も前からの高血圧や糖尿病の記載が並んでいる ということです。その方が50代だったころの数字が、いま目の前にある体につながっている。そう感じる場面は、少なくありません。

もうひとつ思うのは、中年のころは、自覚症状がほとんどないこと です。血圧が高くても、血糖が高くても、痛くもかゆくもありません。だから後回しになります。

今回の研究がしてくれたのは、その「痛くもかゆくもない数字」を、認知症にならずに過ごせる年数という、自分の人生に当てはめて考えやすい形 に置きかえてくれたことだと思います。それだけでも、意味のある仕事だと感じました。


いま私たちにできること

難しいことは書きません。順番に、ひとつずつで大丈夫です。

  • 今年の健診の結果を、もう一度出してみる 。血圧と血糖の欄だけで構いません
  • ☑ 高いと言われたことがあるなら、放置せず、一度かかりつけの先生に相談する 。薬を飲むかどうかは、そこで決めれば十分です
  • たばこを吸っている方は、禁煙外来という選択肢があります 。自力でやめられなかった経験があっても、それは意志の問題ではありません
  • 55歳を過ぎたからと、あきらめない 。この研究は、その後にやめた人・治した人を見ていません
  • ☑ お子さんや、まだ40代50代のご家族がいらっしゃるなら、この話を伝えてあげてください 。いちばん効くのは、その年代の方です
  • ☑ 数字を覚えようとしない。「中年の血圧・血糖・たばこは、後々まで響くらしい」。それだけ持ち帰れば十分です
  • ☑ 不安になったら検索を止めて、次の受診で先生に聞く。ネットで不安だけを持ち帰らない

おわりに

「認知症にならずに過ごせた年数」という見方は、私にとって、新しい受け取り方でした。

パーセントは、頭には入っても、体には入ってきません。でも年数は違います。30年と17年。その開きに、これから行きたい場所や、まだやっていないことを、当てはめられてしまう からです。

ただ、繰り返しになりますが、この数字はアメリカのもので、原因を証明したものでもなく、しかも「認知症にならないうちに亡くなった」という重い事実を含んでいます。きれいな数字ほど、そのまま持ち歩かないほうがいい。 それが、この研究をひととおり読んでの、私の正直な感想です。

そのうえで、残るものは、たぶんこれだけです。

血圧を測る。血糖を見る。たばこをやめる。

新しくもなければ、面白くもない3つです。でも、30年近く1万人を追いかけて出てきた答えが、結局この3つだったということには、それなりの重みがあると思っています。

そして、55歳を過ぎた私たちにできることも、まだ、ちゃんと残っています。


参考にした情報

  • Hu J, Coresh J, Smith JR, ほか「Midlife vascular risk burden and dementia-free survival years: The Atherosclerosis Risk in Communities Neurocognitive Study」『Neurology Open Access』2026年8月5日オンライン公開(米国ARIC研究のデータ解析)
  • アメリカ神経学会(AAN)のプレスリリース、2026年8月5日 https://www.prnewswire.com/news-releases/avoiding-three-things-during-middle-age-is-linked-to-13-more-years-without-dementia-302844142.html
  • ケアネットによる上記研究の日本語解説記事、2026年(※医療者向け・会員登録が必要) https://www.carenet.com/news/general/carenet/63456
  • Medscape「Three Midlife Risk Factors Linked to Earlier Dementia Onset」2026年(上記研究の英語解説記事)
  • ランセット委員会報告:Livingston G, et al. Lancet . 2024;404:572-628.(14の要因の全体像)

※この記事は一般的な情報提供を目的としたものです。血圧・血糖の数値やお薬については、お一人おひとりで事情が異なります。気になる数字があるときは、自己判断せず、かかりつけの先生にご相談ください。 また、この記事で紹介した年数は米国のデータにもとづくもので、日本人にそのまま当てはまるものではありません。