「最近、ペットボトルのふたが開けにくい」「歩くのが、前より遅くなった気がする」。

ご自分のことでも、離れて暮らす親のことでも、そんな小さな変化に気づいたことはありませんか。

こうした体の弱りは「フレイル(虚弱)」と呼ばれます。そして最近、体が弱っていく人は、頭の働きも落ちやすいことを示す研究が、いくつか出てきました。

今回は、「悪くなったとき」と「戻ったとき」に注目した研究を3つ、短くご紹介します。

✅ 元気な状態からフレイルの側へ悪化した人は、元気なままの人にくらべて、頭の働きの落ち方が少し速いという結果でした

✅ 一方、フレイルの手前から元気に戻った人は、手前のままの人にくらべて、認知症になった人が約4割少なかったという研究もあります

✅ ただし、体を鍛えるだけで頭も守れる、とまでは言えません。くじ引きで調べた試験では、運動に「頭を使う」「食べる」を組み合わせたほうがよさそうでした


目次

  1. そもそも「フレイル」とは?
  2. 悪化すると、頭の衰えも少し速い
  3. 手前から戻った人は、認知症が少なかった
  4. 運動だけで、頭も守れるの?
  5. 現場で感じていること
  6. いま、私たちにできること
  7. おわりに
  8. 参考にした情報

そもそも「フレイル」とは?

フレイルとは、元気な状態と、介護が必要な状態の「あいだ」のことです。日本語では「虚弱」と訳されます。

日本では、次の5つのうち、3つ以上当てはまるとフレイル、1〜2つならフレイルの手前(プレフレイル)と考えます(日本版CHS基準・2020年改定)。

チェック項目 目安
体重が減った 6か月で2kg以上、意図せずに減った
握力が弱い 男性28kg未満、女性18kg未満
疲れやすい ここ2週間、わけもなく疲れたような感じがする
歩くのが遅い 1秒に1m未満(横断歩道を青のうちに渡りきれないくらい)
体を動かしていない 軽い運動・体操も、定期的な運動・スポーツも、週1回もしていない

元気・フレイルの手前・フレイルの3段階を、悪くなる矢印と戻れる矢印で結んだ図

あなた あなた

いくつか当てはまるかも……。もう手遅れでしょうか?

Torapon Torapon

いいえ。フレイルのいちばん大事な特徴は、「戻れることがある」ところなんです。だからこそ、早めに気づくことに意味があります。


悪化すると、頭の衰えも少し速い

2026年9月に、中国・イギリス・アメリカの約2万人を合わせて調べた研究が発表されました(学術誌『Alzheimer’s & Dementia』)。

フレイルの状態を2年あけて2回測り、その後数年間、頭の働き(記憶・今日の日付などの見当識・段取りする力)を追いかけています。

  • はじめからフレイルやその手前だった人は、元気な人にくらべて、頭の働きが少しずつ速く落ちていました
  • 元気な状態からフレイルの側へ悪化した人も、元気なままの人にくらべて、同じように少し速く落ちていました

ただし、この研究には注意点が2つあります。

  1. ここでの「フレイル」は、筋力ではなく、持病・症状・生活の不自由・気分の落ち込みなど、健康の問題がいくつ重なっているかで測ったものです
  2. フレイルが良くなった人で、頭の衰えがゆるやかになったかは、はっきりしませんでした。研究者自身も「フレイルを改善すれば頭が守られる、とは示していない」と書いています

手前から戻った人は、認知症が少なかった

もうひとつ、体の弱りで測った研究があります(上の表のような項目で見る海外の物差しを、少し変えたものです)。2026年に発表された、60歳以上の約1万6千人を合わせて調べた研究です(学術誌『Journal of Advanced Research』)。

こちらも、フレイルの状態を2回測って、その「変化」と認知症の関係を見ています。

フレイルの変化 くらべた相手 認知症になった割合
元気 → 手前・フレイルに悪化 元気なままの人 約1.6倍
手前 → フレイルに悪化 手前のままの人 約1.9倍
手前 → 元気に戻った 手前のままの人 約0.6倍(約4割少ない)
あなた あなた

戻った人は、認知症が少なかったんですね!

Torapon Torapon

はい、希望のある数字だと思います。ただ、これも「そういう関係が見られた」という研究です。もともと元気になりやすい事情があった人が戻っただけ、という可能性も残ります。「戻せば認知症を防げる」とまでは言えない、というところは押さえておいてください。


運動だけで、頭も守れるの?

では、フレイルは本当に戻せるのか。戻すと、頭の働きはどうなるのか。

これをくじ引きで調べた試験が、シンガポールにあります。フレイルとその手前の高齢者(平均70歳)約250人を、5つの組に分けて半年間、取り組んでもらいました。

  • 栄養(栄養補助食品)の組
  • 運動の組
  • 脳トレの組
  • 全部セットの組
  • いつもどおりの組

1年後、フレイルが良くなった人は、いつもどおりの組で15%。取り組んだ組では36〜48%でした。とくに運動の組と、全部セットの組で効果が大きく、運動の組では歩く速さも改善しました。

ところが、頭の働きを見ると、話は少し違いました。

  • いちばん伸びたのは、脳トレの組
  • 全部セットの組も、1年後に伸びていました
  • 運動だけの組では、頭の働きにはっきりした効果は見られませんでした
あなた あなた

えっ、運動は頭に効かないんですか?

Torapon Torapon

「効かない」と決まったわけではありません。250人ほどの、半年間の試験の結果です。ただ、体を戻すには運動、頭を守るには「頭を使う」「食べる」も組み合わせる。そう考えておくのが、いまの研究にいちばん合っていると思います。

運動・食事・脳トレ・仲間づくりを組み合わせる研究は、こちらでも紹介しています。 👉 ひとりで頑張るのと、支えのある形で続けるのと


現場で感じていること

地域の活動に参加されている方には、比較的お元気な方が多いと感じます。ただ、その中でも、年齢とともに痩せてきて、歩くのが大変になってきた方は、認知機能も低下している印象があります。

もちろん、これは私が現場で見てきた印象です。体の弱りが先なのか、頭の衰えが先なのかまでは、私にも分かりません。ただ、今回の研究を読んで、その印象と重なるところがありました。


いま、私たちにできること

  • ☑ 年に1〜2回、同じ物差しで測る……握力、横断歩道を渡りきれるか、体重。1回の数字より、前回からの変化を見てください
  • ☑ 「手前」のうちに動き出す……5つのうち1〜2つ当てはまる段階が、いちばん戻しやすい時期です
  • ☑ 運動に、頭と食事を組み合わせる……歩く・筋トレに加えて、人と話す・新しいことを覚える・たんぱく質をとる
  • ☑ 離れて暮らす親の「変化」に気づく……電話の声の元気さ、外出の回数、体重。帰省のたびに同じところを見ておくと、変化に気づきやすくなります

🤝 握力を、家で測っておきたい方へ

握力は、フレイルのチェック項目のひとつで、家でも測れます。同じ時間帯・同じ姿勢で、年に数回測ると、変化に気づきやすくなります。

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握力計(Amazon・楽天で探す)

デジタル表示のものが読み取りやすく、おすすめです。数字は体格や測り方で変わるので、ほかの人とくらべるより、ご自分の「前回」とくらべる使い方をしてください。

🏋️ 体を動かす習慣をつけたい方へ

「一人ではなかなか続かない」「自分のペースで通いたい」という方は、ジムを利用するのもひとつの方法です。

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24時間いつでも通える、フィットネスジム。早朝でも夜でも、自分の生活リズムに合わせて体を動かせます。「決まった時間に通うのはむずかしい」という方の、運動を続けるきっかけに。

※持病のある方、体重が急に減っている方は、運動を始める前に、かかりつけ医にご相談ください。

握力と脳の関係は、こちらの記事でも取り上げました。 👉 「にぎる力」が、脳を守る?


おわりに

体の弱りと、頭の衰え。どちらも、ある日いきなり来るものではなく、少しずつ進むものです。

今回の研究からわかったのは、悪くなる方向の変化には、頭の衰えもついてきやすいこと。そして、フレイルの手前の段階なら、元気に戻れる人がいることでした。

「体を鍛えれば頭も大丈夫」とまでは、まだ言えません。それでも、体の変化に早めに気づいて、体と頭と食事を一緒に整えていく。それが、いまの研究から言える、いちばん確かな道すじだと思います。


参考にした情報

  • Wang X ほか「Dynamic frailty exposure and cognitive aging trajectories: A multicohort study」Alzheimer’s & Dementia 2026年;22(9):e71821(中国・イギリス・アメリカの19,586人)
  • Ding Y ほか「Longitudinal dynamics in frailty and incident all-cause dementia: a multicohort study」Journal of Advanced Research 2026年;88:855-865(60歳以上15,897人)
  • Ng TP ほか「Nutritional, Physical, Cognitive, and Combination Interventions and Frailty Reversal Among Older Adults: A Randomized Controlled Trial」American Journal of Medicine 2015年;128(11):1225-1236
  • Ng TP ほか「Cognitive Effects of Multi-Domain Interventions Among Pre-Frail and Frail Community-Living Older Persons: Randomized Controlled Trial」Journals of Gerontology: Series A 2018年;73(6):806-812
  • Satake S, Arai H「The revised Japanese version of the Cardiovascular Health Study criteria (revised J-CHS criteria)」Geriatrics & Gerontology International 2020年;20(10):992-993

※ 本記事は、上記の論文をもとに、一般読者向けにわかりやすくまとめ直したものです。紹介した研究の多くは観察研究(関係が見られたというもの)で、原因を証明したものではありません。体調に不安のある方は、かかりつけ医にご相談ください。